割り箸に込められたメッセージ
吉原:今日は割り箸も持ってきていただきましたが、この割り箸には間伐材が使用されているんですよね。
鹿住さん:はい。「樹恩割り箸」は、日本の森林を守るために国産材・間伐材を使っていくということを意識して始まった取り組みで、障がい者の方々の仕事づくりにもなっています。大学生協の食堂の排水を減らすという環境負荷の低減の意味もありました。
小松:割り箸づくりに間伐材を使っていけるのは大きいですよね。今や日常的に使うものとして、生活に非常に密接ですし。
鹿住さん:ただ、本当は間伐材は割り箸に適した木材ではないんです。さまざまな対策は行っていますが、間伐する木は成長途中の若くて柔らかいものなので、どうしても少し折れやすくなってしまいます。
吉原:なるほど。良品計画でも店舗などに間伐材をできるだけ活用できるよういろいろと検討をしていますが、間伐材の用途というのは他にどんなものがあるのでしょうか。
鹿住さん:今では正直なところ、あまり多くの用途はないですね。昔は間伐材の利用法として、建築現場の足場や、イネを干す、「はさがけ」をするための材、あるいは貨物を運ぶ際の緩衝材などがありました。けれども、プラスチックが浸透してきたことで、用途が減ってきてしまったんです。だから、今の時代で間伐材を使うというのは「あえて使うことに意味がある」ということを意識する必要があります。
小松:ただ、たとえば建築で使った資材に、「間伐材」という文字は入れられませんよね。間伐材を使っていると伝えていける割り箸が担う役割は大きいと思います。
鹿住さん:おっしゃるとおり、「間伐」という行為についてまず多くの人に知ってもらう必要があるんです。「樹恩割り箸」が始まって10年以上が経ちますが、「間伐」という言葉やその必要性の認知度は昔にくらべて非常に高まっていると感じています。割り箸は環境負荷がかかりますが、全く使わずに生活するのは難しいですよね。だからこそ使うときに、原料が樹木であり、山からつくられているということを考えてもらうことが大切です。そういった、ツールとしての役割が「樹恩割り箸」はとても大きいと感じています。
恩返しの気持ちから動き出し、あらゆる地域に広がる活動に
吉原:「樹恩割り箸」以外にも森づくり体験を行う「森林の楽校(もりのがっこう)」や、援農の入り口となっている「田畑の楽校(はたけのがっこう)」など、非常に多岐にわたるご活動をされています。最初のきっかけとしては、どういった事柄から動き出したのでしょうか。
鹿住さん:きっかけとしては、大学生協が農山漁村地域の方と出会ったことから動き出しました。最初の出会いとなったのが、農山漁村の廃校活用です。過疎地域で子どもが少なくなり廃校になってしまった学校が増えていたので、大学の合宿施設として活用を行いました。廃校活用は、今でもJUON NETWORKの活動として精力的に行っています。
小松:学校という建物は誰にとっても思い入れが深いものですから、そのまま放置されてしまうのはとても寂しいことですよね。なにより、廃校を活用できると地域がとても活気づくように思います。
鹿住さん:はい。もう1つ大きかったのが、阪神淡路大震災のときの出会いです。阪神淡路大震災は神戸という大都市で起きた震災でしたので、学生の寮やアパートも被災しました。行政が仮設住宅をつくってはいましたが、学生の分まで手が回らない可能性があると感じて、大学生協で仮設の学生寮を何か所かにつくりました。
吉原:学生の方々にとって、とてもありがたい支援ですね。
鹿住さん:その中に一か所、テニスコートの土地を提供していただいた場所があったんです。そこに、徳島県の林業関係の方が提供してくださった間伐材のミニハウスを58棟建てました。大学生はそのミニハウスに1年暮らしながら大学に通ったんです。それがなければ休学、あるいは退学になってしまっていたかもしれない学生たちの立場からすると、感謝の気持ちはとても大きなものでした。
小松:善意と善意がつながって温かい支援になった。とても素敵なお話ですね。
鹿住さん:ええ。この件がきっかけで徳島の林業関係者の方々と大学生協につながりができましたし、ミニハウスで過ごした学生たちも「徳島の方々に恩返しがしたい」という声が大きくなっていきました。そうしてつながりが強固になっていき、徳島の森林を手入れする「森林の楽校(もりのがっこう)」に端を発したさまざまな活動が動き始めました。つながりのきっかけとなったのは震災でしたが、今では日本のさまざまな地域の農山漁村に、恩返しの気持ちから始まった活動が広がっています。
