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桜の旅

桜前線が日本列島を北上しています。大震災直後の昨年は、お花見をするのもどこかためらわれ、複雑な想いで桜を見上げた方も多いことでしょう。しかし、あんなことがあった後でも、桜は例年のように美しく花開き、春の訪れを伝えてくれました。桜は、何もかも知った上で咲いていたのかもしれません。今年の桜を、みなさんはどこで、どんな想いで、ご覧になりますか?

日本人は桜好き

「桜が咲いたといって、国をあげてこんなに大騒ぎする民族は見たことがない」日本に移り住んで10年以上になるアメリカの人が、驚嘆を込めて語った言葉です。
たしかに私たち日本人は、春になると、桜のことで心が騒ぎます。その時季が来ると、いまかいまかと開花を待ちわび、咲けば咲いたで、花を散らす雨や風が気になって落ち着かない。それは、農耕民族として生きてきた日本人の歴史とも大いに関係があるでしょう。(そのことについては昨年4月6日付けの当コラム「桜に込める祈り」でも触れました)全国的に知られる桜の名所の他に、どこに行っても、それぞれの土地が誇る名桜・古桜・一本桜は全国に数知れずあります。「定年退職後はキャンピングカーを駆って桜を追いかける旅をしたい」といった声を聞くのも、桜好きの日本人ならではの発想でしょう。

桜のいろいろ

桜は植物学的に言えば、バラ科サクラ属に分類される落葉広葉樹。大きくは、山野に自生する「野生の桜」と「園芸品種」とに分かれ、日本には300種以上が存在すると言われます。
園芸品種の代表は、江戸時代の末期、江戸・染井村(現在の東京都豊島区)で生まれたソメイヨシノ。野生種のオオシマザクラとエドヒガンとを掛け合わせたもので、挿し木で容易に栽培できるところから爆発的に広まりました。
野生の桜の代表格は、宮城県以西の日本中の山林に広く分布するヤマザクラ。ソメイヨシノが全国に広まるまでは、桜といえばヤマザクラで、昔の花見の名所の桜もこのヤマザクラでした。東北北部から北海道に分布するのは、オオヤマザクラ(エゾヤマザクラ)。ヤマザクラに比べて大ぶりで紅色の濃い花を咲かせるので、ベニヤマザクラとも呼ばれます。3万本の桜で知られる花の山、吉野山に咲くのは、シロヤマザクラ。白い小さな花と一緒に赤い若葉が開くのが特徴で、その若葉が木によって異なり、開くにつれて色も変わり、山全体が微妙な色あいを醸し出します。
その他、富士山周辺に自生するフジザクラ、標高1000~2800mの高地に生えるタカネザクラ、桜餅の葉っぱとして使われるオオシマザクラ、江戸近辺で春のお彼岸の頃に咲くエドヒガン、白っぽい花が霞のように見えるカスミザクラ、沖縄などに多いカンヒザクラなどなど。土地によって、品種によって、時季によって異なるこれらの桜が、日本列島をさまざまな桜色に染め上げていきます。

桜の札所、八十八ヵ所

お遍路さんが巡る四国八十八ヵ所はよく知られていますが、「桜の札所・八十八ヵ所巡り」というのをご存知ですか?
これは、東北6県88ヵ所の桜の名所を選定し、札所のように旅することで復興を支援していこうというもの。「東北・夢の桜街道」プロジェクトと名付けられ、この春から本格的に始動しました。88ヵ所の桜名所は、一番の福島県三春「滝桜」に始まり、八十八番が青森県弘前公園。全国的に名高い公園から、知られざる一本桜までさまざまで、そのいずれもが東北らしい風情をたたえた桜だといいます。美しい桜が東北復興のシンボルになり、桜を観に出かけることが、そのまま被災地の応援につながるというわけです。札所だからといって、順番に回る必要はありません。気になったところ、行きやすいところから、毎年少しずつ東北の桜を訪ねてみるのもいいでしょう。復興への祈りを込めながら、桜を追いかけて東北へ。そんな旅ができたら、素敵ですね。

あたたかな春の光を全身にまとって咲く桜が、旅心を誘う季節です。桜を追いかけて行く旅は、この季節だけのぜいたくかもしれませんね。
桜を愛する私たちにできること──今年は、桜を追って、東北の旅に出かけませんか。実際に足を運ぶことができない時でも、毎年、春に咲く桜を観て、被災地への想いを持ち続ける。そんなことが、継続的な被災地支援にもつながるのではないでしょうか。

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