気軽に参加できる、様々な「場」をつくる
宗実:アークヒルズで「ヒルズマルシェ」という朝市の運営を行っているとお聞きしました。
宮治さん:「ヒルズマルシェ」は森ビルさんからの委託事業として運営しています。各地の農家が市場に出展して直販を行うプロジェクトです。もちろんこせがれたちは参加できますし、ベテランの農家たちも参加します。生産者と生活者が出会える「場」づくりの一環ですね。
大箸:実際に商品を買う人から、フィードバックがもらえますね。農家の方々というのは、どういったことをお客さまから聞いてみたいのでしょうか。
宮治さん:例えば、スーパーで売っている野菜と比べた味の差などを聞きたいでしょうね。あと、逆の面からみると、本当は生活者の方々も農家に聞きたいことがたくさんあると思うんです。例えば美味しい料理法や、旬の時期などを知れると嬉しいですよね。そういった「生活者が何を聞きたいか」ということを知れるコミュニケーションそのものが、とても大きな学びに繋がると思います。
宗実:交流会やマルシェなど多くの取り組みがあるので、興味を持った人それぞれが、自分にとって参加しやすい方法を選んで関わっていくことができますね。
宮治さん:そもそも農家のこせがれネットワークが動き始めたときに、最初にぶつかったのが「こせがれを探すにはどうしたらいいのか」という課題でした。こせがれ自身は、普通に働いていて、農業の情報にアンテナを張ってすらいないことも多いんです。だから、色々な取り組みをしながら、こせがれに向けた情報発信の方法や、求められていることなどを調査している側面もあります。
大箸:「会員」みたいな堅苦しさを感じないので、農家の人にとっても参加しやすい取り組みのように思います。
宮治さん:実は、あまり堅苦しくない緩やかなネットワークというのをとても大切にしているんです。色々な活動をしていますが、あくまで根本としては、農家のこせがれたちが気軽に参加できるネットワークを広げることで、帰農に向けたはじめの一歩を踏み出す場づくりが出来ていければいいと考えています。
農業を「かっこよくて・感動があって・稼げる」産業に
大箸:宮治さんがこの活動を始めたきっかけは、ご自身の帰農時の体験からとお伺いしました。どういった経緯で帰農をされたのでしょうか。
宮治さん:実は元々僕自身、農業を始める気はなかったんです。よく農業界は3K産業と言われますが、僕は半分冗談で6K産業だと考えていました。「きつい・きたない・かっこわるい・くさい・かせげない・結婚できない」の6Kです(笑)。
宗実:バッサリですね(笑)。そういった考え方をされていたのに、帰農という道を選ばれたのですか。
宮治さん:ええ。起業することを目指して色々と調べていた際に、逆に今の農業が抱えている問題を解決する策を編み出して、生産からお客さんの口に届くところまでを一貫してプロデュースできるような仕組みを実現できれば、農業は「かっこよくて・感動があって・稼げる」、そんな3K産業になるんじゃないかなと閃いたんです。そこで会社を辞めて、実家の豚農家を継ごうと決心しました。
大箸:問題解決の手段として、どういったことを行ったのでしょうか。
宮治さん:既存の仕組みを活用することを考えました。具体的には、流通の経路を少しだけ変えることで、お客さんに豚肉を直販できる仕組みをつくったんです。ただし、直販するには認知度を高めて指名買いをしてもらう必要があります。そこで始めたのがうちの「みやじ豚」を使ったバーベキューです。
宗実:バーベキューと農業。どういった繋がりがあるのでしょうか。
宮治さん:毎月、みやじ豚を食べることのできるバーベキューイベントを開催しています。美味しかったらそれをインターネットで買ってくださいね、あるいは飲食店を紹介してくださいね、という仕組みです。ファンを増やしていくことで、口コミでどんどんお客さんが増えていきました。
大箸:イベントの運営まで行うとなると、農業そのもののイメージがだいぶ変わりますね。
宮治さん:はい。「農業」という言葉を耳にすると、ご老人が畑を耕しているようなイメージが浮かぶと思いますが、やり方を少し工夫することで、販売やイベント運営も、レストランのプロデュースなんかも、全部ひっくるめて「農業」になるんです。
農業の魅力と可能性を広めていく
大箸:幅広い活動をされていますが、今後の広がりとしてはどういった展開を考えているのでしょうか。
宮治さん:これまで色々な活動をしてきましたが、より農家のこせがれに焦点を当てた活動をしていきたいと考えています。そのひとつが「リファーム会議」という取り組みです。
宗実:「リファーム会議」ですか。どういった取り組みなのでしょうか。
宮治さん:「こせがれ交流会」をより問題解決に繋げるために深掘りした企画で、農家のこせがれに実家の作物を持ってきてもらうんです。そして特徴や想いを伝えて、実際に食べながら、色々な角度からの意見が聞ける場にしていきます。こちらの定期的な開催が、近々で達成したい目標のひとつですね。
大箸:様々な活動のお話に触れて、とても素敵な活動だと感じました。私たち生活者に、農業のこれからを考えて、支援できることというのはあるのでしょうか。
宮治さん:ありがとうございます。色々な手段がありますが、一番大切なのは、生産者の顔が見えるものを買うようにするだと考えています。もちろん無理のない範囲でいいのですが、対話をしたことがある関係の人から「この人がつくっている野菜」「この人がつくっているお肉」という意識で生産物を買う人が増えていくことで、世の中は大きく変わります。
宗実:確かに、野菜や肉の向こう側に、つくっている人の生活があるということを意識すると、野菜や肉などの生産物に対する見え方は、きっと違ってきますよね。
宮治さん:ええ。ただ、消費者に変わってもらうことを望む前に、まずは農業界全体で変わっていく必要があります。例えば情報発信の仕方も、「食料自給率が低いから農業を応援しろ」なんていうネガティブなものが多いですよね。そういったものばかりではなく、美味しい野菜を食べるための方法など、買う人が望んでいる情報をもっとたくさん発信していくことがとても大切です。
大箸:農業に対するポジティブなイメージが広がっていけば、こせがれたちの価値観も変化するかもしれませんね。
宮治さん:実家を継いで農家になるという道について、もっと多くの人に良いイメージを持ってほしいんです。農業へのイメージが変わっていけば、農家のこせがれたちにとって帰農は人生の有力な選択肢になり得ます。多くの農家のこせがれたちに農業の魅力と可能性を伝え続け、今後もきっかけづくりをサポートしていけたらと思います。
対談を終えて
宗実:私は元々農家の近くで育ったのですが、成長し働いていくうちに、農業というものとの距離感が、少し縁遠くなってしまったような感覚を抱いていました。お話を聞いたことで、改めて食卓に料理が並ぶまでの、色々な方の手をわたるストーリーのようなものを感じることが出来て、農業との距離感が少し縮まったように感じています。今後はより、野菜や肉を「誰かがつくった成果物」として、身近に感じることができると思います。ありがとうございました。
大箸:様々な活動をされていますが、ゼロから奇抜なことをされているのではなく、今の農業の問題点を突き詰めて、既存の仕組みを活用しながら改善していく工夫を実現されているのが素敵だと思いました。私は商品開発の担当をしていますが、直接お客様とコミュニケーションを取ることの価値はとても大きいものだと考えています。そのため、普段食べているものにおける、「直接顔が見える」関係の大切さに深く考えさせられました。今度、ぜひマルシェにお伺いしたいと思います。
農家のこせがれネットワークは、2015年8月25日から2016年2月23日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
48人の方から合計19,700円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
実施中の募金券はこちら