交流人口の増加から、定住人口の増加へ
吉原:ご活動を始められてから、18年。都市と農山漁村を取り巻く変化というのは感じられていますか。
鹿住さん:「地方創生」という言葉を国が言うような時代になってきましたし、活動当初と比べると社会的な関心の高まりを強く感じています。企業の関心も強くなりましたし、連携して活動できるようなNPOも増えてきました。農山漁村と都市をつなげていくための、追い風のような空気を感じています。
小松:参加されている方々の心境の変化というのはどうですか。
鹿住さん:最近の傾向としては、学生の方がすごく目立つようになったんですね。就職活動を意識した、「学生時代に参加したこと」という選択肢のひとつに森林ボランティアは入ってきたように感じています。ただ一方で、定年後の継続雇用が充実してきたことで、60歳で退職した中高年層の方が減りつつあります。森林ボランティアの人口としては、打撃になっている部分もあります。
吉原:意外な影響ですね。ただ逆に、若い頃から活動に参加することの重要性が増してきているようにも感じます。これから参加される若い方に知って欲しいことや、どういったことを考えて参加してほしいというのはありますか。
鹿住さん:気軽に参加してほしいですね。というのも、若い方は結婚や出産がこれからの人生に控えているわけですから、ライフスタイルが変わりやすいんです。ただ、一度ボランティアに参加して、そこから長い時間経ってから違う形で参加するという人も多くいます。継続することも大切ですが、一度気軽に参加をし、農山漁村と一度つながりを持つことが、その後の人生に及ぼす影響は大きいですからね。
小松:「何かしたい」と思っても、参加することにハードルを感じてしまうというのはあります。気軽に参加してもいいということを知るのは、とても大切ですね。
鹿住さん:森林ボランティア活動では、一か所の拠点を対象に活動している団体が多いです。そういった中でJUON NETWORKは、多くの学生や若い方々に対して、最初の一歩として体験してもらえる場所を提供することを大切にしています。初めての人であっても、まずが気軽な入り口としてJUON NETWORKの活動に参加してもらえると嬉しいです。
吉原:入り口として参加したことが、その後の興味につながり、結果としてさまざまな活動につながっていくこともありますものね。
鹿住さん:はい。活動を続けてきて、農山漁村と都市の「交流人口」は増えてきていると感じています。ただ、実は次のステップとして「定住人口」を増やしていくことが大切だとも思っています。そのため、最近では実際に暮らしている人の声を届ける活動にも注力を始めています。まずは関心を持ってもらうための場をつくり、その次に定住を考えた人のこともサポートしていく。こうした活動を継続していくことで、今後も農山漁村と都市のつながりを取り戻す、その一助になるべく、力を尽くしていきます。
対談を終えて
小松:ホームページを拝見して「過疎化」「限界集落」「間伐材」など、言葉として知っている社会課題に、実際はどのようにアプローチしているのかということに興味を持っていました。そのうえで「交流」から「定住」へ、という道筋を知ることができて、大変勉強になりました。非常に深いテーマだと感じています。楽しく参加することもとても大切ですが、そこから先のステップとして使命感を持ちながら地域や自然を守っていくということに行き着くというのは、非常に深いテーマだと感じました。貴重なお話、ありがとうございました。
吉原:良品計画でも店舗の運営時に、地域の特性というものを強く意識しています。地域の特性が過疎化によって失われていってしまうと、そこでくらしている人々や、仕事を始めようとしている人々が方向性を見失ってしまうことも珍しくありません。JUON NETWORKさんのご活動は、地域が地域として個性を発揮しながら発展していくためには、とても大切な取り組みだと強く思いました。今後もぜひご活動を続けていただきたいですし、自分でも微力ながら応援できることがないか、今後考えていきたいです。
JUON(樹恩) NETWORKは、2016年2月24日から8月23日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
69人の方から合計20,700円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
実施中の募金券はこちら