朝型ですか、夜型ですか
世の中には、早起きが得意で朝から活発に動く人がいれば、夜が更けるほどに目がらんらんとして元気になってくる人もいます。このうち特に夜型の人は、朝起きるのが苦手なために、不摂生を指摘されたり、怠けているのではないかと疑われたりしがちです。ところが最近の研究で、朝型と夜型の違いは遺伝子によるものということが分かってきました。努力しても夜型の人が朝型になるのは難しい? 今回は遺伝子によって決まる睡眠についてのお話です。
朝が弱いのは誰のせい?
学校でも会社でも、世の中にある組織はだいたい始業時間がきっちり決まっています。学校だと始まるのは朝8時台、会社の場合はフレックス制などを導入しているところもありますが、だいたい朝8時から10時までの間に始まります。住んでいる場所にもよりますが、首都圏だと1~2時間かけて通勤している人も少なくありません。仮に8時半始まりの会社に勤務しているとして、通勤時間が1時間半だとしましょう。そこから逆算すると家を出るのが7時、朝食を取ったり身支度したりする時間も必要なので、起床時間は6時~6時半になります。朝が強い人にとっては何でもないのでしょうが、夜型の人間にとってはけっこう辛く、負担を感じる毎日ではないでしょうか。
また、朝が苦手な人の中には、子どもの頃からちゃんと起きられずに遅刻しがちな人もいます。目覚ましが鳴ってもなかなか起きられず、結果遅刻をして、親や先生に叱られた経験を持つ人も少なくないでしょう。でも、最近の研究で、朝が苦手なのは不摂生や怠けのせいではなく、遺伝子によるものであることが分かってきました。本人の心構えや努力では解消できない身体的な要因があるのです。
個人差がある体内時計
2019年1月、「ネイチャー・コミュニケーションズ」という科学誌に、ある論文が掲載されました。その論文によると、約70万人の英国人を調べた結果、351の遺伝子が「朝型」であるか「夜型」であるかを決めるのに関わっていることが分かったそうです。もともと人間には体内時計があることが知られていました。場所は脳の視床下部にある視交叉上核という領域。ここにある遺伝子が、人間の体内で起きる睡眠と覚醒のサイクルを決めているのです。これまでは24の遺伝子が関与しているとされていましたが、今回の研究でさらに詳しく関与している遺伝子の数が分かったということです。
日本でも朝型と夜型の研究は行われています。精神科医で睡眠専門医の三島和夫さんの調査によると、夜型傾向の人は成人の約30%いて、特に強い夜型傾向の人は8%ほど。朝型傾向の人も同じく約30%で、強い朝型傾向の人は6%ほどだそうです。ざっくり言って3割近くの人が朝型、夜型の傾向にあるということですね。
朝型と夜型の人で違うのは、生体のリズムを司っている体内時計の周期です。三島さんが特殊な実験室で測定したところ、周期は23時間50分から24時間30分まで、40分ほどの個人差があったそうです。1日の長さは24時間なので、体内時計が24時間きっかりの人は、ほぼ毎日同じ時刻に眠くなり、同じ時刻に目が覚めます。つまり、規則正しい生活に向いているのです。しかし、体内時計の周期が実時間と一致しない人は、1日数十分ずつですが、実際の時間と体の時計にズレが生じます。そのために朝が辛くなったり、起きられずに遅刻したりして、生活に支障を来すこともあるのです。さらに、夜型の人が無理に早起きを続けるとうつ病になったり心臓疾患をわずらったりするリスクもあるとか。車を運転する仕事の場合は、睡眠不足に陥って事故を起こしてしまう危険もあります。
気力では治らない
とかく日本の社会は遅刻者に厳しく、「たるんでいる!」と叱責する傾向にありますが、原因が遺伝子ということになれば話は別でしょう。「おまえは背が高くて(低くて)けしからん」と言うのと同じくらいナンセンスなことになるからです。体内時計のサイクルは、時計遺伝子と呼ばれる遺伝子が作り出すタンパク質の機能で決まります。だから、いくら努力をしたとしても、夜型が朝型に変わることはありません。生まれつきのものなので、頑張っても変えられないのです。
ということが分かってきた以上、これからの社会では、朝が苦手な人への配慮がいままで以上に必要になってくる可能性があります。「自堕落だ」「やる気がない」と言って叱るのは的外れだからです。出勤と退勤時間を決められるフレックス制を導入したり、リモートワークを取り入れて自分の裁量で働けるようにするとか、働き方を個人の特性に合わせることを検討してもいいのかもしれません。
この世の中にはいろんなタイプの人間がいて、ともに生活をし、社会を構成しています。その中には朝型と夜型のように、遺伝的なものが原因で、本人の意志や努力ではどうにもならない特性もあります。それを一律の規則や制度で縛っていくのは無理があるような気もします。多様な人の能力や魅力を引き出すためには、もっと社会の方から人に寄り添うという発想があってもよいのではないでしょうか。「朝型か、夜型か」の違い先に、感じ良い暮らしのヒントがあるような気がしました。