研究テーマ

左利きについてのアンケート(ステーショナリー編)結果報告

3 左利きについてのアンケート(ステーショナリー編)結果報告

誰もが使いやすいユニバーサルデザインの観点から、商品開発を目指していきたいと考え、「左利き」にまつわるモノ、ことにこれまで取り組んできました。ステーショナリーとキッチンの2つのカテゴリーで、主に生活の中での使い方や、不便を感じる点などを中心に伺いました。日本ではまだまだ左利きの方が少ない中、ユニバーサルデザインへの関心の高さから、ご家族に左利きがいる方も含め、回答数は4962件に達しました。
今回は、2012年6月27日(水)~7月4日(水)に実施いたしました「左利きについてのアンケート(ステーショナリー編)」の結果をご報告します。

ステーショナリーに関するアンケートでは、3396件の回答を頂きました。カッター、定規、はさみの3つにしぼり、それぞれについてお聞きしました。

[1]回答者プロフィール

7割以上の方が、左利きあるいは矯正した方でした。また、右利きの方にも2割ほどの方に答えて頂きました。30代後半から40代前半の方が多く、お子さんと一緒に住んでらっしゃる方は全体の4割ほどおり、お子さんに関する意見も多く頂きました。

回答者利き手

N=3396

回答者年代

N=3396

同居家族

N=3396

[2]不便を感じる用途について

誰もが使いやすいユニバーサルデザインを考えるにあたって、実際にみなさんがどのような用途で不便を感じているのか、それぞれ調べてみました。

【カッター】

カッターでは、切断作業と細かい作業をする時に、不便を感じている方が多いようです。左利きの方では、一般の右利きのカッターを左手で使っている方が多く、刃をスライドしてから上下をひっくり返すひと手間や、スライドさせる部分が手のひらに来てしまう事などが不便な点のようです。

カッターでの不便を感じる用途

N=1855

  • 普通のカッターは不便ないのですが、大きいカッターは歯を固定するネジの部分が邪魔に感じるときあります。右手でも使えるのですが、細かいことになると、やはり左が使いやすいので、「あーもぅっ」と呟いている時あります。。。。

    (女性・30代前半・矯正)
  • 本来なら、工作ももっとうまく作れるかもしれないのに、道具のせいで成果が挙げられなかったら親子でがっかりします。

    (男性・40代前半・右利き・お子さんが左利き)

【定規】

不便を感じている方の7割近くの方が物を測ったり、線を引いたり、という用途で不便を感じるようです。左利きの方は決まった長さの線を引く時に、「0」とは反対側の右からペンを動かし、引き算をしないと長さが解らないという意見があつまりました。中には、プラスチックなど透けている定規を裏返す事で「0」を右側にして使うなど工夫している方もいらっしゃるようです。

定規での不便を感じる用途

N=1082

  • 目盛りが左から付いているので、計算しながら使っている。例えば7cmの線を引く時には10cmから3cmまで、というように。大抵の定規は0cmの前に5mm程度の遊びを持たせているから「7cmから0cm」もできるが、物差しなどは遊びがないから特に不便。遊びがなくてもいいじゃないか、と思われるかもしれないが、「角の0cmを起点に線を引く」のと「角の0cmで終わる線を引く」のとでは、やりやすさが全く違う。子供の頃から定規は「計算しながら使うもの」という行為が身に染みている。

    (女性・30代後半・矯正)
  • 定規は意外と使いづらい。数字が逆になるし、裏返して使ったりすることもあった。(透明なら)さかんに裏返したり、左右を変えたりする使い方なので長いものは本当に扱いづらい。仕事でも使うのでいいものがあったらほしい。

    (女性・40代前半・左利き)

【はさみ】

一般の事務用はさみ以外にも、用途が異なる他のはさみについてもあわせてお伺いしました。はさみに不便を感じている方の3割が事務用はさみと美容はさみに不便を感じているようです。

はさみでの不満を感じる用途

はさみ全体の傾向として持ち手が食い込んで痛いという不満点が多くありました。利き手に関係なく、長時間使っているときや、牛乳パックなど固い物を切る時に多いようです。左利きの方に多くあった不満点は、右利き用のはさみを左手で使うと、切り口を確認し難いという点でした。はさみを傾けたり、首を傾けて工夫して使っている方が多いようです。傾けてしまうと柔らかい物など刃の間に挟まってしまうことがあるようです。

美容ばさみでは眉毛ばさみに関するコメントが多く、利き手に関わらず、鏡越しに右手でも左手でも使うため、使い難いと感じる方は多くいらっしゃいました。

  • とにかく親指の付け根が痛い!長い時間や厚手のものを切る時は苦痛しかない。

    (女性・30代後半・左利き・事務用はさみ)
  • 包丁が左利きなのでお料理中_キッチンばさみも左利きでお料理したいです。

    (女性・30代後半・矯正・キッチンばさみ)
  • 鏡を見ながらということもあるのですが、ちょっと先のすすむ方角が分からなくなって、怖いことがあります。

    (女性・40代後半・矯正・美容ばさみ)

