隅々まで掃除が行き届いていること。これが日本の伝統的な家屋や庭の心地よさの基本です。いかに豪華であっても掃除がいい加減だと心地よさは生まれません。逆に、つくりは簡素でも、掃除がきちんと行われていることで、家や庭はとても気持ちよく美しく感じられます。障子の桟や、棚に積もった埃を、はたきをかけて落とし、床の埃はていねいに掃きとられます。靴を脱いであがる室内ですからおのずと清潔に保たれるのです。調度や寝具は必要な時に出して使い、座敷はできるだけ何もなく簡潔なしつらいが配慮されてきました。ものを沢山見せるのではなく、最小限であることが心地いいと考えられてきたからです。

無印良品は掃除に似ているかもしれません。写真は無印良品の定番品ですが、生まれて以来、少しずつ改良を重ねた結果としてこの上なくすっきりとした顔つきになりました。ひとつひとつの変化はわずかですが、経てきた年月の分だけ、多くの工夫がそこを通過してきた「基本」と「普遍」の数々です。

無印良品が誕生したのはちょうど30年前、1980年のことです。その発端は無駄を徹底的に排するという発想でした。当時の日本には、好景気を背景に高価な海外ブランドが話題を集める一方で、低価格を理由に粗悪な商品が出回るという消費の二極化が生まれていました。無印良品はそのような状況への批評を内側に含むものとして、くらしに本当に役に立つ商品の品質や価格を見つめ直し、「無印」という立場に「良品」という価値観をつけて誕生した概念です。

無印良品のものづくりは「素材の選択」、「工程の点検」そして「包装の簡略化」から始まりました。徹底して無駄を省き合理化することで、むしろモノ本来の魅力を輝かせるという発想は、日本古来の「素」を旨とする美意識、つまり簡素であることは単に質素ではなく、時に豪華を凌駕する魅力を持つと考える思想につながります。また、個性や嗜好性が求められた時代に、むしろそれらの要素を排除することで、お客様の使い方の余地を残し、個性は委ねるという発想です。

豪華なタオルではなく使いやすいタオル、足なりに直角の靴下、寝心地のいいベッドに気持ちのいいシーツ、素の表情がきれいな自転車、機能的で飽きのこない筆記具、すんなりと手になじむカトラリーなどなど……。

「自然と」、「無名で」、「シンプルに」、「地球大」をキーワードとし、簡素さがむしろ美しく、慎ましさが生活者としての誇りにつながるような商品のあり方を探りながら、無印良品は成長してきました。これはひとり無印良品が歩んできた道のりではなく、ご支持をいただいているお客様ひとりひとりとコミュニケーションを交わし続けることによって拓かれてきた道筋でもあります。つまり、今日の無印良品は、お客様との三十年にわたる交流の成果なのです。

昨年より、私たちはより一層の良品をめざして、社内に研究の場をスタートさせています。「くらしの良品研究所」と名づけたこの“ラボラトリー”は店舗とインターネットを介してお客様と対話をしながら、商品を育て、世界のより多くの人々に「これでいい」と共感していただける、感じ良いくらしのかたちを考えていく場所です。

「くりかえし原点、くりかえし未来。」を合言葉に、これからの時代に求められる良品像について、みなさまと一緒に考えていきたいと思います。