教育の新しい潮流 -マイクロスクール-
一般的な日本の学校は、1クラスの生徒数が30~40名、全学年を合わせると数百名規模のところが多いようです。ところが最近、「マイクロスクール」と呼ばれる小さな学校を設立する動きが活発化してきました。人数でいえば、全校生徒を合わせても数十名規模のもの。今回は、既存の学校とは一線を画し、独自の教育観に基づいて運営される「マイクロスクール」の動きに着目してみました。
学校外の学び場
「マイクロスクール」とは何か、という確たる定義が世の中にあるわけではありません。文字通り、小さな規模の学校のことを意味しています。2015年1月のコラム「もうひとつの教育」でご紹介した「オルタナティブスクール」も、規模の大きさでいえば「マイクロスクール」の部類に入ります。また、マイクロスクールの多くは文部科学省の認可を受けていないので、厳密にいえば「学校」とは呼べません。それぞれの理念や考えに基づいて運営されている、新たなタイプの学び場です。
このような無認可の学び場が増えてきた背景のひとつには、「不登校」の問題があります。文部科学省の調べで、令和元年に不登校になった児童生徒の数は、小中学校合わせて18万人を超えました。学校に通えない子どもの「学校外の学び場」が、いま、切実に求められているのです。
もうひとつは、教育の多様性の問題です。オランダなどの教育先進国では、さまざまなタイプの学校があり、子どもが自由に選べるようになっています。一方、日本の学校は、文科省に認可された1種類のものだけ。私立校の中には特色を打ち出す学校もありますが、それでも基本的には文科省の学習指導要領に従う必要があります。多様な人材が求められる世の中なのに、それを育成する学校が1種類しかなくて大丈夫なのか? このような問題意識に基づいて、新しい学校の設立に挑む人が増えてきているのです。
多様性を受け入れる学校
今年の4月、東京の港区に「ギフトスクール」というマイクロスクールが誕生しました。創立したのは、富田直樹さん。娘が生まれ、教育について調べるうちに、「既存の学校と自分の考えのズレ」を感じるようになったとか。で、「いい学校がなければ創ればいい」と思い、5間年かけて開校の準備を進めてきました。学校づくりの参考にしたのは、アメリカのニューヨーク州にある「ニュースクール」。それぞれ違う個性を持った多様な子どもたちが、ひとつのコミュニティの中でリラックスして過ごし、学びに向かう姿を見て、「これだ!」と思ったそうです。
ギフトスクールの朝は、「サークルタイム」というチェックインの時間から始まります。3歳から10歳までの異年齢の子どもが輪になって、瞑想をしたり、最近の出来事を話したり。それが終わると、次は「プロジェクト」の時間。1~2ヶ月かけて、ひとつのテーマを追いかけて学んでいきます。いま取り組んでいるのは「心の健康と体の健康」。臓器のこと、ケガや病気、食や栄養、睡眠や瞑想、ストレスなど、子どもたちはさまざまなことを学びながら、自分の発表に向けて学びの成果をまとめていきます。ユニークなのはランチタイム。11時から13時までとたっぷり取った時間のなかで、料理家の指導を仰ぎながら、自分たちでごはんを作り、みんなで食べます。
「不登校の子って、学校システムが自分に合わないと感じ取れるのだから、すばらしい感性を持っている」と富田さん。「むしろチャンスだと思って、子どもが幸せを見つけられる学びの場を探してあげてほしい」と語りました。
野性味ある知性を育む
来年の春、東京の世田谷区に「ヒロック初等部」というマイクロスクールが誕生します。この学校を立ち上げるのは、駒沢と目黒にある「ヒロック幼児園」を運営するNPO法人「ソダチバ・プロジェクト」です。ヒロック初等部の学びのテーマは「Wild and Academic」。砧公園に隣接する立地を活かして、自然にたっぷり触れ、勉強と遊びを両立させながら、"野性味ある知性"を持つ人間を育てていきます。この学校では先生にあたる人は「ラーニング・シェルパ」と呼ばれます。学びの山を登っていく子どもたちを導き、ときに励ます"山岳ガイド"のイメージ。そして、生徒は「コゥ・ラーナー(Co-learner)」、共に学んでいく人という意味があります。
ヒロック初等部は、代表を務める堺谷武志さんの「自分が子ども時代に通いたい学校を創りたかった」という想いから生まれました。子どもの頃、自分の意志を貫く少年だった堺谷さんは、周囲から"わがまま"とみなされ、苦しい思いをしたそうです。「だから、この学校づくりには、当時の僕を救ってあげたいという想いも入っているんですね」。堺谷さんの想いに共感した2名の元教員が、学校づくりのプロジェクトに合流し、来春の開校に向けて、スクールビジョンやカリキュラムの作成を進めています。
このように、いま、日本の各地でマイクロスクールや、学校に合わない子どもの居場所を立ち上げる動きが活発になっています。民間から始まった新たな潮流が、どのように日本の教育を変えていくのか、今後も注目していきたいと思います。
※参考サイト:
GIFT School | ギフトスクール
Hillock初等部