[3]左利きの方の不満度

左利きの方でもっとも不満に感じている文房具を調べたところ、定規の不満が最も多く、はさみは比較的低い結果となりました。販売や、建築・土木関係技術職の方に不満を感じている方が多く、定規では学生が一番不満を感じている結果でした。日常的に使っている方ほど、不満を感じているようです。はさみに関しては、子供の頃から使い始める事が多く、また比較的使用頻度も高いため、慣れてしまい不満を感じている方は比較的少ないようです。左利きの方でも、右利きのはさみに慣れ、左利きのはさみはむしろ使い難いという意見も多く寄せられました。

左利きの方が最も不満を感じる文房具

  • すでに長年右手ではさみを使用する事に慣れているため、かえって左手ではさみを使用するのは不便さを感じるのではないかと思いました。

    (男性・20代後半・左利き)

[4]使用頻度について

アンケートに寄せられた記入欄に着目をして、実際に使用頻度を見てみました。職場や学校などでカッターや定規などを使う方がいる一方、普段あまり使わないという意見が目立ちました。カッターは段ボールの開封程度に使い、はさみで代用したり、定規も大人になってから、測ったりすることは少なくなるなど、そういった生活を送っている方は多いと言えそうです。

  • カッター自体、あまり頻繁に使わないので。ハサミで代用できることが多いので。

    (女性・20代後半・専業主婦・左利き)
  • 細かい作業は行わず、せいぜい段ボールの開封程度なので、右利き用のカッターで事足りているため。

    (男性・20代後半・一般事務・企画・経営関連職系・左利き)
  • 定規をもう使わないので。子どもが使う時期になったら購入したいです。

    (女性・40代後半・アルバイト・左利き)
  • 定規は生活の中で線を引く以外に使わないので、左利きの不便さに気づいていませんでした。あったら便利かもしれませんね。

    (女性・50代後半・一般事務・企画・経営関連職系・矯正)

[5]デザインスケッチについて

アンケートではあわせて、カッター、定規、はさみそれぞれの左利きの方でも使いやすい様なデザインスケッチを用意し、意見をお伺いしました。それぞれ、使い勝手に関しては、やはり使ってみないとわからないという意見が目立ちました。

【カッター】

カッターでは利き手はあまり使い勝手に関係ないのではないかという意見がありました。

両利き用カッターデザインスケッチ

  • いままで特に意識をしたことがなかったが、両利き用のカッターはあると便利だと思う。

    (女性・30代前半・右利き)
  • 実際使ってみないと、どれだけ効果的か判らない。

    (女性・40代後半・左利き)
  • ハサミと違ってカッターは利き手の違いをあまり気にせず使ってる人は多いと思います。刃先の向きは裏と表と分けて使えばそれほど問題ではないんじゃないかな?

    (女性・30代前半・矯正)

【定規】

定規、目盛りの測りやすさ、機能に関する意見がありました。

両利き用定規デザインスケッチ

  • 利き手に関わらず、状況に応じて左からでも右からでも測ることができるので、右利きの人にも便利ではないかと思う。

    (女性・30代後半・矯正)
  • 金属の補強板を片端に付けてほしいです。

    (女性・30代後半・矯正)
  • 定規は特に小学生くらいの子供には便利だと思います。(大人だとそうそう測る、ということもしなくなるので)

    (女性・30代後半・左利き)

【はさみ】

はさみは、右利きに慣れてしまった左利きの方の意見や、お子さんに関する意見がありました。

左利き用はさみデザインスケッチ

  • 昔は左用というだけで特殊で高額で親にめいわくがられ、買ってもらう事も出来ず、我慢している子供は沢山おりました。早くこう言った形でリーズナブルに発売されるといいなぁと思います。

    (女性・40代前半・矯正)
  • 普段使うはさみは右利き用で慣れているので、欲しいと思わないが、専門的なはさみ(裁ちばさみ・髪を切るはさみ)などは左利き用が欲しいとは思う。

    (女性・40代前半・左利き)
  • 幼児や低学年用に「工作用」として「初めてハサミ」として発売は良いかもしれません。

    (女性・50代前半・矯正)

[6]共用と購入の決めて

デザインスケッチをもとに、商品化をしたら購入するかどうかについてもお伺いしました。どの文房具でも、現状に満足していない方の内、6割がデザインスケッチを評価し、自分のために購入を希望していました。右利きの方は、4割が家族・友人のために購入を希望しており、具体的な対象は子供が一番多く、次に配偶者でした。

お持ちのカッターに満足していない方で、デザインスケッチのカッターを自分用に購入したいかどうか

お持ちの定規に満足していない方で、デザインスケッチの定規を自分用に購入したいかどうか

お持ちの事務用はさみに満足していない方で、デザインスケッチの事務用はさみを自分用に購入したいかどうか

購入するかどうかの判断は、家族と共用しているかによって回答が分かれました。どの文房具でも専用の左利きだと右利きの家族と共用できず、数が増えかさばってしまう事や、どっち専用か解り難くなるという事を問題とあげる意見がありました。やはりどちらの利き手でも使えるという事が重要なようです。また使用頻度が低ければ、わざわざ購入するほどでもなく、普通の物と同じ値段で欲しいという意見も目立ちました。

