お化粧の力で提供できる「体験」
田中:確かに、お化粧って、生きるためにどうしても必要ではないですけれど、その代わりに夢がありますよね。ちょっとわくわくするというか。
片寄:高齢の女性たちが、プロの方のアドバイスを受けながらお化粧してきれいになって、それによって気持ちまで明るくなって、見ちがえるように表情がいきいきとなるのをテレビで見たことがあります。その様子がとても素敵で、見ている私までうれしくなりました。
田中:私はコフレプロジェクトさんのウェブサイトで、メイクをされる女性たちが、「大切にさわられる経験」をするとあったのが印象的で、お化粧って、そういう効果もあるんだなと思いました。
向田さん:東日本大震災の後、化粧品会社さんから無償提供してもらった化粧品を被災地に届けたり、継続的にメイクのワークショップを開催したりしていました。女性たちの笑顔は、私の、お化粧の力を信じる気持ちを強くしました。ネパールでもそうなのですが、誰かにメイクをしてもらう際の「大切にさわられる」ことはもちろん、やさしい香りに包まれたり、たくさんの中から色や香りを自分で選ぶという行為も、女性にとって素敵な体験なんですよね。やっていくうちに、こちらが教えてもらうことも多いです。
片寄:ネパールで支援対象になっている女性たちも、とても辛い境遇なんですよね。
向田さん:売春宿から救出された女の子たちは、本当にそうですね。彼女たちは親に売られている場合が多いですし、HIVに感染していたりして、売春宿を出ても差別にさらされるばかりか、拠り所となる家族も事実上いない状態です。地元のNGOによるシェルターに保護されるのですが、1年半で退所する決まりなので、その先自立しなくてはなりません。子どものような年齢で親に売られて売春宿で働かされた女の子たちにとって、1年半での自立は困難です。行き場がなくて売春宿に戻ってしまうこともあります。
田中:そうした女性たちに、お化粧に関係する職業訓練をするんですね。
向田さん:職業訓練もそうなのですが、対人恐怖症や、言語障害を患っている場合もあるので、まずは、自分が大切にされる存在なんだと信じてもらうことから始めます。
田中:ずっと「大切にされる」こととはかけ離れた状況の中に置かれていたんですもんね。
向田さん:そうなんです。人は、大事に大事にされて、それが自分の中で溢れてくると、今度は誰かに対して気持ちが向くものなのかなと思います。少しずつですが変化が見えてきます。
ネパールでも高まる、女性の美容熱!
片寄:自立は大変なことだと思いますが、彼女たちが学ぶお化粧関連のお仕事は、ネパールではどれくらい需要があるのでしょうか。
向田さん:実は美容熱は相当盛り上がってきているんです。ネパールは年率5%くらいの経済成長を続けているのですが、それにしても、月に5~6千円のお給料の人が、パーマに2千円かけたりしていて。美容室と美肌やネイルのサロンをいっしょにしたような"ビューティーパーラー"と呼ばれるお店は、首都のカトマンズには10mおきにあるくらいです。ですから需要はありますね。
片寄:そうなんですか!それはすごいですね。
田中:ネパールにサロンがそんなにたくさんあるなんて、ぜんぜん知りませんでした!
向田さん:でも、日本のエステとか、美容サロンとは、ちょっとかけ離れたイメージです(笑)。勉強のためにかたっぱしから体験しましたが、生傷が絶えなかったくらいで・・・。
田中:え~!生傷ですか!!
向田さん:いきなり顔とか、全身をやってもらうのは躊躇されたので、最初はネイルをお願いしたんです。すると、ちょっと濁った水に両手をじゃぼんと入れられて、軽石でこすられたり、熱をかけられたり、さすがにひるみました。だいたい見よう見まねでやっているので、知識も技術も不足しているんです。器具やスポンジも洗わないし、「洗った方がいいですよ」とこちらが言ったりして(笑)。
片寄:それはちょっとなんとも言えないすごい体験でしたね・・・。
向田さん:美容の専門学校もあるんですよ。ネパールにも、美容のカリスマのような女性がいて、有名なのはその人が看板になっている学校です。受講料も決して安くないのですが、日本人から見ると、授業の中身もちょっと・・・という感じることもありまして。
片寄:でもだからこそ、女性たちの自立に、日本人のノウハウが活かせるんですね。
向田さん:そうなんです。今でも、富裕層向けのサロンは外国人の経営だったりします。日本人の感覚や技術力は、ネパールでもブランドになりますし、付加価値が高い。前述したような女の子たちが身につければ、生きていくための大きな武器になると思います。
ビジネスにして、雇用を創出したい
片寄:そうした活動のほか、オリジナルの石けんなどの商品化も計画中だとか?
向田さん:そうなんです。やりたいんです。ネパールのヒマラヤンハーブを使った石けんやシャンプーなどをつくって日本で販売をする。支援対象になっている女の子たちは、必ずしも人と接するのが得意ではないので、そのような子は、製造に関われる方が良いと思いまして。さらに、ネパールだけでなく、日本でも、私たちの震災後の活動の中心地だった石巻市に商品のコールセンターを開設すれば、どちらの国でも女性の雇用を創出できる可能性があります。
田中:実現したら素敵ですね。
向田さん:でも、実はこれについては、有言実行しなくてはいけないことがかなりプレッシャーになっていて、自分で言ってはいるものの、もう後に引けないと思うと恐ろしいです・・・(笑)。
田中:こんなに若くてかわいらしい方が、ひとりで頑張っているのかと思うと、なんだかじーんとしてきました。
向田さん:ネパールは楽しいのですが、毎日10時間以上停電して真っ暗になるのはいつまでたっても怖いですし、ろうそくの灯りで資料を読んでいると切なくなったりします。それに、幸い致命的なことは体験していませんが、よく騙されるし、小さなことを言えば、食あたりとか、部屋にねずみがいたり、自分なりには日々小さな恐怖のドラマがあります(笑)。けれど反面、日本のように、社会の中にある暗黙の規律を守ったり、空気を読まないといけない緊張感はなく、人との関係もシンプルで本音ベース。日本にいるよりほっとする面もありますよ。
片寄:ご家族はは心配されていませんか?
向田さん:もうずっと心配かけ通しで、でも最近は慣れたというか、あきらめの境地?みたいです。安心してもらえるように頑張らないといけませんね。
対談を終えて
田中:向田さんのようなかわいらしい方が、ひとりけなげに奮闘していることに感動しつつ、生傷をつくったとか、食べ物にあたるとか、心配になります。なんだか感情移入してしまって、まるで姉か母親のような気持になってしまいました。震災を機に、誰かのために何かしたいと思う気持ちが強くなった人は多いと思います。私もそのひとりです。コフレプロジェクトさんの取り組みでも、私にも何かできたら・・・と思いました。
片寄:ネパールの人たちの写真を見て「かわいそう」と思い、実際に行ってみたらそれだけではなかったというお話が印象的でした。あちらにあるものとこちらにあるものは違うし、本当に、何が幸せなのかはわからないですよね。このようなお仕事をされている向田さんは、自分とは違う世界の立派な女性だと思っていましたが、お話ししてみると身近に感じられて、共感できることがたくさんありました。私も、大きなことはできなくても、やれる何かをみつけたいと思いました。
Coffret Projectは、2012年8月24日から11月25日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
102人の方から合計48,500円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
実施中の募金券はこちら