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写真は無印良品のタモ材のベッドと椅子です。背もたれの角度が同じに設計されているので横から眺めるとふたつの背のラインがぴったりと一致します。同じ「背もたれ」に無理のない形を探っていくうちに、しぜんとこうなりました。
寝室でベッドに寄り添う椅子の情景をご想像ください。決して特別なことではありません。むしろきわめてよくある日常のシーン。家具は先端に向かってゆるやかに細まっていく造形、そして背のラインのさりげない呼応が、日常のひとこまに心地よい調和を生み出すのです。無印良品はそんな身近な光景に眼をこらします。
用いられているタモ材は、バットやラケットなどに利用されている硬くて粘りのある素材。つまり丈夫でしなやかな木材です。「タモ」という名の由来は、北陸地方で田んぼのあぜに植えられていたために「田面(たも)」の木と呼ばれたとする説、力を加えても折れずによく「たわむ」ところからきたという説などがあります。いずれもはるか昔から日本人の身近な木であったことがうかがわれます。時がたっても変化の少ない落ち着いた色調や、節目の少ないまっすぐにのびた木目には端正な味わいと安心感があります。家具に最も適した素材を探していくうちに、おのずとタモにたどり着きました。
無印良品の製品には、個性の強い形の主張がありません。シンプルに仕上げられたそれらは一見単調に見えるかもしれません。けれどもそこには、目には見えない暮らしの心地よさを探りあてていく冷静な工夫の積み重ねがあります。歴史や風土の中で道具として形をなしていった知恵のあり方を、かつては「ノーデザイン」と呼んだこともありました。しかし現在、無印良品はここに「デザイン」の本質があると考えています。
今日、無印良品のデザインは世界で高い評価をいただくようになりました。世界のプロダクトデザインが一堂に会する、2005年のドイツIF賞においては五つの金賞を同時に受賞しました。ラジオ付きCDプレーヤー、DVDプレーヤー、シュレッダー、電話機、角形紙筒ラックがその対象でした。これらベーシックな製品に対する受賞によって無印良品のものづくりは大きな自信と勇気をいただくことができました。現在、私たちはそれをはっきりと「デザイン」と呼び、その品質を向上させるために、世界中のデザイナーたちと連携しています。
無印良品のデザインを生み出す背景は、流行や時代の気分ではありません。若さや老いもターゲットにはしません。テクノロジーの先端に必要以上に意識を尖らせることもありません。基本は人への興味です。今日の地球で働き、憩う人々への興味です。身の丈にあった住まいを作り、装いを楽しみ、安全なものを食べ、眠り、時には旅をし、笑いや涙に包まれる普通の人々。そういう人々の暮らしがもう少し幸福になるためのお手伝いを、6000を超える製品を通して続けていくことが無印良品の役割です。資本の論理よりも人間の論理が少しだけまさっている点が私たちのオリジナリティです。
本年の無印良品の広告は商品に重点を置きます。きちんとおすすめできる製品をひとつずつご紹介していく予定です。タモ材の家具をはじめ、独創的なウレタン成型による「ふっくら成型ソファ」、操作が簡単で存在感の楽しい「壁掛式CDプレーヤー」、駅や公園にある時計をそのまま「掛時計・腕時計・置時計」にした明快なラインナップ、流れるようにきれいなアルミ製のシェードを持つ「アームライト」、どんな食卓にも素直になじむ「和の器、洋の器」シリーズなどなど、ひとつひとつの製品を通して皆様に「なるほど」と無印良品の成長をご理解いただきたいと考えています。
人と人、そして生活を冷静に観察したら……最適な素材と技術を組み合わせたら……質を落とさず低コストをつきつめたら……自然や環境に配慮したら……お客さまの声に耳を傾けていたら……世界中のデザイナーと連携をしてみたら……無印良品のデザインは、しぜんとこうなりました。
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