  • 現在は使用頻度が低いので買い直すことはないと思う。

    (女性・40代前半・右利き・定規)
  • 値段が普通のカッターぐらいならどんなものか試しに買うかもしれない

    (女性・40代前半・左利き・カッター)

[7]左利きのお子さんについて

左利きのお子さんをお持ちの方は、全体の2割いらっしゃいました。昔に比べ、左利きを個性としてとらえ、矯正する事が減っていますが、矯正についてみなさんのご意見をお伺いしました。
文房具は、お子さんが幼稚園や小学校にあがるときに、触れる機会が多くなります。一般的に幼稚園では、はさみやのりを使い、小学校では道具箱を用意し、年齢が上がるにつれ、カッターや定規を使い始めます。特に書道を理由にお子さんの利き手の矯正を考えるかたもいらっしゃるようです。

お子さんの矯正の有無と予定の有無

N=936

左利きのお子さんをお持ちの方の7割近くもの方が、矯正をしていない、また矯正の予定はないとお答えしています。
いいえと答えた方の多くは、ご自身の経験から強要したくないという意見や、昔に比べ右利きでないといけないという習慣がなくなってきたため、個性としてのびのびと育ってもらいたいと考えている方が多いようです。
はいと答えた方の多くは、箸を持つ手や、字を書くとき、特に習字は右利きに矯正した方が多いようです。ただ、無理強いしたくないと考えている方が多いようです。

  • 無理に矯正しなくてもいいかな、と思い本人の意思に任せていますが、今後書道が学校であるようになるので、矯正しなければならないのかな?とは思っています。

    (女性・30代前半・右利き・お子さん左利き)
  • 駅の改札から自動販売機、急須やなべまで、圧倒的に右利き用が多い世の中で、適応する力が幼少の頃から鍛えられるのがある意味左利きのメリット。自分も左利きだが、使いにくいものを工夫して左で使う、もしくは右手右足を使ってみた経験が今に生きている。大人になって、仕事などで精度がどうしても必要なら左利き用を買えばいいと思う。

    (男性・30代前半・左利き・お子さん左利き)
  • 親のワタシが左効きで嫌な思いをしていないので。スポーツには有利だと思っているので。

    (女性・30代後半・左利き・お子さんが左利き)

やはり、左利きのお子さんをお持ちの方ほど、他と比べて左利きや両利きの文房具について期待して頂いている方が多くいらっしゃいました。特にご自身が右利きで、左利きのお子さんがいらっしゃる方で、左手によっては使い難いということに初めて気がついた方や、ユニバーサルデザインに取り組んでいることを応援して頂けるコメントを寄せて頂いている方もいらっしゃいました。

  • 両利き用、左利き用の定規があるのを知りませんでした。左利きだと使いにくいとは考えていなかったので、左利きのこどもに使わせてみたいです。両利き用だと、場合によっては右利きの人にもより使いやすいメリットもあるのでしょうか。

    (女性・30代前半・右利き)
  • 子供が左利きです。まだカッターは使わせていないのですが自分が右利きなので、左利きの不便さに気づかないことが多いです。両利き用カッターを自分が一度使ってみて、子供に教えたいと思います。

    (女性・30代後半・右利き)
  • 実際、使い勝手はどうかな? とわからない箇所はあるが、まずはそのような商品を開発することが良いことだと思う、ネットでの購入など、ものの購入に対するハードルは下がっていると言えど、「両利き用」といった特殊な製品を購入することに対するハードルは高いのが現実。そう考えると、無印で取り扱ってくれて嬉しい。

    (女性・30代前半・矯正)
  • 左利きが理由で数多くの"困る"場面に遭遇してきました。それがきっかけで、大学時代は左利きの不便さに対する情報発信とユニバーサルデザインを推奨するべく論文を書きました。これが"特別"なものとするのでなく、ごく自然な商品開発として今後続けていって欲しいです。

    (女性・20代後半・左利き)

[8]ステーショナリーに関するまとめ

左利きの方のなかでは定規に対して不便を感じている方が多く、不満を感じている方の6割が購入希望と答えましたが、定規やカッターは使用頻度が低いという意見が目立ちました。一方はさみは使用頻度が他と比べ高く、使い始めるのが幼少期と言う事も相まって、左利きの方は右利き用のはさみを使う事に慣れてしまい、左利きはさみは逆に使い難いという意見も多く寄せられました。しかしながら、矯正についても、時代が変わってきたと考えている方が多く、お子さんの意思を尊重したいという意見も寄せられました。右利きの方でも、今回のアンケートを機に左利きの方の不便さについて興味を持って頂いた方や、どなたにも使いやすいユニーバーサルデザインに共感して頂いた方も多くいらっしゃいました。わざわざ「左利き用」と特別扱いすることのなく、これまで以上に左利きの方が自然に使える文房具が必要となりそうです。

[補足資料]

左利きについてのアンケート(ステーショナリー編)結果一覧(PDF:410KB)