研究テーマ

社会貢献を知ろう!「良品計画社員と学ぶNGO・NPOの活動」第48回 森は海の恋人×良品計画 山・川・海、そして人の心に樹を植える

復興からも感じ取れる、森と海との繋がり

山崎:気仙沼と言うと東日本大震災の印象も強い地域です。当時の被害状況はどうだったのでしょうか。

畠山さん:震災前、気仙沼湾に流れている川にはサケやウナギが戻ってきていました。それぐらい、水質や生態系が整い始めていたんです。そうして長年の活動が実ったことに喜んでいた矢先の、1000年に1度という規模の東日本大震災でした。震災の直後には、海や河川から、生き物たちがまるっきりいなくなってしまったんです。

薮内:想像を絶する状況ですね・・・。

畠山さん:海が壊れたのかもしれないとさえ思う、凄まじい絶望でした。ところが幸いなことに、震災から半年後には、牡蠣をはじめとした多くの生き物たちが戻り始めたんです。

山崎:そこまで絶望的な状況から、半年ですか。復興を実現した要因はなんだったのでしょう。

畠山さん:河川流域の水質や生態系が整っていたことが影響していました。流域沿岸部における植林などの活動が根付いていたため、栄養価の高いプランクトンたちが育ったのです。結果として、牡蠣やホタテが育つ海に半年で戻ることができました。

薮内:森と海の繋がりを象徴するような、すごいお話です。

畠山さん:自然というものは、地道な活動にきっちりと答えを出してくれるんですよね。「森は海の恋人」という名前は食物連鎖の構造だけではなく、ひとつひとつのものに繋がりがあるという、根本的な自然の在り方を表してもいます。ちゃんと全体を見て活動を続けていけば、ひとつ何かが失われてしまっても、時間をかけて元に戻っていくことができるんです。

環境教育が未来をつくる

山崎:活動の翌年から教育活動を始められたそうですが、かなり早期に着手されたんですね。

畠山さん:はい。幅広い分野の人々に考え方を広める手段として、子どもたちへの教育が一番良いのではないかと考えました。子どもたちに現状を知ってもらうことは啓発の地盤づくりとしてとても大事ですし、子どもから大人へ考え方が波及していくことも珍しくありません。

薮内:実際にはどんなことをするのですか。自然との繋がりを実感できる体験学習というと、なかなか難しそうです。

畠山さん:例えば、プランクトン・ネットという、プランクトンを捕まえるための網を持参した船で、子どもたちを海の沖合まで連れて行きます。そうして、プランクトンが多く含まれた海水を、一口だけ飲んでみるよう促します(笑)。

山崎:すごい体験ですね(笑)。どんな味がするんですか?

畠山さん:植物プランクトンが圧倒的に多い海水なので、青臭い、キュウリのような味がします。その後学校に戻って、実際にその海水を顕微鏡で観察することで、プランクトンが動く様を目にするんです。同時に公害病など、人間の生活が自然に与えていく影響についても教えます。プランクトンを通して食物連鎖を体験的に学ぶことで、自分たちの生活と自然との繋がりを深く理解できるんです。

薮内:科学的な知識も大切ですが、知識だけでは実感が沸きにくいですもんね。子どもたちも楽しめそうな授業です。反響はどうだったのですか。

畠山さん:「総合学習」という教科が導入された当時でもあったので、反響は大きかったですね。注目が集まったことから、私たちの活動も広く認知されるようになりました。

山崎:授業を受けた子どもたちの反応というのはどうですか。

畠山さん:「体験学習をしてからシャンプーの量を半分にしました」という声や、あるいは親に洗剤を減らすよう働きかけるようになった子どもたちの声がたくさん寄せられています。食物連鎖というものは、最終的には人間に返ってくる現象なんですよね。それを未来を担う子どもたちが実体験として知ることは、非常に大きな意味があると思います。

人の心に樹を植える

山崎:「森は海の恋人」の活動における、今後の活動の広がりというのは、どういったものになっていくのでしょうか。

畠山さん:地域的な広がりで言えば、近年では日本国外へも広がりが見えてきました。例えば農業国であるフランスでは、海辺へ農薬のしわ寄せが来ています。そういった地域への啓発活動として、活動内容をまとめた書籍をフランス語に翻訳しています。他には、フィリピンの牡蠣をつくっている地域に出向き、地域の方々に自然と人々の暮らしについて学んでいただけるような機会もいただきました。

薮内:世界的な広がりを見せているんですね。それは、気仙沼湾における考え方や問題解決のノウハウには、様々な地域で適用できる汎用性があるからなのでしょうか。

畠山さん:そうですね。河川や海は日本だけではなく世界中にあり、その数だけ流域に暮らしている人々がいるんです。人々の暮らしの問題と、自然の恵みが豊かな河川の流域の問題とは切り離せません。だからこそ、汽水域である気仙沼湾を中心とした私たちの活動は、多くの地域において活用できる可能性を秘めているのだと思います。

山崎:それではより一層、考え方の広がりが大切になるんですね。今だけではなく30年後や50年後を視野に入れて、どういった行動を起こしていくか。自分でも考えを深めていきたいです。

畠山さん:はい。やはり自然の問題というのは短期的な視野だけで考えるものではないと思うんです。たとえば希少種を育てよう、種を蒔こうという活動も大切ですが、同時に希少となってしまった生物が繁殖できる環境を整え、生物多様性を保つことのできる生態系すべてを保護していくことも考えていかなければいけません。広い視野で自然界の「これから」を見ていく必要があるんです。

薮内:私たちひとりひとりが、意識していく必要がありますね。結果的に人間の行動が、すべて人間に返ってきてしまうわけですし。

畠山さん:逆に言えば、生物多様性を維持して生態系を健全な状態に保つことは、人間も含めたあらゆる生き物を豊かにします。そういった認識を、もっと多くの人々に知ってほしいですね。

山崎:考え方が広まって、人々の行動が変わっていけば、地球環境すべてに影響していくんですね。

畠山さん:最近は啓発活動について「人の心に樹を植える」という言葉で表現しています。地域で暮らしている人々が関心を持って取り組んでいくことが、実は地球環境の問題を解決していく一番の近道なんです。これからも、多くの人の心に環境への意識が根付いていくよう、活動を続けていきます。

対談を終えて

山崎:食物連鎖や自然の分野の問題ですので、長いスパンで考える必要があるからこそ、日常の小さなことの積み重ねが大切なように感じました。自分にできる事を考えて行動に移し積み重ねていくことは、結果に繋がっていきます。今日お話を伺って知った知識を周囲の人々に伝えていくことも含め、少しずつ出来ることを継続していくことで、地球環境などの大きな問題に対しても役割を果たしていきたいです。

薮内:あらためて森と海の繋がりの深さを感じることができました。私は食品部で働いているため、普段は食品をお客さまに提供する側です。そういった立場としても、ただ販売をするだけではなく、自然界における繋がりや、ものの見方について伝えることができる手段がまだまだあるのかもしれません。周りの人へ伝えていくことだけに留まらず、そういった業務を通じた部分でも、自分に出来る事を考えていきます。

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