研究テーマ

健康のかなめ「腎臓」

物事の要所となる大切な部分を「肝腎かなめ」などといいますが、最近の研究で、「腎臓」という臓器がまさに全臓器の「かなめ」としての役割を果たしていることが分かってきました。また、日本人は世界的に見て腎臓の働きが弱い民族だということも。今回は人体の中でまさに健康の要所となっている「腎臓」のことを取り上げてみました。

かなめとしての役割

人間にとって、どんな臓器もなくてはならない大切な存在ですが、なかでも腎臓はかなり重要な役割を担っているようです。2017年10月1日に放映されたNHKスペシャル「人体-"腎臓"があなたの寿命を決める」で、最新の研究が紹介されました。それによると、腎臓はおしっこを作るだけではなく、血液中の酸素量や血圧をもコントロールしているとのこと。たとえば運動選手が高地トレーニングを行うと、2週間ほどで血液中の赤血球の量が増えますが、これは「腎臓」が「EPO(エリスロポエチン)」という物質を血液中に放出して、「酸素が欲しい!」という情報を全身に伝えるためだとか。そのメッセージを受け取った骨が、骨髄で赤血球を作りだし、体の酸素摂取量を増やすのだそうです。腎臓が出しているのは「EPO」だけではありません。腎細胞が放出する「レニン」という物質には、間接的に血圧を上げる働きがあり、この「レニン」の放出量を調整することで腎臓は全身の血圧をコントロールしているのです。まさに「肝腎かなめ」と呼ぶにふさわしい大切な役割を果たしているのですね。

血液の管理者

腎臓が血液から老廃物を取り除き、おしっこにして体外に排出していることはご存じのことと思います。このとき活躍するのが、腎臓1つに100万個ほどあるといわれる「ネフロン」というミクロの構造体です。「ネフロン」の中には「糸球体」という器官があって、これが血液を濾過するフィルターの役目を果たしています。
「糸球体」で濾過されるのは、赤血球やタンパク質などの大きな物質で、それ以外はいったん尿の元となる「原尿」と呼ばれるものになります。「原尿」には、老廃物の他にも糖分や塩分、ミネラル分など、体に必要な養分も混ざっているため、そのままおしっこにしてしまうと栄養失調になってしまいます。そこで腎臓は「尿細管」という腸の絨毛に似た器官を使って、「原尿」の中から必要な成分を再回収し、血液中に戻すという作業を行っています。
このときすごいのは、腎臓は全身の臓器と情報を交換して、いまどれくらいの成分が自分の体に必要かを判断したうえで、養分の再回収を行っているということ。必要な分だけを取り入れ、残りを尿として排出し、血液中の成分を適正に保っているのです。体が無意識にやっていることとはいえ、まさに神業としか思えませんね。ちなみに腎臓が1日に濾過して作る「原尿」の量はおよそ180ℓ(2ℓ入りペットボトル90分本分)。これだけ複雑で大変な作業を、腎臓は1日たりとも休まずに続けているのですから頭の下がる思いがします。

日本人は腎臓が弱い?

さて、このようにミラクルな働きをしている腎臓ですが、朝日新聞デジタルにちょっと気になる記事※が載っていました。それは「日本人は欧米人より腎臓の機能が弱く、慢性腎臓病になりやすい」というもの。日豪などのチームが研究結果をまとめて、アメリカの科学雑誌に発表したそうです。
どういうことかというと、先にも少し触れましたが、老廃物を濾過する「ネフロン」は、腎臓1個あたり約100万個あるといわれています。ところが、調べてみると人種によってその数には差があり、特に日本人は欧米人に比べて「ネフロン」の数が少ない傾向にあることが分かったのです。研究チームは「国内の健康な人、高血圧、慢性腎臓病の各9人、計27人の腎臓を調べた」そうで、そこから推計すると、日本人の健康な人の腎臓にあるネフロンの数は平均64万個で、欧米人の平均90万個と比べると大幅に少ないそうです。腎臓の大きさは体格の大きさに比例するらしく、欧米人に比べて小柄な日本人は腎臓が小さめにできています。その分、「ネフロン」の数が少なく、濾過する機能も低くなり、腎臓に負担がかかりやすくなるのでしょう。

日本腎臓学会の2008年の推計によると、国内の慢性腎臓病患者は約1,300万人で、およそ10人に1人が腎臓に何らかの問題を抱えているとのこと。また、2015年末の時点で人工透析を受けている人の数は、32万人以上にのぼるそうです。
精密機械のように精巧にできている腎臓は、ひとたび機能が壊れるとなかなか元に戻りません。ぜひとも暴飲暴食を避け、塩分摂取量などに気をつけながら、肝腎かなめのこの臓器を、一生だいじに使っていきたいものです。

※2017年10月6日付の朝日新聞デジタル

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