シーズン到来! 3月1日に解禁となったところも多いですね。私も毎年、冬の間についた贅肉を知らず、意気込んで釣行を決意します。…がしかし、いざ休みを申請してフライボックス(毛針を入れる箱)を開けてみると、昨シーズンに使用したフライ(毛針)しかなく、がっかりするのが私の恒例行事となりました(苦笑)。
切羽詰まってフライを巻く私のフライパターン(毛針の種類)は毎年変わらないことが多く、このフライ達では、解禁早々にいじめられたマスたちを相手にするには難しいようです。また、そんなことでは毛針巻きの(フライタイイング)技術は上達しないばかりか、基礎も忘れてしまいます。「こんなことではダメだ」とは分かってはいながら直せない私…。
「皆さんに同じ過ちを繰り替えしてもらいたくない!」──こんな自戒にも近い一心で、いつもフライボックスに新作フライがぎっしり並んでいる弊社、庵(研究熱心です)に講師を依頼し、今回の教室を開催することに決めました。
さていよいよ開催日当日。参加者は、小林さん、北條さん、矢部さんの3人。じっくりと講習ができる人数です。フライの歴史を皮切りに講習が始まると、講師のフライボックスをもとに様々な種類のフライ──誰が見てもカゲロウにそっくりなリアルなものから、どうみてもカゲロウに見えないものまで、本ではない実物──を目にした参加者は、それだけで驚かれたようです。
さらに驚かれたのは、たっぷりの水をはった20cm四方のアクリル水槽にフライ(トビケラなどの成虫を摸した毛針)を浮かべ、水面に浮くフライのシルエットを水中からの角度で覗いた時です。モジャモジャしていたそのフライは、魚の視線で見ると、より虫らしく見えたのです。また、水槽の中に沈むフライ(ユスリカ等の幼虫を摸した毛針)も入れて楽しみました。そのフライに光が反射してキラキラと光る姿は、ユスリカが羽化するときに見えるガスの状態を摸していることは一目瞭然でした。
自分で作ったフライを水槽に浮かべ、「この力作、魚チャン食べてくれるかなぁ」と想像するだけでワクワクしてきますよね。今、このページを読んでくださっている皆さんは、おいしそうなフライを巻かれていますか? さらに、アクリル水槽を購入されれば、もっともっとおいしいフライが巻けるに違いありませんから…(ちなみに水槽の値段は、1500円前後です)。
講習も中盤にさしかかり、「タイイング実技」の説明です。まずは、バイス(フライを巻くときにハリを固定する道具)、シザーズ(羽や糸を切るハサミ)、ハックルプライヤー(切れやすい羽を挟む道具)等の基本的なタイイングツール(毛針を巻く際に必要な道具類)の用途や販売価格による品質の違い、手作りのツールは安価で使いやすいことなどを講師の失敗談をまじえて話しました。その後、虫らしさを演出するハックル(ニワトリの毛)を話題に取りあげ、毛針巻き用に育てられるニワトリがアメリカにいることやそれらの種類の豊富さにもびっくりしていました。
一通りの説明が終わり、本日お待ちかねの「フライ」を巻くことになりました。見慣れない道具を初めて触れる矢部さんには、ちょっと難しかったかもしれませんが、最初に巻くフライはアダムスパラシュート(原形のアダムスは、1922年に考案されたフライ。このパターンで最初に釣った人物が考案者の友人Mr. Adamsのことです。80年近く経った現在でもコンスタントに釣れるフライで、ファンも多い不朽の名作です)。
小さな針に細い糸で、ニワトリの毛とウサギ(本来ならマスクラット)の毛と牛のしっぽの毛をうまく使い、 毛の分量や向きまでをも気にして巻かなければなりません。順を追って進んではいるものの、案の定、戸惑う矢部さん。そんな矢部さんとは対照的に、手慣れた手付きで作業を楽しむ経験者の小林さんと北條さん。もちろん矢部さんには、講師がすばやく手を差しのべ、ゆっくりとした口調で説明をすると、矢部さんの納得&笑顔を見ることができました。
北條さんも手慣れてはいるものの、今までどうしてもうまくいかなかったところがあったようです。講師はいくつかのマル秘テクニックを伝授し、講師と相槌を打つ北條さんの満足の笑顔も見うけられました。小林さんは、フライ歴が長いこともあり、スムーズに美しいアダムスパラシュートを巻いていきました。
こうして読まれてきて、毛針巻きはやることが多くて大変と思われるもしれません。確かにそうかもしれません。しかし、苦労の後には必ず喜びが待っています。そのフライを持って澄みわたる空気と青空の下、渓流へ飛びだし、魚の顔を見られたら喜びを通りすぎて、感動が待っています。「難しいなぁ」と思うのは最初だけです。
「習うより慣れろ」と言ってしまっては講習の立場はありませんが、ポイントをおさえれば言葉のとおりです。食べず嫌いのみなさん、きっとおいしいに違いありませんから、フライタイイングをかじってみませんか。キャンプ場でも講習を行っています。一生涯楽しめるフライタイイングにフライフィッシング。今年からでも一緒に楽しみましょう。
アダムスパラシュートの他に、ハミバグ(講師オリジナルフライ)も巻きました。釣果のご報告は、次回にいたします。お楽しみに。
レポート/南乗鞍キャンプ場インストラクター 播摩和之
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