そもそも「親」とは何だろう
親になるということ
いまから16年前に子どもが生まれ、自分は一人の父親になりました。でも、よくよく考えると親って不思議なものですね。特に親になろうと決意してなったわけではない。何か試験のようなものにパスしてなったわけでもない。結婚して、妻が妊娠し、出産を経て、いつのまにか、なんとなく、気がついたら親になっていたというのが正直な感想です。
人生にはいくつかの分岐点があります。たとえば、小・中・高等学校や大学をどこにするか。あるいはどの会社に就職するか。こういった選択をするときには自分の意志が働きます。「よし、この学校を受験しよう」とか、将来のことを考えて「この会社で働きたい」とか。でも、親になるときはちょっと違った。「よし、親になるぞ」と決心して親になったわけではありません。
よく「子どもは天からの授かり物」といいますね。「授かる」とはよくいったもので、出産は自分たちの力だけではいかんともしがたい運命的なイベント。この"授かる"という言葉に象徴されるように、子が生まれて親になるのには、どこか受動的なイメージがついてまわります。
すべての親は子育ての素人
とはいえ、考えてみれば、親になるということはたいへん重大な責任を背負うこと。孟母三遷の教えではないけれど、家庭環境を含めて、親が子に与える影響は計り知れないほど大きなものです。子どもという一個の人間の、一生を左右してしまうかもしれない人格形成の大事な時期に、親は深く関わることになります。
親の行動や言動の一つひとつ、一挙手一投足が、子の人格を左右する。何気なく言った一言が、一生その子のトラウマになることだってあるかもしれません。ところが困ったことに、そのような重大な責任を背負う覚悟をもって自分は親になったわけではない。なんとなく気がついたら、親になってしまっていたというのが実情です。
でも、世間の多くの親御さんも、だいたい同じではないでしょうか。「親になるぞ」と決意して、「親」について学び、完璧に準備をしてから親になったという話はあまり聞きません。
そもそもほとんどの人が、少なくとも長男長女の場合は、育児未経験のままで親になるわけで、そういう意味で「すべての親は子育ての素人だ」といえるのではないでしょうか。親が負う「責任の重大さ」と「自覚の足りなさ」、このギャップの大きさには(自戒の念を込めて)あらためて驚かされます。
子育てとは何か、教育とは何か
私は子育てや教育に初めから興味があったわけではありません。このようなことに関心を持つようになったのは、子どもが「サドベリースクール」という、異色の学校に通うようになってからです。
「サドベリースクール」には先生がいません。授業がありません。子どもたちは大きな一軒家の校舎で、ゲームをしたり、読書をしたり、プラモデルを作ったり、お菓子づくりをしたりと、一日中好きなことをやって過ごしています。行儀よく机に向かって勉強をしている普通の学校とは、まったく違う学びの風景がそこにありました。
初めてこのスクールを見たとき、「こんな学校が世にあるのか!」という衝撃を受けました。と同時に不安にもなりました。「こんなに自由にしていて、子どもはちゃんと育つのか?」「毎日勉強しなくて大丈夫なのか?」
そして、このような不安から、「そもそも子どもはなぜ学校に通うのか」「子にとって親とはどのような存在か」という自問自答が始まりました。わが子が普通の学校を辞め、サドベリースクールに通うようになって、否が応でも「子育て・教育」というテーマに向き合わざるをえなくなったのです。
そうして、「子育てとは何か」「教育とは何か」ということを考えるために、教育や心理について学び、勉強会やイベントに参加するようになりました。そこで学んだ知識や情報をもとに自分なりに考えていくうちに、少しずつ従来の学校教育にはない"新しい教育の可能性"が見えてきたのです。
教育を考えることは、未来を考えること
10年後、20年後、いま学校に通っている子どもたちが大人になる頃には、世の中は大きく様変わりしていることでしょう。AIやロボットが暮らしの中に入り込み、仕事の内容や働き方も変わり、社会そのものの仕組みや価値観も、いまとは違うものになっているかもしれません。
「子育て・教育」について考えることは、子どもの将来を考えることであり、俯瞰して見れば、この国の社会や未来について考えることにつながっていきます。
日本の教育が抱える問題点や課題について、また、「オルタナティブ教育」と称される学校以外の学びについて、さらに、日本の外に目を向け、フィンランド、デンマーク、オランダなどの教育先進国の事例なども、このブログで紹介していきたいと思います。従来の常識や観念にとらわれず、池のほとりをぶらぶら歩きするような自由な感覚で、「子育て・教育」について、これからともに学び、考えていきましょう。
(イラスト:中田晢夫)