Iターン急増で、耕作放棄地の争奪戦に
中島:地元の人たちの見る目も変わったんじゃないですか?
曽根原さん:そうですね。移住したばかりのころは、怪しまれていた気もしますし、せいぜい相当な変わり者と思われていましたよね。離農が進む所に来て、もくもくと耕し始めるし、放置された山に入るし。でも、どれも何らかの形にしたし、そのうち農業体験や研修を企画するようになったら都会からどんどん人が来るようになったでしょ。一目置いてくれるようになりました。近隣の限界集落地区からも声がかかって、個人としてやるには手が回らなくなったので、組織をつくって動こうと、NPO法人化して拠点を増富(ますとみ)というところに置きました。
石川:それが今の、えがおつなげてさんなんですね。
曽根原さん:はい、今は10人少々のメンバーでやっています。みんなIターンかUターン者です。私も住まいは今も白州ですが、週の半分近くは東京に来ています。ある時点から腹をくくって、地元の現場はスタッフに任せ、自分は張り付くことをやめました。そのほうが組織運営上、うまく機能するのです。
石川:その感覚はすごくよくわかります。私もキャンプ場の担当者として、新潟の津南、岐阜の南乗鞍、群馬の嬬恋の3ヵ所を見ています。それぞれ現地採用のスタッフが地元にいます。私はもともとアウトドアの仕事がしたくて入社したので、現場にいる気満々だったんです。でも、訪れるお客さまにとっての良いサービスを提供することと、それぞれの地域で地元の皆さんと良好な関係を築くこと、このふたつの大事なことを両立するには、全員が現場にいれば良いというわけではないんだと、次第に思うようになりました。少し距離のあるところに身を置く役目の人間もいたほうがいい。
曽根原さん:私もその通りだと思います。現場にいるほうが何でもコミュニケーションがうまくいくかというと、そういうことでもないですからね。
中島:えがおつなげてさんはIターン、Uターンのスタッフで構成されているとのことですが、地域としてはどうなのでしょう。ご活動によってその土地に興味を持って、移住を検討する都会の人も増えたのではないですか。
曽根原さん:Iターンはものすごく増えましたよ。300人の集落が750人になったんですから。
中島:それはまた、尋常じゃない増え方ですね!
曽根原さん:そうそう。新規就農が急増して、今となっては耕作放棄地の争奪戦ですよ(笑)。
海外や、大企業も注目する活動に成長
石川:Iターン者が就農して、耕作放棄地の争奪戦だなんて、あやかりたい自治体がごまんとありますよね。
曽根原さん:そう、だから視察もすごいの。視察もだけど、いろんな所に呼ばれます。全国津々浦々、伺ってないのは長崎だけかな。最近では海外からも声がかかって、韓国でしょ、カンボジア、それにシリコンバレーからもお声がかかっています。(笑)
石川:曽根原さん、楽しそうですね(笑)。
曽根原さん:楽しいですよ。面白そうな話も、やってみたいことはいっぱいあるけど自分のための畑もやりたいし、体が足りないくらい。
中島:要するに、ずーっと楽しんでるんですかね、曽根原さんは。
曽根原さん:好きなことをしてますからね。最近では、企業とのコラボが盛り上がってきて、これもまた面白いんですよ。CSRの一環で農業に取り組んでもらって、そのマンパワーで棚田を再生したりしてね。そこで無農薬で育てたお米でオリジナルの日本酒をつくって、去年もすぐ完売。東京の丸の内で働く人たちがつくったお米だから、その名も「純米酒 丸の内」ですよ。面白いでしょ。
石川:自分たちで再生させた棚田でできたお米で!いいなぁ、うらやましい。そんなお酒、格別でしょうね。
曽根原さん:格別、格別!自分でつくったものは何でもそうですね。まぁ、それを抜きにしてもこのお酒はイケますけどね(笑)。
石川:入手して飲んでみます!
農村の活性化、カギになるのは人材
曽根原さん:それにね、食べるものを自分でつくることができるって、替えがたい安心感につながりますよ。私はもともと食糧問題を自分事として考えていましたから、うちは、米も醤油も3年分備蓄してます。ついでに薪も3年分(笑)。
中島:いろんな意味で、生きる強さを教わる気がします。何事も楽しんでなさっているので、こちらも楽しくお聞きしていましたが、ずっとそうしたご活動をされてきた曽根原さんから見て、今の農山村の最大の課題はなんであると思いますか。
曽根原さん:皆さんがご存知の、過疎化、高齢化とか、それに伴って農業の担い手が減っているとか、山林が荒れているといった問題は、全国的に見れば今も解決されていない大問題です。解決のための課題をあえてひとつ挙げるとすると、人材だと思います。
中島:人材不足ということですよね。どんな人材が求められているのでしょうか。
曽根原さん:農業を知っている人、山を知っている人、それも知識ではなく、肌身で知っている人で、かつ、マネージメントの能力を持っている人です。都会には、マネージメントの担い手はたくさんいますが、農山村に移住を検討する人の中にも、両方の条件を兼ね備えている人は少ない。私たちも、人材育成にはますます力を入れていくつもりです。
対談を終えて
石川:曽根原さんは、経営コンサルタントからの転身を、自然な成り行きであるようにとらえているようでした。先を見通す力量もですが、ものを考えて着地させるという能力を発揮するという点では、何をするにしろ共通しているんだろうなと思いました。印象的だったのは、ご本人が本当に楽しんでやっているということ。曽根原さんには仕事とプライベートの境目がないんでしょうね。私も、そうありたいと思っています。きっちり分けるという考え方もありますが、人生の中で仕事をしている時間って長いですもん。やりたいことを仕事にして楽しむのが理想ではないでしょうか。やりたいことを仕事にするため何をすべきか考えるのを出発点にしてもいいですね。刺激になりました!
中島: 思っていた以上に楽しく気軽にお話ができました。お会いするまでは、疲弊する農村の活性化に取り組む使命感に燃えた方だと思っていました。実際、それもあるのだろうとは思いますが、「好きなことをしてて楽しい」とさらりと言って、本当に楽しそうで、こちらまで楽しくさせる方でした。行動力には感心するばかりですけれど、この、曽根原さんの楽しげな様子が周りの人を引きつけて、いろんなことを成功に導く大きな要因になっている気がします。妻の実家がある信州でも、やはり耕作放棄地が目立っていて、いつもぼんやりと気になっていました。これからはそうしたところを見る目が変わりそうです。
えがおつなげては、2013年2月25日から2013年5月23日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
104人の方から合計31,160円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
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