研究テーマ

自分でつくる ―保温調理は省エネ調理―

3.11の大震災以降、家族で一緒に夕食をとるようになった人が増えているといいます。寒くなるこれからの季節、温かい料理が待つ食卓は、家族みんなの心を温めてくれそうですね。そんな時におすすめしたいのが、保温調理。ひと煮立ちさせた後のお鍋を火から下ろし、余熱を逃がさないように保温しながら調理する方法です。その魅力については2010年1月27日付けのコラム「保温中は調理中」でも触れましたが、エネルギーの節約が求められる今、もう一度この調理法にスポットをあててみたいと思います。

エネルギーも時間も節約

保温調理には、新聞紙やバスタオルなどでお鍋をくるむ簡単な方法から専用のお鍋を使う方法までいろいろありますが、手軽に使えて熱効率も良いのが鍋カバー。断熱材などを入れ込んだ多層構造のカバーで、お鍋をすっぽりくるむ方法です。ドーム型や帽子型など形はさまざまですが、専用鍋と比べて価格も安く、手持ちのお鍋をそのまま使えるのもうれしいところ。帽子型の鍋カバーを使った実験によると、沸騰後の加熱が約1時間必要な煮豆の場合、保温調理にすると加熱時間は10~25分に。40分必要なカレーなどの煮込み料理なら、10~15分で済むという数字が出ています。また、出来上がった料理の一時保温や一時保冷にも使えますので、家族の帰宅時間がずれるご家庭では何かと重宝するでしょう。

被災地でも活躍した保温調理

3.11の後、被災地では冷たいおにぎりやパンだけといった食事が続き、しばらくの間、温かいものを口にすることはできませんでした。そんな時、主婦のボランティア団体が「せめて温かいものを食べてもらいたい」と大鍋で豚汁を炊き出しした様子を、あるテレビ番組で報道していました。その時の下ごしらえに活躍していたのが、鍋カバーです。炊き出し料理は、現地で短時間で仕上げなければなりません。となると、下茹でが必要な根菜類などの下ごしらえがポイント。このグループは、炊き出しの前夜、現地から少し離れたところに集まって下ごしらえをしていましたが、それでも熱源の数には限りがあります。ボランティアの主婦たちは、それぞれ自宅で使っている帽子型の鍋カバーを持参していました。短時間火にかけて、その後は鍋をくるむことで保温しながら調理する。つまり、鍋カバーをもうひとつの火口として使いながら、手際よく下ごしらえを進めたのです。そして当日は、それらの材料を大鍋に入れて煮立て、味付けするだけで、温かい豚汁の出来上がり。その番組を見て、保温調理の威力とそれを使いこなすベテラン主婦たちの知恵に驚かれた人もあったでしょう。

日常生活の中で

非常時だけではなく、日々の暮らしの中で実感できるのが、保温調理の便利さです。温かい煮込み料理は冬の何よりのご馳走ですが、忙しい日常の中では、手間ひまかけて夕食の支度をする余裕がない日もあるでしょう。そこで、保温調理の出番です。加熱時間が短いということは、エネルギー消費を抑えられるだけでなく、火の傍に貼り着く時間も節約できるということ。外出前にさっと仕込んで保温しておけば帰宅時には出来上がったシチューが待っている、といったことだって、できてしまうのです。
もちろん、日常生活ではガスも電気も普通にあり、光熱費が家計に負担を強いるほどのものではないかもしれません。しかし、そういった「あってあたりまえ」のものが一瞬のうちに消えてしまう現代生活のもろさも、私たちは3.11で身をもって体験しました。これからの暮らしを考える時、「そこにあるのだから便利に使う」という発想から、「あるにはあるけど、使わなくて済むものは使わない」という日常的な自制心が必要になってくるのかもしれません。

10月末日、世界の人口が70億人に達したというニュースが報道されました。地球という小さな星の上で共に生きていこうとする時、私たちにできることは何でしょう?
保温調理で得られる省エネ効果は、たしかにささやかなものかもしれません。電気代やガス代に換算したとき、その効果を高いと見るか低いと見るかは、人それぞれでしょう。でも、もしかしたら、お金に換算して判断しようということ自体、すでにその物差しが間違っているのかもしれません。

みなさんは、日々使う台所のエネルギーについて、どう思われますか?

研究テーマ
食品

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