研究テーマ

フェアトレード カカオ農園を訪ねて

カカオの産地、ドミニカ共和国

世界一のコーヒー産地のブラジルを訪問した後、次ぎにカカオの生産地であるドミニカ共和国(以下、ドミニカ)へ移動しました。ドミニカは中米のカリブ海に浮かぶ島々の中で2番目に大きいエスパニョーラ島にあり、その島の約1/3はハイチ共和国、約2/3がドミニカです。ドミニカの国土面積は、日本の九州地方を少し大きくしたくらいであり、経済は砂糖やカカオなどの農業が主要産業ですが、その農作物の輸出と観光などで主に外貨を得ている国です。特に、砂糖の輸出で得る外貨は全体の約50%にもなるそうですが、カカオの生産も世界第9位ということで有数の生産国でもあります。
そこで、今回は「フェアトレード ミルクチョコがけコーヒー豆」と「フェアトレード ホワイトチョコがけコーヒー豆」に使用するチョコレートの原料であるカカオ農園のあるドミニカを訪ね、農家の皆さんや農協の方々の栽培や生産体制などについて、さらにフェアトレードのプレミアムによって得られた効果などを教えていただきました。

カカオ農協の活動と品質

首都サント・ドミンゴから車で移動し、まず「CONACADO(コナカド:Confederacion Nacional de Cacaocultores Dominicanos)」農協を訪問しました。ここには現在約10,000人もの生産者が加盟しているというドミニカでは最大の農協です。この農協は、当時カカオの収穫が不安定で十分な収益が見込めない農家同士の連携を図ったり、カカオ豆の品質向上や継続的な自立支援に向けた取り組みの推進を目的に1988年にカカオの組合として設立されました。
これまで多くのカカオ農家の人たちは、小規模ながらも自前の農園で個々に栽培をしていました。しかし、出来上がったカカオは少しでも早く現金に換えたいと、カカオの成長や熟度、醗酵、乾燥等にバラツキがあってもすぐさま市場へ売りに出してしまっていたそうです。しかし、それでようやく手にする現金は通常のカカオ相場を大きく下回った金額を手にしていました。せっかく作ったカカオが安い値で買われてしまう状況を変えなければいけないということで、コナカド農協が誕生したそうです。
今でも、ドミニカのひとつひとつのカカオ農園の規模は大きくありません。そこで、コナカド農協では、まず個々で栽培し、収穫していたカカオ農家を小さな集団として取りまとめ、それを生産ブロックごとにまとめました。その各ブロックにはコナカド農協から品質管理などの担当者がつきます。その担当者はカカオの最適な収穫時期から、発酵および乾燥のタイミングについて農家の方々へのアドバイス、時には物流のことまで指導や管理をしているそうです。その成果もあり、カカオの熟度を見計らって最適なタイミングで収穫されるようになり、さらに各農園で収穫されたカカオの果肉は、生産ブロックごとに設置されている共同のカカオ醗酵所や乾燥所で集中して加工するようになりました。この集中加工という手段は、農園ごとの品質面でのバラツキを軽減することに繋がっています。さらに、オーガニック栽培に関する有識者も各ブロックにて栽培指導をしていることもあり、コナカド農協のカカオ豆の品質はだんだんと安定していきました。つまり、1つの農園単位では不可能だった様々な課題や問題が、農協とともに、または農家同士の連携を持つことで解決につながり、結果としてカカオの品質も生産も飛躍的に上がったのです。

オーガニック栽培のフェアトレード認証カカオ

コナカド農協では設立以来、100%フェアトレードでカカオを生産しており、またそのうち80%以上がオーガニックでの栽培を行っているということが大きな特長です。とはいえ、多くの農園では最初からオーガニックで栽培しようとして今に至るわけではなく、もともとドミニカの農地や農園の多くがカカオ栽培に適した肥沃な土壌や地形だったこと、そして雨量などの天候も好条件であったことから、カカオ特有の病気などの影響を受けにくい環境が幸いし、農薬や化学肥料などに頼らない栽培が行われてきました。そのため、自然発生的にオーガニック栽培が主流となり、それが今でも続いていると農協の方が教えてくれました。今回訪ねた農園でも、背の高いカカオの木の葉のおかげで、園内は強い太陽の日差しが程良く遮られ、常に薄暗い状態でした。そのせいもあり、地面に含まれた水分は晴天でも乾燥せず、ある程度の湿気が維持されているようでした。そのうえ、園内の地面はたくさんの枯葉で覆われているため、歩くとふかふかと柔らかい感触でした。これがやがて農園の肥料になるそうです。だから、化学肥料は必要ないというわけです。
また、オーガニック栽培にする理由として、より商売につなげたいという意味もあるそうです。オーガニック栽培には維持するための特有の難しさや厳しさもありますが、国際的機関によるオーガニック認証が取得できれば、通常のカカオよりも高値で取引され、また継続的な栽培支援も受けられるからです。一方で、化学肥料や農薬はとても高価なものでもあります。そのため、小さな農園では経済的な理由で肥料の購入が難しかったという状況も、結果としてオーガニック栽培となった理由の1つだと、農協の方が話してくれました。
今回、商品開発をするにあたり、ドミニカのカカオを原料に選んだ理由は、オーガニック栽培だからとかフェアトレード認証だからということを優先させたのではなく、とにかく1番は「味」へのこだわりでした。ドミニカのカカオは独特な香りを持っていることに加え、力強い味わいも特徴だと聞いていましたが、実際に味見をしてみて驚きました。ドニミカのカカオは意外にもフルーティーであり、でも少しだけスパイシーでもあり、独特な味わいを持っていたのです。しかも、味見をしたことで、もう1つの原料であるブラジルのコーヒー豆との相性が良いということがわかり、組み合わせへの確信を持つことができました。農園でもカカオの実を少しだけ口に入れてみましたが、驚くほど芳香な香りと甘みがあり、これが日本で味見をしたドミニカのカカオから感じたフルーティーさにつながっているのだと感じました。このように、現地へ行ってみないとわからないことも多く、改めて今回の訪問でまたひとつ勉強になりました。

