13.それでも、季節はめぐる
新型コロナウィルスが猛威をふるい、首都圏に緊急事態宣言が出されたのが4月7日。東京での打ち合わせがオンライン会議になり、東京と富士山麓を往来する高速バスの便も大幅に減り、タイトルのような「富士山と東京、行ったり来たり」の生活ができなくなりました。ニュースを聞くたびに心ざわつく毎日ですが、自然界に目をやれば、めぐる季節に合わせて樹々は芽吹き、花は咲き、鳥は高らかに歌っています。変わらない自然の営みに目をやると、「今やれることをやればいいんだ」と、気持ちが少し楽になってくるから不思議です。
お散歩、再開
「ステイホーム」が求められているご時世に、お散歩再開などと言うと叱られそうですが、幸いにしてわが家は「三密」とは無縁の森の中。30分歩いても人に出逢うことは滅多にありません。
前回のブログに書いたように、愛犬が何ヵ月も寝ついてそのまま逝ってしまったため、ずっと散歩から遠ざかっていました。でも、外出自粛による運動不足を解消しようと、いろいろな体操が紹介される昨今。散歩できる恵まれた環境を活かさないのは、やっぱりもったいない。ということで、犬と一緒に見た景色をなぞるつもりで歩くことにしました。
久しぶりに歩いてみると、樹々はやわらかに芽吹き、富士桜やヤマブキも咲きそろい、足下には小さな花々が。人間界の大騒ぎとは関係なく、季節は自然の時間軸のなかで、ゆったりとめぐっています。
人は人、桜は桜
地元の道の駅もクローズとなり、大型連休中のイベントは軒並み中止になりました。そして、毎年楽しみにしてきた4月下旬からの「富士桜・ミツバツツジ祭り」も中止。通りすがりに例年の会場に車を停めてみると、人っ子ひとり見当たりません。でも、観る人がいようがいまいが、桜は淡々と咲いています。そもそも、花は人に観られるために咲くわけではないのだから、あたりまえといえばあたりまえ。自然の事象すら人間のカレンダーに組み込もうとしていたこと自体、人間のおごりだったのかもしれません。人は人、桜は桜。そして、いずれも自然の一部。そんなことを思いながら、今年の春は庭の富士桜を眺めて過ごしました。
春を食べる
4月になってやっと雪の下から顔を出した蕗の薹は、家族みんなが待ち望んでいた春の味。まずは天ぷらにして満喫し、その後のメニューは収穫量によって決まります。少な目のときは、春野菜やベーコンなどを足してスパゲッティに。たっぷり採れた日には、蕗味噌を作ります。アツアツのごはんに載せたり、おむすびの具にしてもおいしい。春だけに味わえる贅沢です。
旬の野菜でベジブロス
せっかくのステイホームだから、気になりながらも先送りしてきた「ベジブロス」にトライすることにしました。免疫力を高めるファイトケミカルを効率よく摂れるという、野菜のお出汁です。材料は、皮や根っこ、切れ端など、ふだん調理のときには捨ててしまっていた野菜くず。作ってみると、拍子抜けするほど簡単でした。
大鍋に水と少量のお酒(臭み消し)を入れ、野菜くずを弱火でコトコト20~30分煮て最後にザルで漉して出来上がり。煮ている間の清々しい香りといい、野菜の甘みを含んだ旨みといい、他のお出汁とはひと味違うやさしいお出汁です。少し塩を加えて即席スープに、味噌を加えて味噌汁に、梅干しを加えて和風のお吸い物に、塩とごま油を加えて中華風スープにと、バリエーションは無限。こんな時期だからこそ、食事に気を配って体力を維持しようと思います。
そろそろ、植えどき
この時季、近くのホームセンターには、野菜や花の苗が所狭しと並べられています。人間界に何が起きようとも、陽射しの長短で季節を感じ取り、それに合わせて生長する植物たち。コロナ騒動の渦中、卒業式や入学式、結婚式などを飾るために育てられた切り花の多くが、行き場を失ったというニュースもありました。この野菜の苗たちが、ちゃんと行き場を見つけ、落ち着く先に落ち着けますようにと願わずにはいられません。
ふと気がつくと、苗の売場に見慣れないアイコンが。「野菜にプラス」と書いてあるので、肥料でも売っているのかと思ったら、なんとコンパニオンプランツでした。コンパニオンプランツとは、近距離に植えることで、生育を助けたり病虫害を減らしたりする共存共栄関係にある植物のこと。自然界では、いろいろなものたちが助け合って生きています。
今年のわが家は、自然農の教室で教わった方法で、雑草を生かした種まきをしてみるつもり。取り寄せた在来種の種の傍に、青じそを植えることにしましょう。
次の冬のために
外出自粛による運動不足を解消しようと、トランポリンやストレッチ用の器具などが売れているといいます。森の中で暮らすメリットは、動き回るスペースと力仕事だけはたっぷりあること。庭に出ればごろごろ転がった丸太たちが「ほら、ぐずぐずしていると冬が来てしまうよ」と催促します。
もちろん、大鉈(おおなた)を振るって薪を作るのは男の仕事ですが、それを運んだり積み上げたりは私も手伝いますし、焚き付け用に小さくカットするのも私の仕事。4月になっても積雪があった今年は、日によって気温差が大きく、まだまだ暖炉の火も絶やせません。それだけに、やがて来る冬のことも気がかりで、薪作りにいそしんでいます。
ベランダ補修
大工仕事の好きなわが家の男性陣は、身体を動かしながら実益も兼ねたベランダ補修作業。わが家のベランダはすべて木製なので、雨風にさらされるとだんだん朽ちてきてメンテナンスが必要なのです。朽ちた板を少しずつはがしては新しい板と差し替える、パッチワーク風。と言えば聞こえはいいのですが、いわばツギハギのベランダです。でも、新しい板に防腐剤を染み込ませ使い込んでいけば、それなりになじんでくるから不思議です。
これも、そのうちやってくる雨の季節に備えるもの。めぐる季節を見通しながらの森の仕事には、終わりがありません。
はがした古い板(廃材)は、庭で焚き火しながら燃やします。そして、お疲れさまのおやつは、フレンチトースト。フランスパンは、農道塾でお世話になったオルタ農園の奥様が手づくりされた溶岩焼きです。
「忘れてないよ」と伝えたくて
自宅にこもって手料理ばかりが続くと、たまには外食をしたい気分になります。作ることに飽きてくるというより、時には違う味を楽しみたくなる。でも外出自粛で、気軽に食べに行くわけにもいきません。お店の方も、きっとお客さんが減って厳しい状況になっていることでしょう。そんなとき、行きつけの和食屋さんで「お弁当承ります」の貼り紙を見つけました。予約の電話を入れれば、こちらの時間帯に合わせて作ってくれるとのこと。早速、頼んでみました。
料理疲れしていた自分が息抜きできるだけでなく、馴染みの店でお弁当を注文することが「忘れていませんよ」というメッセージになるような気もして。食べることで応援できることもあるので、これからも、時々お願いしようと思います。
新型コロナウィルス禍で、日常の風景が一変した今。みなさんはどんな思いで暮らしていらっしゃいますか? いろいろな我慢を強いられる日々が続いていますが、どうぞご無事でお過ごしください。