研究テーマ

新しい避難情報

かつて日本の梅雨といえば、雨がしとしと降る長雨のイメージでしたが、近年の梅雨は、周囲が煙るような激しい雨が降り、川が大蛇のように暴れ、大災害をもたらすことが増えてきました。まるで人格が変わったように凶暴化する気象に合わせて、自治体が出す避難情報の出し方も毎年のように変わってきています。今回は、今年5月20日から運用が始まった、新しい避難情報についてお伝えします。

分かりにくい避難情報

まずは質問です。

  • ①大雨の「警戒レベル」というものをご存じですか?
  • ②「警戒レベル」は5段階ありますが、それが何を意味しているか知っていますか?
  • ③「避難勧告」と「避難指示」がありますが、どちらが強く避難を促していますか?
  • ④お住まいの地域に避難指示が出た場合、すべての住民が避難すべきだと思いますか?

さて、上記の質問に答えられる人はどれくらいいるでしょう。防災の専門家ならいざしらず、一般の人で正解できる人は少ないのではないでしょうか。
近年、"100年に1度"の大雨が毎年のように降り、甚大な災害をもたらすようになりました。河川の氾濫、浸水、土砂崩れ、崖崩れ、こういった災害から身を守るために必要なのが、「避難情報」です。でも、その肝心の中身がいまひとつ正確に伝わっていないように感じます。今回は首相官邸のホームページを参考に、今年の5月20日に発表された新しい「避難情報」の中身について見ていくことにします。

警戒レベルとは

気象庁は激しい雨が降りそうなとき、「大雨注意報」や「大雨警報」を出します。でも、これはあくまでも雨の降り方を予測したもので、避難の情報は含んでいません。一方、「避難勧告」や「避難指示」などは、気象庁の情報をもとに自治体の長が出すことになっています。つまり、大雨が降ったとき、気象庁と自治体の2系統から別々の情報が出されることになっていました。
それでは分かりにくいということで、2018年に導入されたのが「警戒レベル」という概念です。導入の目的は、気象庁から出る「注意報・警報」と、自治体の長が出す「避難情報」のレベルを合わせること。どのくらい激しい雨が降ったら、住民はどう行動すべきかを分かりやすく整理したのです。
たとえば、「警戒レベル2」で気象庁は「注意報」を出します。この段階で、住民は「避難行動の確認」をすることが求められます。
「警戒レベル3」になると気象庁は「警報」を発令し、自治体は「高齢者等」の避難開始を促します。
「警戒レベル4」になると気象庁は「土砂災害警戒情報」や「氾濫危険情報」などを出し、自治体は「避難指示」を発令します。原則として「警戒レベル4」の段階で、避難すべき人は全員避難を終えていなくてはなりません。
なぜかというと「警戒レベル5」になると、もはや避難することが困難になるからです。この段階では、すでに河川の氾濫などが起きている可能性があり、逃げるとかえって危険です。「警戒レベル5」では、その場に留まり、浸水に備えて二階へ上がったり、山と反対側の部屋に移動したりと、「直ちに身の安全を確保する」行動が求められます。

避難勧告の廃止

今回の変更でいちばん大きかったのは、「避難勧告」を廃止して「避難指示」に一本化したことです。これまで自治体は、まず先に「避難勧告」を出し、次の段階で「避難指示」を出していました。でも、「勧告」と「指示」では、どちらの緊急性が高いのかが分かりにくいという問題がありました。そこで今回、この2つをまとめて、自治体が出す避難情報を「避難指示」に一本化したのです。新しい避難情報では、「警戒レベル3」で「高齢者等」を避難させ、「警戒レベル4」で「全員避難」ということになりました。
ところで、いま「全員」と書きましたが、もし仮にすべての住民が一斉に避難したらどうなるでしょう。避難所はたちまち人であふれてしまいますね。だから、ここでいう「全員」とは住民全員のことではなく、「避難が必要と思われる住民」の全員という意味です。
でも、ここで疑問が残ります。「避難が必要かどうか」は誰が判断するのでしょう。これについては首相官邸のホームページに答えがありました。「避難」の必要性を判断するのは、国や自治体ではなく"住民一人ひとり"なのだそうです。つまり、避難に役立つ情報は提供しますが、その判断は各人で行ってくださいということ。日頃から災害に備える意識を持ち、自治体が出しているハザードマップなどで自分が住んでいる地域の安全性や危険性を確認し、自ら判断して行動してくださいということのようです。

昨年7月、熊本県の球磨川が氾濫し、大勢の人が亡くなったのはまだ記憶に新しい出来事です。もはやこの日本に絶対安全な河川など存在しないのかもしれません。今年もどこかで甚大な災害の起きる可能性が指摘されています。「転ばぬ先の杖」と思い、ぜひ一度お住まいの地域のハザードマップを入手して、自分が住んでいる地域の危険性を確認してみてください。「災害は忘れた頃にやってくる」とはひと昔前の話。いつなんどき大災害に見舞われるかも分からない時代を、私たちは生きているのです。

参考サイト:
首相官邸「防災気象情報と警戒レベル」
国土交通省「ハザードマップポータルサイト」

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