イエナプラン教育
イエナプランのルーツ
前回はドイツで始まったオルタナティブ教育である「シュタイナー教育」を取り上げました。今回はオランダで実践され、世界に広がっていった「イエナプラン」という教育をご紹介します。
いま、"オランダで"と書きましたが、実は「イエナプラン」が誕生したのはドイツです。いまから約百年前の1923年、ドイツの「イエナ大学」で始まった実験校での実践教育が「イエナプラン」のルーツです。でも、残念ながら、この新しい教育の試みはドイツに定着することはありませんでした。直後にドイツでナチスが台頭し、ヨーロッパ全土を巻き込む第二次世界大戦へと突入していったからです。さらに戦後は、イエナの街が共産圏である東ドイツになったこともあり、イエナプランの教育は立ち消えになったかに見えました。ところが、1950年代になって、この教育はふたたび脚光を浴びることになります。オランダ人のスース・フロイデンタールという女性によって見いだされ、場所をオランダに移して発展していったのです。2020年現在、オランダには200校を超えるイエナプラン校があるといわれ、世界の国々にもこの教育は広がっていっています。
教育の特色
イエナプランの教育には、どのような特色があるのでしょうか。まず、日本の公教育と大きく違う点は、学級が異年齢の子どもによって構成されていることです。小学校でいえば、1~3年生までが1クラス、4~6年生までが1クラスといった具合です。クラスを異年齢で構成することの利点は、いくつかあると思います。そのひとつは、自分とは年齢の違う子と生活をともにすることで、多様性への理解が深まること。もうひとつは、年齢の上の子が下の子に教え、また下の子が上の子を見て学べるということでしょう。一年、二年、三年と上がるにしたがって年長者としての自覚が生まれ、年下の子の面倒を見るようになります。そして、四年生になるとまた一番下の学年になり、先輩の背中を見て育つようになります。小学校の6年間でこのサイクルを繰り返すことにより、子どもは精神的に成長していくことができるのです。
もうひとつ、イエナプランの特色を挙げるとすれば、「ワールドオリエンテーション」という授業があることでしょう。ひとことで表すのは難しいのですが、強いていえば、教科の垣根を取り払って学ぶ総合学習の時間のようなもの。年間およそ8~9テーマを決め、学校全体で同じテーマの学びに取り組むそうです。
イエナプランの学校では、午前中は算数や国語などを学ぶ「ブロックアワー」があり、午後になると「ワールドオリエンテーション」に取り組みます。ブロックアワーは教科学習ですが、日本の学校のように黒板に向かって一律に先生の教えを受けるスタイルではありません。個々の子どもが自分のペースに合わせ自ら学んでいく自立型の学習で、先生は教師というよりむしろインストラクター的な役割を果たします。このブロックアワーの教科学習で学んだ内容を、ワールドオリエンテーションで活用し、またワールドオリエンテーションで生まれた問いを、教科学習で深めるというふうに、両者を相互に連関させることで、学びがいっそう深まっていくのです。
社会とつながった教育
イエナプランの教育を見ていくと、社会や生活とのつながりをとても大切にしているように感じます。学びの場を教室とはいわず「リビングルーム」として捉えていることや、「対話→学び→仕事→催し」の4つのパターンを循環させていることなどにもそれは現れています。人間は社会のなかで生活をして生きています。だから、もともとすべての学びは社会や生活に紐づいているべきもののはず。ところが、日本の学校ではいつの頃からか、学びが学びだけで完結し、閉じてしまったような印象を受けます。こうなると何のために学ぶのか、意味や目的がわかりづらく、子どもは学習への意欲を失っていきます。
「成績を上げるため、いい学校に入るため、いい会社に就職するめに、いまは何も考えずに学んでおけ」というのでは、あまりにも説得力に欠けています。とくに小学校の段階では、学びはより具体的で、身近で、遊びに近いところにあるべきものです。教科の学習と体験的な学びを縦糸と横糸のようにして編みあげていくイエナプランの教育には、子どもが自然に楽しく学びたくなる仕掛けがいっぱい隠されているのです。
この日本でも、すでにイエナプランを採り入れた教育は始まっています。2019年4月には、長野県南佐久郡佐久穂町に、日本初のイエナプラン教育を採用した私立学校「大日向小学校」が誕生。2022年には広島県で、イエナプランを実践する初の公立小学校の開設が予定されています。イエナプランの教育は、文科省の教育指導要領と親和性が高いため、比較的公教育に採り入れやすいという利点があります。オランダで発展したこの教育が、今後どのような形で日本に定着していくのかを、楽しみに見ていきたいと思います。
(イラスト:中田晢夫)