根菜を楽しむ
(今週のコラムは、過去にお届けしたコラムをコラムアーカイブとして、再紹介します。)
だいこん、にんじん、れんこん、ごんぼう(ごぼう)、じねんじょ(自然薯)、なんきん(かぼちゃ)、きんかん、ぎんなん どれも"ん"のつく食べものです。そのうちの多くは、土の中で育つ野菜、つまり根菜。「"ん"のつく食べものを食べると運がつく」というのは冬至の日の風習ですが、「"ん"のつく食べものを食べると根(こん=気力)がつく」という言い伝えも。今回は、これからの季節においしさを増す、根菜のお話です。
繊維の効用
日本人ほど根菜をたくさん食べてきた民族は世界に類がないといわれます。根菜類に共通しているのは、食物繊維を豊富に含んでいること。特にごぼうは、難消化性多糖類という繊維素が主体で、食べても消化せず、胃腸を通過するだけなので栄養源にはなりません。だからでしょうか。日本以外でごぼうを食べている国はほとんどないようです(そういえば、第二次大戦中、捕虜にごぼうを食べさせたことで、「木の根を食べさせた」と捕虜虐待の罪に問われた人の話もありました)。ところが、このごぼうの繊維素は白米や肉などに比べ20~30倍もの水を吸収して体積を増し、腸管を通過するときに腸内を掃除してくれるのだとか。そのうえ、体にとって有益な腸内細菌を増やす場ともなって、腸に侵入した腐敗菌を抑える働きも。日本人は欧米人に比べて腸が長い、という説もあります。私たちの祖先は、食物繊維の豊富な根菜を食べることで、腸の健康を保ってきたのかもしれません。
部位ごとに分ける
ロース、モモ、スネなど、肉は部位によって味わいが異なり、それに合った料理法を選ぶのはあたりまえになっています。同じように、「野菜も部位ごとに味わいが異なる」と語るのは、野菜の達人として知られる内田悟さん。ひとつの野菜を解体し、部位によって使い分けることをすすめています。
例えば大根の根の部分は、「上の1/3」「まん中の1/3」「下の1/3」と3つのパーツに解体。その状態で保存しておくと、日替わりでさまざまな料理を楽しめます。上1/3は、寒さに耐えるため糖度が高く甘い部分。水分量が多く繊維のきめが細かく、加熱しても煮くずれしにくいので、大きめに輪切りして、ふろふき大根や大根ステーキなどに使うと味わいが引き立ちます。まん中1/3は、適度なみずみずしさがあり、甘みと辛みのバランスがよい部分。上1/3に比べると繊維は目立ちますが、縦切りにするか輪切りにするかで食感や味わいを変化させることができます。下の1/3は、成長途中のため水分が多く、虫から身を護るために辛みが強く、皮も厚い部分。皮つきのまま乱切りにして断面積を大きくし、天日干しして水分を飛ばすと、アクや辛みが飛んで味わいが増すそうです。
こうした部位ごとの味わいの違いに加えて、走りと盛りと名残で味わいが異なる(詳しくは当コラム「夏野菜」をご覧ください)のですから、1本の根菜でどれだけの味わいを持つことか
その変化を楽しんで味わうことが、野菜の生命をまるごといただくことになるのでしょう。
皮を生かす
根菜の魅力は歯ごたえと風味ですが、それを生かせるかどうかは、皮の扱い方次第。というのも、多くの根菜は、皮と身の間にうまみと香りがあるからです。
皮が薄く皮に風味があるごぼうやにんじん、れんこんなどは、できるだけ「皮つき」で調理。名残に入って皮が厚くなったものや、品よく仕上げたいときは、ピーラーで皮をむく程度でよいでしょう。大根は、「皮に辛みやえぐみがあるので厚めにむくのが基本」と言われますが、家庭では皮つきの素朴で力強い味を楽しむのもよいもの。ただし、ふろふき大根は、皮つきでは味が入らないので、むいて使います。
里芋も家で食べるなら、皮が少し残るぐらいでもよいそうです。9歳から京都の禅寺に入って暮らしたという作家の水上勉さんは、「土を喰う日々─わが精進12カ月─」というエッセイのなかで、小芋(小さい里芋)の皮を厚くむくテレビの料理番組を見て「冬じゅう芋をあたためて、香りを育てていた土が泣くだろう」と綴っています。野菜、特に根菜を考えることは、それを育てる土に想いをめぐらすことなのかもしれません。
木の根っこみたいだとヨーロッパでは敬遠されていたごぼうが、最近、フレンチやイタリアンでも少しずつ使われるようになってきたといいます。その一方、日本の家庭料理で「根菜離れ」が進んでいるのは、「手間がかかる」というイメージのせいでしょうか。後年、軽井沢の山荘で暮らした水上勉さんは、冬の来客をもてなすのに、大根、にんじん、ごぼう、里芋などの根菜と豆腐を大鍋で煮た無名汁を作っていました。「里芋なんかも下ゆでしない。ぬめりは出てよい。自然の野合の乱舞である」と書かれていて、家庭で根菜を扱うときの秘訣を見る気がします。
みなさんは、根菜をどんなふうに楽しんでいらっしゃいますか?
参考:内田悟氏主催のやさい塾及び著書「内田悟のやさい塾 ―旬野菜の料理技のすべて―」(メディアファクトリー)