研究テーマ

花に託して

陽射しの中に春を感じられる3月になりました。あの大震災から、1年が過ぎようとしています。花の季節が近づいて、改めて思いを馳せるのは、被災地のこと。去年の春に咲くことの叶わなかった花たちは、今年それぞれの土地で花開き、人々の心に明るい春を運んでくれるでしょうか。

花を手向ける

神仏や死者の霊に物を供えることを「手向け(たむけ)」といいます。手を向ける、手を合わせる、合掌するという、日本人特有の自然観に根ざした言葉です。お供えが花の場合は、「手向け花」。花を実りの先触れととらえ、古くから花に特別の思いを寄せてきた日本人にとって、手を合わせたい気持ちの時に花が登場するのは、ごく自然なことと言えましょう。
多くの方がさまざまな形で被災地の復興のために活動していらっしゃいますが、今回は花に想いを託した活動をご紹介します。

想いを束ね、花を連ねる。

花を編んでつくった首飾りのことを、「花綵(はなづな・かさい)」と言います。「花綵列島」と言えば、日本列島の美称。四季があり、緑豊かな海に浮かぶ日本のさまざまな島の連なりを、花綵にたとえた名前です。
ガーデン/フラワーデザイナーである塚田有一さんは、大震災で被災した人々に対して何かできないかと考えていた時に、この言葉を改めて見直し、自分が花からもらっている勇気を思い出したと言います。花は「はなやかさ」と「はかなさ」を併せもっています。心のこもった花ならば、笑顔を取り戻せる。花に人が託す気持ちを、花の力を伝えたい。──そんな想いから、「花綵列島」プロジェクトを立ち上げました。2011年には青山コモンズでのイベントで「花綵カフェ」を開き、そのとき参加者の皆さんとつくったクリスマスリースを仮設住宅に届けました。今年は、世界各地から花束や言葉が寄せられるサイトを準備したり、花や緑にまつわるグッズを製作したり、植物と暮らすことを提案しつつ、被災地での雇用の創出や、記憶の風景を消さないためのランドスケープなどのプランがいくつか進行しているそうです。日本という風土とそこから生まれた心を見直すためにも、いろいろな人たちと一緒に花を活け、庭をつくり続けていくと、塚田さんは話します。それは過去から未来へつなぐ、まさに「花綵」なのでしょう。

被災地に咲くスイセン

もうひとつの話はマスコミでも取り上げられたので、ご存知の方も多いでしょう。園芸家の柳生真吾さんは、震災1ヵ月後に被災地を訪れた時、瓦礫の中にぽつりと咲くスイセンの花を見つけ、その輝きに心を打たれたといいます。被災された方がホッとできるスイセンの花を、来年の春にはもっと咲かせたい──そんな想いから、「あなたの庭のスイセンを被災地に咲かせよう!」プロジェクトを立ち上げました。
スイセンは花が終わると次の季節のために球根を大事にとっておきますが、それを少しずつ分けてもらい、被災地に届けようと考えたのです。呼びかけに応じて届いた球根の数は13万個 ! そのほとんどは、全国の個人の庭やベランダからやってきたといいます。今年の春は少なくとも13万本の「想い」のこもったスイセンが、東北の地で花開くことでしょう。「毎年、春に咲くスイセンの花が、忘れてはいけない2011年という年のシンボルのようになってくれたら」と柳生さんは語っています。

かつては、「笑う」を「咲う」と書いたそうです。人が笑うとき、微笑むとき、そこに蕾が開き、花が咲く様子をみたのでしょう。2月15日付けの当コラム「冬の花」でも触れましたが、「幸い」の古語は「さきはひ」であり、花があふれ咲き満ちている状態が古代日本人の幸福感でした。
被災地の人々の心がほころび、花咲くために、私たちができることは何でしょう。遠く離れていても、月日が過ぎても、忘れずに想い続けること。そんな想いを、花を束ねるように束ねてみる時、そこに何か力がわいてくるような気がします。

大震災から1年たった今、みなさんはどんなことを考えていらっしゃいますか?
ご感想・ご意見をお聞かせください。

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