研究テーマ

赤ちゃんは何を考えているの?

まだ言葉をうまく話せない赤ちゃんは、何を考えていているのでしょう。その心の中はどんな感じなのでしょう。最近の研究によって、赤ちゃんや幼児たちの頭の中が、少しずつ明らかになってきました。未熟で、頼りなくて、大人のサポートがなければ生きていけない子どもたち。でも、その頭の中では、大人には想像できない素晴らしいことが起きているようです。

哲学する赤ちゃん

ママのお腹から出てきて産声を上げる赤ちゃん。他の動物とは違って、一人では歩くことも食べることもできません。いつも泣いてばかり。わがままで、気まぐれで、論理的な思考とはほど遠い存在、そんなふうに思われてきました。ところが、「ここ30年の間に、赤ちゃんと幼児の科学的理解には革命が起きています」と唱える人がいます。カリフォルニア大学バークレー校心理学教授で、「哲学する赤ちゃん」という本を書いたアリソン・ゴプニック博士です。
たとえば、幼児がよくやる「ごっこ遊び」。「かつて幼児のごっこ遊びは、認知能力の高さでなく低さを示すもの」と考えられていました。実際、フロイトやピアジェといった心理学の専門家も、子ども特有の「フィクションと真実、お芝居と現実、幻想と事実の区別が付いていない証拠だ」と言ったそうです。ところが、最近の認知科学者たちの研究によって、「二、三歳の幼児でも、空想やごっこ遊びを現実とはっきり区別している」ことがわかってきました。ブーブーと積み木を車に見立てて走らせている子どもは、「これは車じゃなくて積み木だよ」とわかって遊んでいるのですね。また、原因と結果の関係についても、子どもには理解不能と思われていましたが、さまざまな実験により、子どもは因果関係をきちんと理解できることが裏付けられています。

小さな科学者

ゴプニック博士は、次のような実験のことも披露しています。4歳の幼児を対象に行った「箱と積み木」の実験です。箱には特殊な仕掛けがしてあって、ある条件が揃うと光って音楽が鳴りだすようになっています。普通の大人なら、箱と積み木を見たら、まず「箱の上に積み木を乗せるもの」と思うでしょう。ところが、この仕掛けでは「箱の上で積み木を振る」と3回のうち2回作動するようになっているのです。単に箱の上に乗せるだけでは6回のうち2回しか作動しません。
さて、実験の結果、被験者の男の子は見事に「箱の上で積み木を振る」という常識外れの方法を発見しました。通常、科学者が新発見をするときは、統計学の手法を使って、「仮説を立て、実験を行い、結果をもとに仮説を修正していく」ということを繰り返します。4歳の男の子はまさに科学者と同じやり方で、統計学を使って試行錯誤を繰り返し、目の前の箱の鳴らし方を"発見した"のです。ゴプニック博士は、「私たちはこうした研究を始めたばかりですが、実際は4歳児の方が、ありそうにない仮説を見つけだすのは大人よりもすぐれているということがわかってきています」と語っています。「幼児は最高に聡明な科学者と同じような思考をしている」というのです。

スポットライトとランタンの光

なぜ、子どもたちは「ありそうもない仮説」を見出す天才なのでしょうか。近年わかってきたのは、大人と子どもの脳の違いです。博士によると「赤ちゃんの脳は想像することと学習することに特化されているらしく、大人の脳よりたくさんの神経回路がある」とのこと。「ところが、年齢が進み経験が増えるにつれて、弱い回路、使用されることの少ない回路は『刈り込まれ』てしまい、よく使われる回路が強化」されていくのだそうです。
子どものうちはあらゆることに広く興味を持ち、一部だけに興味を向けて他を遮断するということはしません。すべてを同時に、しかも鮮明に体験しているのです。ところが、大人になるにつれて、抑制機能がある「脳の前頭前野」が発達し、周囲から入ってくる情報を遮断して、必要なものだけに注意を傾けるようになります。この「抑制」する力は、複雑な計画を実行したり、作業に集中したりするのには役立ちますが、創造力や学習能力を自由働かせるには逆効果になるというのです。大人の脳は特定の方向を明るく照らす「スポットライト」のようなもの。これに対して子どもの脳は、全方向を明るく照らす「ランタンの光」のよう。子どもが、ありそうにないことを発見する名人なのには、そんな脳の違いがあるのです。

ちょろちょろ動き回る幼児を見て「落ち着きがない」という大人がいます。また、一つのことに集中できない子を見て「飽きっぽい」と嘆く人もいます。でも、これこそがまさに子どもたちの得意技。幼い脳の中では「なぜ」や「不思議」がぐるぐる渦巻き、学習と発見の連鎖が生まれているのです。
年端もいかない子どもを、じっと椅子に座らせたり、物事に集中させるのは、彼らの得意を奪うこと。となると、幼少期から机に座らせ、大人のまねごとのような勉強をさせるのは、あまり得策ではないようにも思えてきます。発見と創造に満ちあふれた子ども時代は、やはり子どもらしく、自由に、気ままに過ごすのが一番かもしれません。

※参考図書:「哲学する赤ちゃん」(アリソン・ゴプニック/亜紀書房)

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生活雑貨

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