研究テーマ

社会貢献を知ろう!「良品計画社員と学ぶNGO・NPOの活動」第46回ウォーターエイドジャパン×良品計画水と衛生。生きるために不可欠な環境をすべての人へ

さまざまな水源と設備

見市:水道設備というと、どんなものを設置するのでしょうか。

高橋さん:まずは給水施設ですね。飲み水を確保する場合、湧き水や河川などの水源はあっても、衛生的な環境が維持されていないから飲むことができないという場合があります。そういう場合はたとえば動物が入ってこないように、囲いをつくったりもします。

水内:資材などは、どのように確保しているのですか。

高橋さん:基本的には現地のものを使うようにしています。そうしないと、壊れたときのメンテナンスができなくなってしまいますから。あとは井戸も掘ったりしますよ。

見市:正直、井戸掘りというイメージが強かったです。

高橋さん:頭に浮かびやすいんですかね、割とよく言われます。ただ、井戸ってポンプが壊れやすかったり、場所によっては深く掘削をしないといけなかったりするので、設置できる場所が限られてくるんです。したがって、湧き水や河川、雨水など現地にある資源を有効活用することが多くなります。以前、ネパールのプロジェクトで利用した面白い水源が、霧。

水内:霧って、あの霧ですか。すごい。

高橋さん:ネパールだと標高が高く霧がよく出る地域があります。そこに大きな網を張って雨どいみたいなものを利用して溜めるのですが、一日で最大5000リットル溜まります。

見市:本当に地域によって、利用できる資源は全く変わってくるんですね・・・。必要な情報は、現地の住民の方々に尋ねているのですか。

高橋さん:住民の方だけでなく、現地のNGOとも一緒に活動しているので、その際に教えてもらっています。「水がないなら井戸を掘ろう」って考えちゃえばシンプルなんですけど、やはり地域によって突き詰めていくと知識だったり、水道だったり、トイレだったり、何が足りていないかって本当に千差万別なんですよね。基本的には色々な情報を集めて、現地にとって最適な選択が何かを考えるのをスタートとしています。

地域に「トイレ」という設備を根付かせる

水内:トイレ設備の問題は、ほぼイコールで衛生面の問題ですよね。

高橋さん:そうですね。トイレのない生活の場合、野外排泄をするか、または公共のトイレを使うかということになります。一定以上の人数が固まって生活している場合は、どうしても不衛生な生活環境に繋がってしまい、結果として、下痢など健康面に影響を及ぼすことが多いです。年間にすると、約50万人を超える子供たちが下痢で命を落としています。

見市:50万人!?日本で暮らしていると、とても考えられない数字ですね・・・。トイレを設置することで解決していっているのでしょうか。

高橋さん:これは飲料水と少しアプローチが違って、家庭用のトイレについては、私たちから積極的につくらないことにしているんです。

水内:えっ。どうしてですか。

高橋さん:意外なことに、ただトイレをつくっても住民の方があまり使わないことがあるんです。女性はともかく男性は、これまでのびのびと青空の下でしていた行為を、わざわざ暗くて狭い個室でやりなさいと言われても抵抗があるんです。場所によっては、トイレを設置した数日後に村を訪れてみたら「汚れると困るから鍵をかけておきました!」って言われたりとか(笑)。

見市:文化の違いを感じますね。トイレをつくらないとなると、地域の住民にはどのように働きかけているのですか。

高橋さん:ワークショップが多いですね。一年間の排泄物の量を計算したり、村の地図を書いて「○○さんはここでいつもトイレをしていますね。確認のために見に行ってみましょう」と言ったりしています。すると、自分が普段トイレに使っている場所を見られることの恥ずかしさがわかるんです。もちろん、野外排泄の不衛生さも同時に伝えています。

水内:なるほど。まずは外で用を足すことが不衛生に繋がる、という認識を共有するのですね。

高橋さん:ええ。こういった啓発活動が広がると、住民たち自ら各家庭にトイレをつくるようになっていきます。トイレをつくる前に、野外排泄をゼロにするのが理想的なんです。トイレで排泄するという考えが根付いた後は、その地域の石工などにトイレのつくり方を教え、それを商売にしてもらいます。

