研究テーマ

髪をプレゼントする

2月14日はバレンタインデー、好きな人に愛を告白する日です。ふつうプレゼントするのはチョコレートですが、今回は、あなたのだいじな髪の毛をプレゼントしませんかというご提案です。プレゼントする先は、病気や事故などで髪が抜け落ちてしまった子どもたち。脱毛に苦しむ子どもに、人毛でできたウィッグを寄付する「ヘアドネーション」。アメリカで始まった活動ですが、いま日本でも広がりを見せています。

始まりはアメリカから

アメリカでヘアドネーションの活動を広げていったのは「Locks of Love」というNPO団体。今から20年余り前の1997年、マドンナ・コフマンさんという看護師が始めました。「Locks of Love」のホームページによると、マドンナさんはご自身が20代のときに肝炎の予防接種で脱毛症になり、髪の毛を失ったとか。その後は薬によって回復しましたが、それから15年後に、今度は彼女の4歳のお嬢さんが脱毛症を発症したそうです。「自分のときも辛かったけど、娘のときはその10倍も辛い」と思ったマドンナさんは、すべての仕事を辞め、「Locks of Love」の活動に専念するようになりました。
「Locks of Love」は原則として性別・年齢・人種・国籍・髪の色などを問わず、全世界の人から毛髪の寄付を受け付けます。条件はただひとつ、髪の長さが10インチ(25.4cm)以上あること。ひとつのウィッグを作るのに20~30人分の毛髪が必要なので、寄付する人数は多ければ多いほどいいのです。マドンナさんの活動はたちまち全米に広がり、提供されるヘアピースの数は増えつづけているそうです。

日本での取り組み

日本でも2009年にNPO法人「JHD & C(ジャーダック)」が発足し、ヘアドネーションの活動を広めています。「ジャーダック」も小児ガンや無毛症、先天性の脱毛症、事故などで髪の毛を失った子どもたちに、医療用ウィッグを提供し、笑顔を取り戻してもらう活動をしています。ところで、「ジャーダック」のホームページを見ると、この活動にはより深い理念のあることが分かります。一つは、「寄付に象徴される人々の助け合いや社会文化のために、この活動を定着させていきたい」ということ。そして、もう一つは「必ずしもウィッグを必要としない社会」の実現です。
ウィッグを寄付するのに「ウィッグを必要としない社会」を実現したいとはどういう意味でしょう。先を読むと「ウィッグを身につけなくても、電車の中でジロジロと見られない社会。いろんな髪型が個性として認められているように、"髪がない"ことも1つの個性として受け入れられる、そんな成熟した社会」とありました。なるほど、「ダイバーシティ」「多様性の大切さ」など、耳障りのいい言葉が踊るわりには、なかなか社会から差別やいじめがなくなりません。本当に必要なのは、失った毛髪を隠すためのウィッグではなく、「毛髪を失ったことを隠さなくてもいい社会」ではないかという、深い問いかけがこの活動の奥にあるのです。

高校生たちの取り組み

2018年1月24日付のYOMIURI ONLINE にこんな記事が載っていました。「女子高生、髪の寄付募る…少女にウィッグ寄贈へ」。この寄付活動を始めたのは群馬県太田市の私立小中高一貫校「ぐんま国際アカデミー(GKA)」などの女子高生たち。発起人となった女子生徒は、4年前にテレビでヘアドネーションのことを知り、髪を伸ばし始めて、高校1年の春にカットして寄付したそうです。そして、「できれば同じ世代の子にウィッグを贈りたい」と思い、友だちと一緒に「女子高生ヘアドネーション同好会」を設立。ツイッターを開設して呼びかけたところ、全国から約40名分の毛髪の寄付が集まりました。そして、大手のかつらメーカーが彼女たちの思いに賛同し、寄付された髪で医療用のウィッグを作ってくれました。記念すべき最初のウィッグは、群馬県内の病院に入院する11歳の女の子に贈られることになっています。

「ジャーダック」によると、いま日本国内では、毎年およそ3,000人の子どもが小児がんに罹っているそうです。薬や治療法の進歩により、がんは「治る病気」になりつつありますが、それでも放射線や抗がん剤の影響で脱毛する人は多いとか。一般にウィッグというと大人の女性向けがほとんどで、小児用のものは少なく、あったとしても化繊やアクリル製だそうです。こういう簡易なウィッグは着用すると分かるため、いじめや不登校の原因になり、学校復帰をためらう子も少なくありません。オーダーメイドの医療用ウィッグもありますが、たいへん高価なうえに、「見た目を整えるためのもの」であるために健康保険が適用されません。がんにかかった子どもと家族は、「脱毛」というもうひとつの悩みを抱えることになるのです。

ひと昔前まで「髪は女の命」と言われ大切にされてきましたが、今は気分を変えるためにバッサリと切る人も少なくありません。ふと「髪型でも変えようかな」と思ったら、ぜひ、ヘアドネーションのことを思い浮かべてみてください。全国には「ジャーダック」に賛同する「ドネーションサロン」が2,500軒以上もあります。あなたが切った髪の毛で、救われる子どもたちがいるのです。

参考サイト:Japan Hair Donation & Charity(ジャーダック)

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