研究テーマ

数の不思議

この世に「数」があることは誰でも知っています。では、その「数」の概念はいつごろ生まれたのでしょうか。人類が誕生する前から、いや、この宇宙ができた初めから「数」は存在していたのでしょうか。今回は、知れば知るほど面白く、謎に満ちた、「数」の不思議にフォーカスします。

数のマジック

まずは、「知識ゼロでも楽しく読める! 数学の不思議」という本から、電卓を使った簡単な「誕生日当てマジック」を紹介します。たとえば相手の人が2月24日生まれの場合。用意した電卓をその人に手渡し、誕生月に「4」をかけてもらいます。この場合は2月生まれなので「2×4=8」ですね。次にその数字に「9」を足し、さらに「25」をかけてもらいます。「(8+9)×25」で答えは「425」。ここに自分の生まれた日「24」を足してもらいます。すると電卓には「449」と表示されます。この時点で相手から電卓を返してもらい、あとはここから「225」を引くだけ。するとあら不思議、「449-225=224」で、2月24日という誕生日が現れるのです。どんな誕生日でやっても結果は同じ。なぜか必ずその人の誕生日が答えに現れます。
また、電卓の数字の並びにも不思議が隠されています。1から順に反時計回りに足していってください。「123+369+987+741」となり合計は「2220」になります。逆回りにやっても、つまり「147+789+963+321」と足しても答えは「2220」です。さらに、対角線上に「159+951+357+753」と往復で足していっても「2220」。四隅にある数字をそれぞれ「111+999+333+777」と足しても「2220」になります。もちろん理由はあるのですが、説明を聞かなければ、なんとも不思議な数の符合にしか思えません。

友愛数と完全数

「私は文系で数学は苦手」という人に、ぜひお薦めの本があります。芥川賞作家の小川洋子さんが書いた「博士の愛した数式」という本です。家政婦をやっている主人公の「私」と、雇い主である80分しか記憶が持たない「数学博士」との心の交流を描いた物語ですが、この中に出てくるさまざまな数の不思議が面白いのです。たとえば、「友愛数」。これは「220」と「284」のように、自分自身を除いた互いの約数の総和がそれぞれ相手の数と同じになる特別な数です。約数というのは、その数を割ることができる数のことで、「220」の場合は「1、2、4、5、10、11、20、22、44、55、110」が約数になります。これを全部足し合わせると「284」。そしてもう一方の「284」の約数は「1、2、4、71、142」で、これを足し合わせると「220」になります。「だから何なの?」といわれれば、それまでのことですが……。「約数」という友情で互いに結ばれた数なので、数学の世界では「友愛数」と呼ばれています。
もうひとつは、「完全数」。これは自分自身を除いた約数の総和が自分と同じになる数のこと。たとえば「28」の約数は「1、2、4、7、14」ですが、これを足し合わせると「28」になります。小説ではこの「28」という数が大きな意味を持ってきますが、ここでは伏せておきます。小説を読んでのお楽しみにしてください。2021年6月現在で、発見されている完全数の数はわずか51個とのこと。無限に続く数列の中でキラリと光る、まさに砂金のように稀少な数なのです。

数理の世界の美しさ

私たちがいつも何気なく使っている「1、2、3……」という数ですが、本当にこの世に実在するのでしょうか。たとえば、リンゴは1個、2個、3個と数えますが、形や大きさの違うリンゴも同じ1個なのか。半分に切ったリンゴが混じっていても1個と数えるのか。よくよく考えると分かりません。そもそも数というものは人間が発明したものなのか、この世に初めからあるものなのか。それも分かりません。「0」という数字はインドの数学者が考案したそうですが、その人が現れなければこの世に「0」は存在しなかったのか。考えれば考えるほど謎は深まっていきます。
小説の中で、博士は「私」に「さあここに、直線を一本引いてごらん」といいます。そうして広告の裏紙に「私」が引いた鉛筆の線を見て、こういうのです。「どんなに鋭利なナイフで入念に尖らせたとしても、鉛筆の芯には太さがある。よってここにある直線には幅が生じている。面積がある。つまり、現実の紙に、本物の直線を描くことは不可能なのだ」と。そして、「真実の直線はどこにあるか。それはここにしかない」。そういって自らの胸に手を当てます。
そう、数も同じです。真実の数は、人の胸の中にしか存在しない。雑多な日常が支配する現実とは隔絶された、音も匂いも色もない、純粋に数理だけが支配する理念の世界にのみ存在するものなのです。「実生活の役に立たないからこそ、数学の秩序は美しいのだ」という博士の一言に、数の世界の魅力が集約されているように思いました。

数は不思議です。そしてまた数が織りなす世界は純粋で、美しく、気高くすらあります。学校で学ぶとき、加減乗除や数式を習う前に、このような数の不思議や美しさに触れることができたなら、算数や数学をもっと好きになれたかもしれない。この小説を読み終わり、ふとそんなことを思いました。

参考図書:
「知識ゼロでも楽しく読める! 数学の不思議/加藤文元監修」(西東社)
「博士の愛した数式/小川洋子著(新潮文庫)

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