笑いの力
昔から「笑う門には福来たる」といいます。中国には「一笑一若」という言葉もあるようで、たしかに暗い顔をしているよりニコニコ笑っている方が心地よいし、福を呼べるような気もします。それで調べてみると、笑いには本当に心を癒やしたり、身体を健やかにしたりする力があるのだとか。今回は副作用もなく、お金もかからない健康法、「笑いの力」をお届けします。
遺伝子のオン/オフ
「笑うことが体にいいらしい」ということを科学的に突きとめ、世界に発信した学者がいます。筑波大学名誉教授の村上和雄さんです。村上さんは遺伝子の研究者で、かねてより遺伝子のスイッチ「オン/オフ」ということに着目してきました。
村上さんの著書「遺伝子オンで生きる」によると、人の大人の体には約60兆個もの細胞があるとのこと。細胞の構造はどれも同じなのに、爪や皮膚や髪の毛、心臓や目など、まったく違った組織をつくり、それぞれが固有の働きをするのは、まさに遺伝子のなせるわざだそうです。遺伝子が働かないと、私たちは何一つできない。心臓が動き、血液がめぐり、物を見たり、音を聞いたり、考えたりできるのは、すべて遺伝子のおかげです。
そして、長年の研究から、遺伝子にはスイッチのようにオン/オフする機能があることが分かってきました。たとえば、最愛の人をなくした悲しみで髪がまっ白になるのは、極度のストレスにより毛髪を作る遺伝子がオフになったと考えられる。また、喫煙によってニコチンやタールが体内に入ると、ガン遺伝子がオンになり、肺ガンになる確率が高まるそうです。遺伝子のスイッチ「オン/オフ」が私たちの健康を左右しているのです。
笑いと糖尿病
ストレスは体に悪いといいますが、実際には良いストレスと悪いストレスがあるようです。悪いストレスが加わると胃潰瘍になったり毛が抜けたりすることは知られていました。ならば反対に、良いストレスを与えれば体に良いことが起きるはず。このことを証明するために、村上さんは奇想天外な実験を思いついて実行します。糖尿病の専門病院と協力して、糖尿病の患者さんに吉本興業の漫才を聴いてもらったのです。
実験は2日にわたって行われました。1日目は正午にお寿司を食べ、午後から「糖尿病のメカニズムについての退屈な講義」を聴いてもらいました。その直後に血糖値を計ると、平均で123mg/dlの上昇が見られました。
2日目も同じ条件で行いましたが、前日と違うのは、聴いてもらったのが講義ではなく、「吉本興業のB&Bの漫才」だったのです。すると前日の退屈な講義で123上昇した血糖値が、漫才で大笑いした直後の計測では、平均77の上昇に留まったとか。糖尿病患者の食後の血糖値上昇が抑えられたこの結果に、立ち会った専門医たちは驚いたそうです。
この実験データはアメリカの糖尿病専門雑誌「ダイアビーテス・ケア」に掲載され、ロイター通信が配信したことで世界中に知れわたり、大反響を呼びました。体に良い影響を及ぼす「笑いの力」が科学的に証明されたのです。
いい笑い、悪い笑い
「笑いは、体に良い笑いばかりではない。中には悪いものもある」と言うのは、以前のコラム「元気の源は自分の中にある」でご紹介した「源気功」を広めている栗原宏樹さん。例えば「薄ら笑い」「冷笑」「あざ笑い」などは、相手を攻撃するもの。邪悪な波動を出して跳ね返って自分に戻るので、自分も傷つくといいます。笑いなら何でもいいというものではないのですね。
良い笑いは、落語などで面白い話を聴いたときに出る笑い。ぎりぎりで終電に間に合ったり、寒い冬に温泉に浸かったりしてホッとしたときに出るのも良い笑いです。嬉しいとき、おかしいとき、おいしいとき、気持ちよいとき、幸福を感じたときに出る笑いも良い笑い。こうした"無邪気な笑い"は、血管を広げて血流を良くする。リンパの流れも促進され、自然治癒力が高まるそうです。
栗原さんは「良い笑いは人工的に作りだすことができる」と言います。実際に「源気功」の教室に行くと、自分が幸せだったときのことをイメージして、大声で笑うということを実践しています。最初は無理な笑いでも、ワッハッハと笑っているうちに、なんだか本当におかしくなってくる。「気持ちいいから笑う」ということもあれば、「笑うから気持ちいい」という現象も起きてくるようです。
他にも笑いの効果については、さまざまな研究結果が報告されています。笑うと脳の血流がよくなって頭がよくなる、笑うと唾液の酸性度が減り免疫力が高まる、笑うと痛みが鎮まるなど。スタンフォード大学のウィリアム・フライ教授は「20秒間の笑いで心拍数の倍増した状態が3~5分間続く」と報告しているそうです。大声で笑えば、それだけでいい運動になるのです。
お金もいらず、副作用もなく、心や体にさまざまな良い影響を与えてくれる「笑い」は、まさに健康長寿の万能薬。最後までイキイキとした人生を歩むために、ぜひ活用したいものですね。
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