子育て・教育のほとりで
子どもが一般の学校ではないオルタナティブスクールに通うようになってから、子育てや教育に興味を持ち、学ぶようになりました。学校外の「多様な学び」や「不登校問題」「海外の教育事情」など、子育て・教育まわりのさまざまな話題を取り上げて紹介していきたいと思います。

教えないことの大切さ

2021年11月24日

学びと食欲

「あー、お腹がすいたぁ」といって帰ってくる子どもの食欲はすごいですよね。なんでもパクパクと胃袋の中に消えていってしまう。食べるのを見ていると、こちらまでが幸せな気持ちになってきます。でも、これはあくまでもお腹が減っている場合のこと。子どもが満腹のときには、もちろんこうはなりません。どんなにおいしいごちそうでも、そもそも食欲がなければ食べる気にすらならないでしょう。
さて、話は変わって、勉強のことです。勉強も、実は食べ物と同じなんですね。学びの原動力となる「知識欲」がなければ、食欲がないときの子のように、とうてい学ぶ気にはなれません。親や学校の先生は、なんとか子どもに勉強させたいと思って口うるさくいいます。ときには、「成績が下がるぞ」とか「このままじゃ進学できないぞ」と脅しをかけて、子どもに勉強させようとする。それでしぶしぶ机に向かう子もいるでしょうが、心の底から「学びたい」という欲求がないのであれば、たぶん長続きはしないと思います。

学校は、勉強嫌い養成所?

さて、では、「食欲」はどのようにして生まれてくるのでしょう。答えはとっても簡単で、無理に食べさせようとしなければいいのです。そうすれば自然にお腹がすいてきて、こちらが言わずとも子どもは食べるようになります。そう、「知識欲」も同じですね。子どものためと思って一方的に教えたり、学ばせたりするのは、食欲のない子に強制的にご飯を食べさせるようなもの。誰だって、お腹いっぱいのときは食べたくないし、無理やり口に突っ込まれたら吐いてしまうかもしれません。これと同じことを、大人は子どもにやっている。小さい頃から子どもを机に縛り付け、大人も知らないような難しいことを教え込もうとしています。つまり、学校がやっていることは、食欲のあるなしに関わらず、「あれを食え、これを食え」と無理やり食べ物を口に突っ込んでいるようなもので、これでは子どもが勉強嫌いになっても少しも不思議はありません。
もともと子どもは生まれながらにして、「知識欲」を持っています。寝返りも打てない頃から、赤ちゃんはキョロキョロと目を動かしてまわりで起きていることを観察し、知りたがりの時期には、触れるものすべてに不思議を感じて、なぜなぜと問うようになります。そしてまた、誰も教えていないのに、子どもはいつの間にか日本語をマスターします。大人なら何年もかかって苦労して習得する語学を、子どもはわざわざ教えなくても、独りで勝手に学んでしまうのです。すごい能力ですよね。なぜこんな奇跡が起きるのか? それは生まれながらにして子どもに「知識欲」が備わっているからに他なりません。学校や家庭で教えようとしすぎるから学びたくなくなるので、あえて教えずに"腹ぺこ"の状態を作れば、子どもは自然に学びたくなるし、結果的にはその方が自ら考え、行動できる人に育っていくのです。

生きる力

つい最近、文部科学省は学習指導要領を改訂しました。新しい学習指導要領のキャッチフレーズは、「生きる力 学びの、その先へ」。中身を見ると、従来の知識詰め込み型の学びを改め、「なにができるようになるか」に主眼を置いた、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善)」を目指すそうです。この考え方には100%賛成なのですが、でも、実際に学校でやっていることを見るとハテナが頭に浮かびます。小学校から英語やプログラミングを始めたり、ICTを使いこなせるようになったりと、ますます子どもを忙しくしているだけのようにも思えます。
たとえば、新しい学習指導要領では、小学校3年生から英語の授業が始まります。小3といえば、まだまだ遊びたい盛り。そんな子を机にしばりつけ、将来使うかどうかも分からない英語を教える意味があるのでしょうか。国としては"グローバル人材"を育成したいのでしょうが、英語ができればグローバルな人間になれるというものではありません。むしろ、人との高いコミュニケーション能力や、何事にも物おじしない精神力、失敗を恐れずに冒険や挑戦ができる人が、真の国際人になっていくのではないでしょうか。そのためには、小さい頃からたくさん遊ぶことが大切で、語学などは外国に行ってから学んでも十分に間に合うと思います。

「生きる力」は、ICTやアクティブラーニングのようなものだけで身に付くものではありません。もし、本気で「生きる力」や「考える力」を身に付けさせたいのなら、子どもを教室にしばりつけて勉強ばかりさせるのではなく、のびのびとした環境を用意して、自由に解放すべきだと思います。子どもが生まれながらに備えている「知識欲」を信じて、あれこれ懇切丁寧に教えない。そう、「教えないことの大切さ」に、日本の教育はもっと目を向けるべきではないでしょうか。

(イラスト:中田晢夫)

  • プロフィール くらしの良品研究所スタッフ。一児の父親。一般財団法人東京サドベリースクール評議員。

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