お気に入りのままでいるために
好きなものを、手入れをしながら使い続ける。そんな暮らしに憧れます。手入れ、習慣になればなんてことないと、習慣になっている人は言いますが、身につくまでの道のりが長くて困難なことも多く、やっかいです。
それともうひとつ、好きなものが変わることってありませんか? 流行というのもありますが、少し前までは大のお気に入りだったものが、なぜかピンと来なくなる。積極的に使おうという気持ちが薄れてしまうと、捨てるにはしのびないけれども、ものと自分に距離が生じてしまうような。
意図的に使わない
テキスタイルデザイナーの須藤玲子さんは、とってもおしゃれ。凝った織り地のジャケットや独特のテクスチャーのスカートなどをいつも素敵に着こなしています。最新のものを常に身にまとっているのかと思ったら、どれもが10年20年と着続けているものばかりと聞いて驚きました。なかには高校生のときから愛用しているものもあるというからさらに驚いてしまいます。どうやったらそんなにいつもパリッとしていられるのでしょう。
「お気に入りのものを長持ちさせるコツは、使わないものをつくること」
え? おっしゃっている意味がよくわからない
。気に入っているのに使わないって、一体どういうことなのでしょうか。
「気に入ると、買ってすぐはもちろん頻繁に使うんです。ひとしきり着たら、そのあとは意図的に使いません。1年とか2年とか、結構長い間しまっちゃう。そうやって一定期間目に触れずにいると、ふたたび手にするときが新鮮ですし、結果的にものが長持ちするんですよ」
なんとなくではなく、意図的というところが大きなポイントです。最初に出合ったときの気持ちのままでいるために、いちど目の前から存在を消してしまうのが須藤さん流。服に限らず靴などもそうやって長く付き合っているそうで、この日履いていた黒い革靴はピッカピカ。聞けばこれも20年以上前に買ったものなのだそうです。とてもそうは見えませんが、やはり使わない期間を設けるのだとか。使い続けているうちにくたっとなったり皺が刻まれるのも、長い間使い続けることの魅力のひとつですが、時間をあけることでパリッとした折り目正しさとでもいうべきものが保てたら、ずっと新鮮な気持ちで向き合えそうです。
しまうときはきちんと手入れをして、「ちゃんとしまう」ことが大切ですよと須藤さんがアドバイスしてくれました。衣替えのときや、新しいアイテムを購入して古いものをどうしようかとなったときなどに、ぜひ実践してみたい考え方です。
どんどん使って、全うする
須藤さんにとってテキスタイルは、暮らしのそこここにあってあたりまえのもの。タオルやカーテン、テーブルクロスなどなど。職業柄、一般の方よりも大量に持っています。
テーブルクロスは衣服同様に使わない時期を意図的につくって、愛用し続けることも多いとか。タオルはバスタオルに始まり、フェイスタオル、ハンドタオル、ゲスト用の小さなタオルにいたるまで、すべて白で統一。
「畳み方も決まっています。清潔の証である白がピシッと揃っていると、気持ちがいいものです。隙間なくピシッと並んでいるのが好きなんです。テキスタイルデザイナーの友人の多くがそうしているから、私たちは隙間恐怖症なのかもしれません(笑)」
タオルはとことん使い倒します。洗っては使い、使っては洗いを繰り返し、それこそ穴が開くまで使い続けて、いよいよとなったらミニタオルほどの大きさにカットします。
「小さな雑巾にするんです。これも畳んで並べておいて、油をたくさん使ったあとのお鍋を拭いたり、靴の汚れ落としに使ったり。いちど使ったら捨てます。これがあれば、ペーパータオルの類を買う必要がありません」
白いタオルの清潔さや贅沢さを味わい尽くしたそのあとも、布としての機能は残っているのですから、それを活かすというわけです。タオルだけでなく、家族みんなの白いTシャツやシャツの類も同じように使い切ります。
「シャツは断然白が好きなんです。白いものはしまわずに、いたんだり穴が開いたりするまで着倒しちゃう。それでやっぱりミニタオルのサイズに切って、雑巾として使います」
どれだけていねいに手入れしても、白は長期間しまうと黄ばんだりしてしまいます。タオルと同じで、衣服としての役割を存分に果たしたら、掃除用具に仕立て直す方が、ものとしての寿命を全うできます。白で統一されているから、そしてきれいに並べておくから、雑巾になっても清潔感が漂います。
使わない時期をつくって何十年も着続けるジャケットやスカートの方が、白いタオルやシャツよりお気に入りということではありません。それぞれの布の特徴を須藤さんは熟知しているからこそ、それぞれに見合った付き合い方をしているということなのだと思います。