子育て・教育のほとりで
子どもが一般の学校ではないオルタナティブスクールに通うようになってから、子育てや教育に興味を持ち、学ぶようになりました。学校外の「多様な学び」や「不登校問題」「海外の教育事情」など、子育て・教育まわりのさまざまな話題を取り上げて紹介していきたいと思います。

子どもの人権

2021年07月28日

悪い冗談?

日本の学校教育を見てときどき思うのは、子どもの「人権」をちゃんと認めているのだろうかということです。たとえば、「地毛証明書」というものがある学校があるそうです。校則で髪染めやパーマを禁止しても、さすがに"生まれつき"の髪は直せない。だから、「この髪は生まれつきのものです」と保護者に証明させ、学校に申告させるのです。はじめ聞いたときは、何かの悪い冗談かと思いました。でも、この「地毛証明書」なるものは40年以上も前から存在し、いまでも都立高校の半数以上がこれを採用しているそうです。
髪染めに関しては、裁判になったケースもあります。大阪の府立高校に通う女子生徒が、"茶色い地毛"であるにも関わらず、学校から黒く染めろと強要されたのです。で、一旦は染めてみたものの、頭皮が荒れるなどの健康被害が出たために髪染めをやめました。すると学校側が「黒染めが不十分だ」として、生徒の授業への出席を禁止し、修学旅行にも参加させませんでした。結果、生徒は不登校になり、2017年10月に「黒染めを強要され、健康被害や精神的苦痛を受けた」として、大阪府に220万円の賠償を求める裁判を起こしたのです。判決は今年の2月に出ましたが、大阪地裁の出した結論は驚くべきものでした。なんと「髪の染色や脱色を禁止した校則は学校の裁量の範囲内で、頭髪指導も違法とはいえない」と判断したのです。生徒が不登校になったあとの学校の対応には問題ありとして33万円の賠償を大阪府に命じましたが、「地毛を染めることを強要した」ことについては、学校側の言い分が通った形となりました。

自信を失う日本の若者

以前にこのブログでフィンランドの教育を紹介しましたが、フィンランドの学校では生徒がどんな髪型や服装をしていても、まず注意されることはありません。髪を何色に染めようが、ピアスをしようが自由です。学校を見学に行った日本の人が、先生にこんな質問をしました。「服装の決まりはないのですか?」と。すると先生は「なんでそんな質問をするの?」という顔をして、「服装はパーソナルな問題なので、こっちが言うことではないでしょう」と答えたそうです。まぁ、ここまでの自由は日本では望めないかもしれませんが、もう少し学校は「子どもの人権」を認めてもいいのではないでしょうか。なんでもかんでも「ダメダメ」ばかりじゃ、子どもの心が萎縮してしまいます。
そして実際に、その「心の萎縮」は現実のものとなって現れています。令和元年版の「子供・若者白書」に、内閣府が行った日本を含む世界8カ国の満13歳~29歳までの「自己肯定感」の高さを調べた調査が載っていました。この結果を見ると愕然とします。たとえば「自分自身に満足している」という設問に、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人の割合は、日本が45.1%でした。ちなみにアメリカは87.0%、ドイツは81.8%です。「自分には長所がある」という設問には、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人の割合は、日本が62.2%、アメリカは91.2%、フランスは90.6%です。なぜ、日本の若者はこれほどまでに自信をなくしてしまったのでしょうか。

子どもに自由を手渡す

自信喪失の原因は、おそらく家庭と学校の両方にあるのだと思います。日本の子どもは小さな頃から、家でも学校でも「〇〇しなさい」「〇〇しちゃだめ」と、「命令」と「禁止」のどちらかで育ちます。「あなたはどうしたい?」「何がしたいの?」と意見を聞かれることはあまりなく、やりたいことを主張すると「わがままだ」といって叱られます。子どもが育っていく過程において、自由意思を主張できる機会があまりにも少ないのです。
「命令」と「禁止」の2通りで子どもを育てていくと、どうなるか……。子どもはしだいに自分の意見を主張しなくなり、大人の顔色をうかがって、うまく立ちまわるようになります。毎日毎日ダメ出しばかりされるので、「自分自身に満足している」という感覚に乏しく、「自分には長所がある」と思えなくなってくるのです。まさに、国際調査の結果に現れた通りの、自己肯定感の低い人間に育っていくのです。

子どもにどこまでの自由を与えるかは、議論の分かれるところでしょう。ただ、日本は家庭でも学校でも、欧米に比べて全体的に自由が少なすぎるように感じます。裁判になった大阪の学校などは、「金髪の外国人留学生でも規則通り黒く染めさせる」と息巻いていたとか。こうなると、もはや自由とかの問題ではなく、「人権侵害」のレベルです。
若者が自信を持ってイキイキと生きられる社会にしていくために、私たち大人はもう少し「子どもの人権」に配慮して、自由を手渡してもいいのではないでしょうか。

(イラスト:中田晢夫)

  • プロフィール くらしの良品研究所スタッフ。一児の父親。一般財団法人東京サドベリースクール評議員。

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