2.みどりがバクハツ!
もう20年以上も前のこと。まだ幼かった息子を連れて新緑のこの地に遊びに来たとき(当時はまだ東京暮らしでした)、「みどりがバクハツしてる!」と叫ぶのを見て、子どものやわらかな感性に驚いたことがあります。
本当に、この時季の森は新緑がむせかえるようで、それに呼応して野鳥たちが声高らかに歌いながら飛び交うさまは、まさに生命が爆発している感じ。あふれる生命のエネルギーを全身で浴びることができるのは、森で暮らしていればこその幸せです。長く厳しい冬を過ごした後、神さまから与えられたごほうびと言ってもよいかもしれません。
森に春が訪れるのは、まず足元から。根雪の間から蕗の薹が顔を出し、雪が溶けていくにしたがって、小さなみどりが顔を出し、やがて蕾となり花開いていきます。
一方、冬の間は葉を落としてじっと耐えていた木々も、梢から少しずつ春の色に染まっていきます。小さな芽が吹きだし、ほころび、葉が開いていくさまは、遠目には、淡い水彩絵の具で神さまがひと刷毛ずつ春の絵を描いているよう。季節の移ろいを眺めるというより、造物主の手になる緻密な絵画が仕上がっていくさまを見ているような不思議な感覚です。
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そして大型連休が終わったこの時季、その絵は春から初夏に移り変わっていくところ。神さまの水彩画は色を重ねて、パステル画の趣にもなってきます。
この時季の森は、食べられる植物にもあふれています。春先の蕗の薹に始まり、ハコベ、ヨモギ、オオバコ、ドクダミ、ユキノシタ、コゴミ、そしてタラの芽や山椒の若葉、野イチゴなどなど。春の恵みを惜しげもなく与えてくれます。
野鳥たちがにぎやかに飛び回るだけでなく、野生の鹿やリス、そして蝶や蜂、蟻、ミミズまでもが活発に動き出すのも、こうしたみどりの爆発的な生長と無縁ではないでしょう。森に暮らしていると、すべての生命はつながっているのだということを実感します。
そんな空間にできるだけ身を置いていたいから、この時季は東京での仕事を終えたら、つんのめるように森の家へ一直線。というわけで、東京の仕事仲間や友人たちには、どうしても不義理をしがちになります。みなさん、ごめんなさい。