こけしの里としても知られる土湯温泉。震災直後には、被災者や復興支援者の受け入れ先として活用されるものの、その後は福島県全域に対する風評被害からの観光需要低迷により、5軒もの旅館の廃業が余儀なくされました。

そんな温泉地の一角に、昭和46年創業の旅館「ニュー扇屋」はあります。彼らは旅館にして名物・温泉たまごの生産者。ふつふつと湧き出る源泉が68度という、卵黄の凝固点に限りなく近かったことが、温泉たまごという名物を生み出しました。さらに、源泉に含まれる微量の塩分が卵に浸透し、白身はほんのり塩味、卵黄は卵本来のコクが一層増した逸品として親しまれてきました。

「この温泉たまごを皆さまに届けていくことが私の使命と捉え、源泉を守って参りました」そう話すニュー扇屋の2代目女将、森山雅代さんは、この源泉と地養卵こそが、美味しさの秘訣だと語ります。地養卵とは、自然の飼料(地養素)で育てられた鳥が生んだ卵のこと。一般の卵よりも甘みとコクがあり、旨味が凝縮されている卵です。

「この卵を使って、福島の恵みをさらに伝えていくことはできないか」そう考えた森山さんは、新しい名物を作るべく、岐阜のプリンパティシエの元へ修行に訪れます。卵の美味しさをストレートに表現するために、添加物は使わない。さらに、そこに福島らしさを追求することにこだわり、試行錯誤を繰り返すこと2年。ようやく納得のいくプリンが完成しました。

口に入れた瞬間トロけるのは、凝固剤など添加物に頼っていない証。福島らしさは、近隣で採れる美味しいハチミツをジュレにして、プリンの上にトッピングすることで表現しました。今後はこのトッピングに、桃やイチゴといった特産品を使うことで、福島の多様なフルーツを紹介したいと意気込みます。

旅館の女将業を続けながら、新しい名物の開発に邁進し続けるのも、すべては福島の恵みを、源泉を守っていくため。森山さんは「この温泉たまごやプリンがきっかけとなって、少しでも多くの人に土湯温泉を訪れてもらえれば」と話します。2017年秋には公共の足湯施設もオープンする土湯温泉。足湯につかりながら、このプリンで舌鼓を打たれてみてはいかがでしょうか。