わがままと向きあう
わがままは教育のチャンス
子どものわがままに手を焼いたことはありますか? たぶん 親であれば誰もが一度ならず困りはてた経験をお持ちでしょう。「あれをしたい」「これがほしい」「あれはいやだ」「これはやりたくない」など、子どもはなかなか素直に親のいうことを聞いてくれません。あんまりいうことを聞かないものだから、堪忍袋の緒が切れて、つい声を荒げたり、叱りつけたくなったりします。でも、ちょっと待ってください。子どもがわがままをいっているときは、もしかすると絶好の「教育のチャンス」かもしれないのです。なぜなら、わがままをいっているときの子どもは「自己主張」をしているからです。自己主張は、将来子どもが社会で生きていくうえで必要となる大切な力のひとつ。それを頭ごなしに叱りつけたり、無理やり黙らせたりしてしまうと、せっかく身につきかけた「主張する力」を失うことになりかねません。ですから、子どもがわがままをいったときは、ぜひ一時の苛立ちに身をまかせることなく、冷静になって子どもに向き合い、幼い言葉に耳を傾けてみましょう。わがままへの適切な対応は、その後の親子関係をも左右する重要なポイントになってくると思います。
わがままは信頼の証
とはいえ、子どものわがままへの対応はなかなか難しいもの。無理難題を突きつけてくる子を前に、どうしても感情がたかぶってしまうからです。そこで提案なのですが、子どもがわがままをいったとき、まずは「ありがとう」と感謝してみてはいかがでしょうか。親にわがままをいうのは、子どもが全面的に親を信頼している証拠。「この人は何をいっても大丈夫」「安心して受け止めてもらえる」と思っているからこそ、むき出しの感情をぶつけてくるわけで、それに対して「信頼してくれてありがとう」と感謝の念を抱くのです。それだけで瞬時の怒りは下火になり、子どもと冷静に向きあうゆとりが生まれてくると思います。
さて、次にやるべきは子どもの主張に耳を傾けることなのですが、このとき肝心なのは、初めから子どもの主張を「わがまま」と決めつけないこと。親はどうしても「自分の考えが正しい」という感覚を持ってしまいがちなので、「もしかすると相手の方が正しいかもしれない」ぐらいの気持ちで聞くと、ちょうどいいかもしれません。そのうえで、「何がしたいのか」「何がしたくないのか」、また「なぜそうしたいのか」「なぜそうしたくないのか」など、理由を含めて子どもの口から語ってもらうといいと思います。
大切なのは対話の姿勢
ここでひとつ勘違いしてほしくないのは、決して「わがままを許していい」といっているわけではないということ。そしてまた逆に、「聞き分けのいい子」をつくろうとしているわけでもありません。目標はあくまでも、子どもとの一対一の「対話」を実現させること。そのために相手の主張にきちんと耳を傾け、また親の側からも理由を含めて「〇〇してほしい」と主張を伝えることが大切です。もちろん、そうやって話し合ったところで、小さな子どもが理解を示してくれるとは限りません。いや、むしろ親のいうことは聞かずに、わがままを貫き通すことの方が多いでしょう。それは百も承知のうえで、あえて対話を持とうとする姿勢を子どもに示しつづけるのです。
なぜ、対話が大切かというと、後々、子どもが大きくなって何かトラブルが起きたとき、対話の関係が築けていないと何も話してもらえなくなるからです。小さい頃から対話する習慣を続けていれば、「この親は話を聞いてくれる人」という認識が子どもの中に生まれます。そうすれば本当に必要なとき、むしろ子どもの方から親に話しかけてくれるようになります。
子どものわがままはいつまでも続くものではありません。年齢とともに分別がつき、物事が分かってくれば、いずれは自然と収まっていくもの。だから無理にわがままを押さえ込もうとせずに、むしろ対話のチャンスと捉え、家庭での学びのきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
対話することは、根拠をもって自分の主張をきちんと相手に伝えるいい訓練になります。また、コミュニケーションを取るうえで役立つ「人の話を聞く力」も同時に養うことができます。わがままをきっかけに親子で話し合いの場を持つことは、さまざまな面で有意義な学びを子どもにもたらしてくれることでしょう。
そして、子どものわがままと向き合い、粘り強く対話を維持することを通して、親自身もまた人として成長するチャンスを得られるのだと思います。
(イラスト:中田晢夫)