見市:現地での経済の活性化にもつながっていくんですね。

高橋さん:はい。ここまでやることで、野外排泄が当たり前だったり、家にトイレがあったとしても、そのトイレが「穴ぼこ」という地域に、野外排泄は不衛生なことで、衛生的なトイレを使うのが当たり前という習慣が根付いていくんです。

水内:息の長い活動になりますね。

高橋さん:トイレを普及させるって、その地域における日常の習慣を変えてもらうということなんですよね。不衛生ということをしっかりと理解しても、それだけでは習慣的な行動を変えることには至らないんです。啓発活動やマーケティングを行ったり、時には違う角度の知識を与えたり。様々な手法を組み合わせることで、長く続いていく変化へと繋がっていきます。

関心を持つことが、途上国と日本を結びつける

見市:活動を始めてから、状況の変化や手ごたえというものは感じていますか。

高橋さん:安全な水が使えない人に関しては、ここ数年は毎年2000万人ずつ減っています。トイレに関しては、数字で見える劇的な変化は最近見られていないですね。個別に色々な地域を見ると、野外排泄ゼロを宣言している自治体も増えてきていますが、「トイレの設置」という数字で大きな変化が出ている国は少ないです。

水内:水道などの設備と、トイレ。普及していく過程に、どのような違いがあるのでしょう。

高橋さん:トイレの場合、各国の行政で担当省庁がはっきりしにくいというのが一部影響していると思っています。トイレの普及には、衛生や農業、建築や教育など、非常に色々な分野が関係してきます。そのため、取り仕切る部門が不明確になってしまう。結果として、速度が遅くなってしまうんです。

見市:担当が不明確だと、推進していく優先順位が下がってしまいますよね。難しい問題です。どういった解決の道が見えていますか。

高橋さん:日本からの支援が重要になってくると思います。実は日本って、水とトイレの問題について世界で一番、たくさんの資金援助を行っている国なんです。世界における水分野と衛生分野の援助の、実に約6割が日本からの援助だったりします。今後の活動の推進において、もっとリーダーシップが発揮できる可能性を秘めているんですよ。

水内:初めて知りました。言われてみると、日本では当たり前のように衛生意識が浸透しています。それぐらい、水とトイレの問題について先進国なんですね。

高橋さん:意外と日本人よりも、現地で支援を受けているからこそ、途上国の方々はそのあたりはよく知ってくれているんです。活動をしていると、「日本人の○○さんって知ってる?」と尋ねられることがあります。そして、その人がいかにいい人だったかをお話してくれるんです。東日本大震災や広島の土砂災害のときにも、心配して連絡をくれました。

見市:やさしい方々なんですね。寄せていただいた関心に、少しでもいいから応えていきたいです。ひとりひとりが、そういう意識を持っていけると大きく変わりますよね。

高橋さん:はい。互いに関心を持って、途上国の状況や、世界的に見た日本について、ひとりひとりがもっと知っていくということがすごく必要なことだと感じているんです。色々なことを知れば、できることも広がっていきます。簡単な問題ではないからこそ、みんなが知ろうとする、考えていくという社会こそが、途上国の問題解決に必要なことだと思っています。

対談を終えて

水内:私たちが、水に囲まれたきれいな土地で暮らしているということ、そしてそのことを普段考えてすらいないという事実に改めて気づかされました。恵まれた環境で過ごしているということに気づき、ちゃんと自覚を持つことって大切ですよね。まずは自分の国や色々な問題に関心を持ち、できることが何なのか、しっかりと探していきたいです。

見市:世界中の人たちに向けて、どうやって満遍なく水を分配できるのか、少しでも自分にも貢献できることを考えていきます。仕事をしていると、さまざまな問題について知ったからといってなかなかその後の行動として実現していくのは難しいです。けれども、今後はしっかりと行動に移していきたいですし、少なくとも関心は持ち続けていたいと思います。

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