DVの「ハネムーン期」?
藤田:加害者男性が、DVに走るきっかけみたいなものはあるのでしょうか。
近藤さん:家庭内のDVは、だいたいにおいて、結婚してあまり時間が経たないうちに起っています。男性が、「この女性は自分のものになった」と思った時から暴力が始まることが多いんです。支配欲や独占欲が強い男性に限って、マメで情熱的であるようで、女性側は交際時から、「これほど自分を愛してくれる人はいない、この人こそ運命の人だ」と感じてしまったりして・・・。しかし豹変する人もいるんです。
鈴木:暴力は、やはり一度始まると、続いてしまうのでしょうか。
近藤さん:そうです。暴力を振るった後、女性に対して涙を流して謝ったり、プレゼントをくれたり、男性が反省の色を見せる時期があります。女性側も、その様子を見て「もうしないと約束してくれた」と信じてしまうのですが、ほとんど場合、それは長くは続きません。これは「ハネムーン期」と呼ばれるDVのサイクルのひとつで、お決まりのパターンのようなものです。
藤田:だけど、一連のことがふたりだけの空間の中で起きているので、もしかすると「自分も悪いところがあったのかもしれない」などとつい思ってしまいそうです。
近藤さん:何より、好きで結婚した人ですしね。「本当は優しい人なんだ」と思いたくもなりますよね。
鈴木:でも繰り返す・・・。
近藤さん:はい。まず、繰り返しますね。DVは、蓄積期、爆発期、ハネムーン期のサイクルをループする特徴があるんです。また、残念ながら、相手と話し合ってふたりで解決しようという性質の問題ではありません。絶対に、第三者、できれば専門性のあるところへの相談が必要ですし、まずは逃げてこなければいけません。なかなか理解できないかもしれませんが、加害男性にとって被害者を支配することは自分の存在意義なんです。その意味では、被害者がいないことには耐えられません。別れ話に逆上して凶暴な犯罪に至るケース、よく聞きますよね?
鈴木:はい、よくニュースなどで。
背景には、男性優位の社会・・・
近藤さん:本来なら加害男性にもしかるべき治療が必要ですが、環境がまだまだ追いついていない現状では、とにかく女性を守る必要があります。そのためにも、男性に対する処罰を行わなくてはならないと考えています。殴る、蹴る、脅す、監視する、性的暴力を振るう、こんなことを何年も続けていれば、もし家庭内で発生したことでなければ当然重罪に問われます。凶悪犯ですよね。でも被害女性は、逃げた後も、追跡される恐怖に耐え、大きなトラウマを抱えながらも自立して生きていかなくてはいけません。一方加害男性は、もちろん、簡単にあきらめたりはしないのですが、女性がどうしても見つからなかったり、法的に保護されて手出しができなくなった場合、そのときは苦しみますが、次に出会った女性にもまた同じことをします。犯罪なはずなのに、罪に問われず、服役させられたりしないということが大きな問題です。
藤田:確かに。世の中に「DV」が認知されるようになり、犯罪だという認識も生まれましたが、言うまでもなく、これらは犯罪ですよね。
近藤さん:まぎれもない犯罪です。けれど、警察も検察も裁判官も、法律をつくる偉い人たちもほとんどが男性なんですよね。どうしても、女性の立場で考えてくれることが少ないように思います。そうしたことも含めて、DVの背景には歴史的、文化的な男性優位の社会があって、性別による役割分担の意識が根強くある。ですから、本質的には社会の構造がつくっている犯罪だと私たちは考えます。
藤田:DVについては、幸運にして体験者ではありませんが、男性優位の社会だということについては、やっぱり思うことは多々ありますね。うちの会社にいるとうっかり忘れてしまいそうですが(笑)。
鈴木:うちの会社はその点、女性従業員の数が多いですし、結婚や出産を経て仕事を続ける女性も多いんです。高圧的な男性上司というのも、幸いあまり見当たらなくて、むしろ、けっこう女性が強いというか(笑)。
近藤さん:それは素晴らしいですね。家庭でも職場でも、男女お互いの良さを持ち寄って、互いに尊敬し合い、高め合える、それが本来の姿なはずです。ただ、人生何が起こるかわかりません。結婚した相手が理想の人だったか、結婚がベストな選択だったか、どれも結婚した後から初めてわかるんですから。長年DV防止の活動に関わってきて思うのは、いつでも相手と別れられるような生き方をすべきだということです。そのために経済的な自立は必須です。
藤田:経済的な基盤がないと、それだけで人生に消極的になるというか。気持ちよりも現実の生活を優先せざるをえないこともありますよね。
近藤さん:DV被害者にも多いんです。ひとりだと生活ができないから我慢するとか、子どもを養う力がないから家を出られないという女性が。もうそうなると、地獄ですよね。
被害者の、SOSを見逃さないために
鈴木:最初からずっと、「3人に1人が」というのが気になっているのですが、被害に遭っていても打ち明けない人を見つけることはできますか?例えば、友人のこんな様子を見たら疑った方がいい、ですとか。
近藤さん:一般には、表情が暗いとか、顔色が悪くなってきたとか、やはり「何か悩んでいるようだ」と思わせる様子を示すことが多いです。あとは、帰宅時間をとても気にすることも。そういう時は、「何かあった?」「前と違うよ」と、私はあなたのことを気にかけていますよというメッセージを出し続けてください。さりげなく、私たちのような団体のヘルプラインカードなどを渡したりするとか。
鈴木:SOS、察知したいですよね。
近藤さん:被害者は隠しているけれど、本当は言いたいんですよ。助けて欲しいんです。一言二言でもそれらしいことを口にするようでしたら、なんとか、おせっかいを焼いてみてください。「いっしょに行くから相談しに行こう!」とか。彼女たちは耐え忍ぶ手段を習得していて、「たいしたことない」と言いがちですが、そこで放っておいてはいけません。
藤田:今まで意識したことがありませんでしたが、これからは少しでもSOSに気づけるかな。すぐにDVの問題をなくすようなことができないのは残念ですが、せめてまわりにつらい思いをしている人がいたら気づけるようになりたいです。
近藤さん:DVの根底には女性差別がありますが、性別のことに関わらず、たまたまの出自で差別されるようなことはあってはなりません。そしてなんにせよ、暴力で自分の思うようにしようというのは許されない。こうしたことに、誰もが敏感になり、はっきりと「NO!」と言えるような社会にしなくては。そして、家庭や学校教育の中でも、愛情のあるパートナーシップの大切さを、もっと教えていくべきだと思います。
対談を終えて
鈴木:想像以上に衝撃を受けてしまい、気持ちの整理がつかないほどです。DVがこれほど多いなんて、そして加害者もそんなに大勢いるなんて、人間不信になってしまいそうです。同時に、これまで意識したことがなかったために、悩みを抱えている人に気づいてあげられなかったのかな、とも考えてしまいました。恐怖に支配されて動けなくなる心理などは少しは理解できると思うので、そんな小さな糸口からですが、これからは少しでも被害者の気持ちに寄り添うことができるでしょうか・・・。
藤田:重いテーマで、簡単にはいろんなことを言えませんが、お話をお聞きしながら、自分の経験や環境に置き換えていろいろと思いを巡らせました。良品計画は女性が多い職場なので、知らず知らずに助けられていることが、きっと多いんだろうなとか、自分が仕事をしていなかったら、経済的な基盤を持っていなかったらどうだったろう、とか。DVそのものもですが、社会の中で女性が置かれている立場についても、改めて考えさせられました。
全国女性シェルターネットは、2012年11月26日から2013年2月24日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
874人の方から合計82,510円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
実施中の募金券はこちら