いろいろな川柳大賞
市井に生きる人々の何気ない日常を詠みあげる「川柳」。クスッと笑えるものがあったり、なるほどと膝を打ちたくなる句もあったりで、同じ5・7・5でも俳句とはずいぶん違った趣があります。歴史を辿れば江戸時代にまで遡る川柳ですが、季語が不要で、ルールも比較的自由ということもあり、今でも多くの人に詠まれています。今回は、さまざまな世代の人に愛されている人気の「川柳大賞」にスポットを当てました。
ブームの口火を切ったサラ川(セン)
「サラ川」とは、いわずと知れた「サラリーマン川柳」のこと。保険会社の第一生命が1987年に公募を始めた川柳コンクールです。2020年の今年で33回目を迎えるメジャーな大会で、これまでの累計応募総数は約124万句にのぼるとか。現代川柳ブームの火付け役となりました。
「サラリーマン川柳」の特色は、日本人の多くを占める"勤め人"の悲哀が詠み込まれていること。日々満員電車に揺られ、会社では上司や部下に気を遣い、家庭では妻や子に疎まれる、そんなサラリーマンの日常を描いた作品が多いようです。例年秋に公募が始まり、年明けの1月末に「優秀100作品」が選出され、そこから一般投票が始まって、5月下旬に結果が発表されます。今年、第33回「サラリーマン川柳2019」には、53,194句の応募があり、86,532名の投票がありました。その結果選ばれた栄えある一位は……。残念ながら著作権の関係でここでは紹介できません。昨秋のラグビーワールドカップにちなんだユーモアあふれる作品なので、気になる方はぜひ、「サラリーマン川柳2019」のホームページをご覧ください。
老いを笑いに変える高度なユーモア
「シルバー川柳」は公益社団法人「全国有料老人ホーム協会」が毎年公募しているもので、これまでに19回開催されています。応募者の平均年齢はぐっと高く、昨年開かれた第19回の場合は67.7歳、最年長はなんと97歳でした。詠まれている題材として多いのは、家族や身内ネタ。特に男性の場合は夫婦ネタが多く、定年後の微妙な人間関係や、楽しみ上手な妻との対比などを自虐的に詠んだ句が多いそうです。時事ネタとしては、昨年は新元号に関するものが目立ち、また、AIやセルフレジ、キャッシュレスなど、押し寄せるデジタルの波にとまどう高齢者の様子をユーモラスに詠んだ句も見られました。とにかく、どれを取っても秀逸で、思わず唸ってしまうほどの傑作揃い。熟成した人生が醸しだす細かな人生の機微に触れることができます。「シルバー川柳」といいますが、特に年齢制限はなく、4歳の女の子の作品も入選していました。おじいちゃんと一緒に水遊びをし、ふやけてしわしわになった自分の手を詠んだ、なんとも愛らしい作品です。ぜひ「シルバー川柳」のホームページで、入選作をご覧ください。
女性の本音がチラリ
川柳の持つシニカルな風刺の魅力、それが最も発揮されているのが、この川柳大賞ではないでしょうか。オフィスで働く女性の情報誌「シティリビング」が公募している、「シティOL川柳大賞」です。こちらも1997年から20年以上続いている川柳大賞の古参。名称にOLと付いているためか、応募者は圧倒的に女性が多いようです。
詠まれている題材は、仕事、恋愛、美容、ダイエットなど。他の川柳大賞はどちらかというと自虐ネタが多いのですが、こちらの作品は女性ならではの感性で、上司や同僚をバッサリと切ってみせるものが目立ちます。刃のように研ぎ澄まされた言葉の切れ味も、この川柳大賞の魅力でしょう。「シティOL川柳大賞」の優秀句をセレクトした「女子会川柳」(ポプラ社)という選集も出版されています。興味のある方はそちらをご覧ください。全部で3巻出ていますが、1巻目は8万部も売れたそうです。
気軽に楽しめる、それが川柳の魅力
川柳の名は、江戸中期に流行した「前句付」の選者、柄井川柳(本名正通)にちなむものです。前句付とは、あらかじめ決められた下の句(7・7)の前に付ける(5・7・5)の句を詠む大衆文芸のこと。柄井川柳は毎月3回、5の付く日に「万句合」という句会を催し、選者として活躍しました。まさに、今の川柳大賞の原型ですね。当初は前句を付けていたのですが、いつしか一句で意味が通じる「一句立ち」の句が生まれ、それがのちに川柳となって発展していきました。ちなみに「親孝行 したい時分に 親はなし」という有名な句は、柄井川柳が見出し、世に出した句だといわれています。
川柳は、俳句と同じ5・7・5の17音芸術ですが、「うがち・おかしみ・かるみ」という3つの要素を重んじます。季語や切れ字などの決まりごとがなく、口語で自由に詠めることが受けて、大衆の間に広がっていきました。今回は3つの川柳大賞をご紹介しましたが、他にも「オタク川柳大賞」「タニタ健康川柳」「ナース川柳」「受験川柳」など、企業や団体が公募している川柳大賞は枚挙にいとまがありません。
詠んでも、読んでも、気軽に楽しめるのが川柳のいいところ。今年はコロナ自粛の影響でストレスが溜まっている人も多いと思います。ユーモアたっぷりの川柳に親しんで、心の憂さを晴らしてみませんか。