フェアトレードの需要と供給

コナカド農協は、1995年にFLO(Fair Trade Labeling Organization International)の認証も取得しています。FLO認証では、国際カカオの相場が、オーガニック認証の場合は2,300$/tを下回ったときに最低保障としてこの価格が適用されるそうです。これは相場の急激な価格の落ち込みに対してとても有効で、これによりカカオ農家の困窮を防ぐことに繋がるからです。
また、カカオ豆の価格が最低保障価格2,300$/tを上回っている場合は、相場価格を基準とした取引に加え、200$/tのフェアトレード・プレミアム(奨励金)が加算されます。カカオ生産の世界では1tにつき200$のフェアトレード・プレミアムという保障は、農家にとっては大きな金額です。ちなみに、このフェアトレード・プレミアムで得た現金は直接カカオ農家の方々に代金として分配されるのではなく、コナカド農協の場合は、一旦全てコナカド農協の本部に集められ、使途は生産者と農協とで話し合いながら、皆の合意を得た上で民主的に決められるそうです。例えば、地域の経済的・社会的・環境的な開発や設備投資、または子供たちの教育のため、さらにカカオの品種や苗の品質向上のためにも利用されることが多いとのこと。大切な収入であるフェアトレード・プレミアムは、個人の収入として分配するのではなく、地域や農業の発展など、将来のために投資されることが多いということを教えていただきました。
今回訪ねた地域では、フェアトレード・プレミアムを使って、コンピュータールームを建設していました。農園の周辺には小学校に通いたくても遠くて通えない子どもたちも多く、その子どもたちが通うための施設として利用していました。今から約3年前に設立され、現在は24名が通い、すでに86名ほどの卒業生がいるそうです。このコンピュータールームへは、7歳以上なら誰でも通えて、毎週月曜~土曜の9:00~12:00まで授業があり、全てパソコンを使った体験学習になります。ここは、子供たちにパソコンを使うことに慣れてもらうためのものですが、その結果、子供たちが生まれてから農園での作業しか知らずに育っていくのではなく、将来自分が今よりも大きくなったときに勉強の大切さや楽しさを覚えていて欲しい、さらには広くいろいろな世界へ興味を持つきっかけにもなれば、ということも期待した施設だそうです。この先、フェアトレードの恩恵から卒業し、自立した生産者になるためにはさまざまな知識が必要になります。コンピューターの操作もそのひとつ。世界の貿易相手と取引を行うためには、最低限必要な技術だと農協の人たちは考えています。また、このコンピュータールームと同じ建物には会議室も作られており、農協の職員と農家の人たちとのミーティングの場としても利用しているそうです。
今回、農園で聞いた話の中で特に印象に残ったことは、100%フェアトレード認証のカカオを生産しているにも関わらず、需要と供給のバランスが合わない場合、その余剰分は普通のカカオの相場で安く売らざるを得ないという事実でした。というのも、フェアトレード先進国であるヨーロッパでも、近年の経済的状況から需要が減ってしまっているために、このような現象が市場でよく起きているそうです。とはいえ、フェアトレードとして売られなければプレミアムが入りません。でも、この地域では生活環境の改善のためには、まだ沢山の資金が必要です。また、フェアトレード認証のカカオを栽培し続けるには、各プロセスでの厳しい監査もあります。商品管理や労働条件、農薬に関わることなど、その項目は非常に多いと聞きます。このように、たくさんの手間をかけ、丹精こめて良いものを生産していても需要が無ければ安く買われてしまう。市場という世界で考えれば起こりうることなのかもしれませんが、今回のお話では、それがフェアトレードカカオの生産量の約半分もあるということでした。これには非常に驚いたとともに、本当に厳しい世界なのだと現実を思い知らされました。
今回の訪問で改めて思うことは、私たちにできること、つまり長くフェアトレード商品を販売し続けることなのだということです。長く続けるには、当然お客様に喜んでいただける美味しい商品を作らなくてはなりません。1つでも多く、1日でも長く継続して販売していくことが、遠く離れた国で大切に栽培してくれているカカオ農家の皆さんの暮らしと笑顔に繋がることなのだと考えると、とても身の引き締まる思いです。