研究テーマ

モノと向き合う

年明け早々の清々しい気分も、そろそろ薄れかけてくるこの時期。年末の大掃除ですっきり片付いたはずの家の中が、また普段モードに戻り、散らかってきたという方も多いのではないでしょうか。外出もおっくうになりがちな寒い時期だから、いっそ視線を内側に向けて、家の中を再点検してみるのもよさそうです。いまあるモノに向き合い、見つめ直すことで、自分にとって本当に大切なモノは何かが見えてくるかもしれません。

必要なモノは?

『365日のシンプルライフ』というフィンランド映画があります。失恋をきっかけに、ある青年が自分の持ちものすべてをリセットしようとして行なった365日の「実験」生活を、そのまま映画にしたドキュメンタリー。物語は、部屋にあったモノ全部を近所の倉庫に運び込むところから始まります。倉庫から持ち出せるのは1日に1個だけ。食材以外は何も買わないというルールを自分に課して、1年間生活してみた記録です。毎日、倉庫からモノをひとつ選ぶたびに、「自分にとって今、必要なモノは何か?」を考える。それはつまり、「幸せになるために人生で大切なものは何か?」と自分自身に問い続けることでもありました。
2013年のフィンランドでの映画公開時には、多数の"実験"フォロワーが生まれるなど、若者の間で一大ムーブメントになったといいます。

クリーニングデイ

こうしたシンプルライフに共感する人の多いフィンランドでは、その実践のひとつとして、2012年から年2回、「クリーニングデイ」が開催されています。自分にとって不要なものをフリーマーケットに出して必要とする人に手渡す、リサイクル・カルチャー・イベントです。「リサイクルのハードルを下げる」「地域交流」を目的とし、オフィシャルサイトに登録すれば、誰でもどこでもフリーマーケットを開くことができる仕組み。参加会場数はフィンランド国内で4,500以上にものぼる人気イベントになっているといいます。
その日本版が、2014年にスタートした「クリーニングデイ・ジャパン」。こちらは、フィンランドの基本コンセプトを踏まえながら、モノを再利用するリユースやリサイクルだけでなく、古い不要なモノに新しい価値や有用性を見出す「アップサイクル・マーケット」を目指し、北海道から沖縄まで活動を全国に広げています。

小さなクリーニングデイ

多くの人を巻き込んだイベントとして広まっていく大がかりなクリーニングデイがある一方で、自分の手の届く範囲で個人的に小さなクリーニングデイを実践する動きもあります。あるお宅を会場に昨年12月に開かれたのは、「1.47m²arket」と名づけられた、小さなフリーマーケット。
そのご案内には「何か自分でできて且つ大掛かりでないこと。我が家のダイニングテーブルの上だけに、愛着があって誰かに次を託したいものを並べてみようかと考えました」とあります。ダイニングテーブルの広さが1.47m²あるところから、「1.47m²arket」。「その場でリサイクルやリユースのこれからを、いろいろな人とシェアしたい」という思いは、もちろんクリーニングデイを意識したものであり、それを自分のできるところから、まずは親しい人との間で実践しようとする試みです。

モノのストーリーを聞きながら

当日は、参加者それぞれが都合のよい時間にそのお宅をめざしました。玄関のドアには、手作りのリースに添えられた小さな看板。一日店長として来訪者を迎えるのは、そのお宅の愛犬です。そこに並んだモノたちは、小さなアクセサリーからグラス、テーブルウエア、キッチン用品、帽子、マフラー、バッグまで。「これは、あのときの旅行で買ったもの」「この帽子は寒い国に行ったとき、間違えて同じものを二つ買ってしまって」…ひとつひとつのモノのストーリー(まさに、物語り)を聞きながら選ぶ楽しさは、フリーマーケットならではのものです。会場の片隅には、その趣旨に賛同したお茶屋さんがおいしい緑茶をふるまうコーナーも。一服のお茶を楽しみながら、知らない人同士も会話が弾みます。

モノを通して人とつながる

誘い合わせて行った人は別にして、ひとりで参加した人にとっては知らない人ばかりの会場ですが、マーケットの雰囲気のなかでは誰もがごく自然に打ち解けていきます。「このグラス、いいですねぇ」「あ、そのマフラーすごく似合ってますよ」と見知らぬ人同士が声をかけ合う場面も。「これは、あの人に似合いそう」とつぶやきながら帽子を買い求めた人は、後日、プレゼントした相手が帽子を被った写真を送ってきたとか。愛着のあるモノを次の人に託し、買い求めた人は前の持ち主の愛着も一緒に受け取っていく。モノの命を最大限に生かしながら、モノを通して人と人のつながりが生まれていくのがわかります。

モノをたくさん持つことによって豊かさを競う時代は終わりました。それだけに、大切なことは「自分にとって」本当に大切なモノを見極めること。そしてモノを手放すときも、「処分する」という感覚ではなく、「次の人に託す」という気持ちを持つことなのかもしれません。
この一年、みなさんは自分の暮らしのなかにあるモノたちと、どんなふうに向き合っていかれますか?

研究テーマ
生活雑貨

このテーマのコラム