消費を変えていかないと社会は変わりません
田中: 売る側としては、値段を抑えると量を売っていかなくてはいけないジレンマがつきものです。私たちがこんなことを言うのはおかしいかもしれませんが、ライフスタイルという意味では、短い期間でどんどん新しいものに買い換えていきながら生活する、そのライフスタイルを考えなおす時代にきているのかもしれません。環境の視点からも同じことが言えます。
岩附さん: そうですね。先日、あるアウトドア用品メーカーの方とお話した際、同じようなことをおっしゃっていました。「私たちの商品を選んで買っていただけるのはありがたい。でも、どんなものを買うときでも、購入の前に一度、本当に必要か考えてもらいたい」と。私自身にも反省すべき点があるので、印象に残っています。消費を変えていかないと社会は変わりませんが、その前にまず知ることが必要です。児童労働が問題視されている、コットンや、チョコレートの原料になるカカオ。どちらも私たちにとって身近なものですね。ACEが活動の拠点としているインドのコットン畑では、たくさんの女の子が働いていて、長時間労働と農薬の影響で健康を損なうケースが後を絶ちません。ガーナのカカオ農場には、人身売買されて奴隷のように働かされる子どももいます。価格競争、コストの追及があって、誰よりも賃金の安い、途上国の子どもたちの過酷な労働がある。私たちの生活が、地球環境を犠牲にして成り立っているのと同様に、こうした不幸な子どもたちの労働に支えられているかもしれない事実は、誰にとっても気持ちの良いものではないはずです。けれど、あらゆる問題がそうであるように、知らないと、ないものになってしまうのです。
大伴: 本当ですね。アメリカ、そして日本も、消費しすぎ、供給しすぎ、どちらも悪循環のような形でまわっている気がします。そこに隠れて、子どもたちの労働が存在することに思いをはせると、とても考えさせられます。
児童労働の現場では、地域単位で意識向上をはかります
田中: NGOとして児童労働問題の解決をはかる上で難しいのは、貧しくて食べていくのが困難な家庭の子どもたちを仕事から引き離しても、状況が良くなるとは限らない点だと思うのですが、ACEさんは、途上国の現場で、どのようなアプローチで改善をはかっていっているのでしょうか。
岩附さん: 多くの場合、まずは児童労働を容認する地域の意識を変えることに取り組みます。児童労働問題の背景には、貧しさそのものだけではなく、親が教育を受けていないなどの理由で、子どもに教育が必要であるという理解が得られない状況があります。特に女の子には、教育は要らないと考えられている地域が多いんですね。インドでいえば、ヒンドゥーの慣行で、女の子だと、将来嫁がせる際に必要なダウリーと呼ばれる持参金が、教育を受けることで高くなってしまうという事情も大きいです。ほかにも、学校の先生の質が低いので学校に行っても意味がないと考えられていたり、学校の施設やトイレが整っていないので、子どもも行きたがらないなどの理由もありますから、それらの改善にも取り組みます。
大伴: 一口に意識を変えると言っても、おっしゃったような多様な文化的背景もあれば家庭的背景もあるでしょうし、人の心を動かし、考え方を定着させるのは容易ではないと思います。
岩附さん: その通りなんです。基本的には、家庭ごとに児童労働にいたるまでの事情があるので、結局、個別の対応が必要です。一軒一軒、家庭をまわって、根気強く対話していく作業は欠かせません。ACEでは、地域、村単位で変えていくための期間の目安を3年として、その間に、私たちがいなくなった後も機能するよう環境を整えていきます。
大伴: 一軒一軒家庭をまわってですか・・・。ACEさんのように、そうやって実効力のある活動を模索して、熱意を持って取り組んでいる方たちには本当に頭が下がります。状況の改善ははっきりと実感できるものなのでしょうか。
岩附さん: 村のほとんどの子どもたちが学校に行くようになった例もあります。対象とする地域ごとには、改善を実感できますし、前述したように、社会的な意識の面でも、向上してきているのがわかります。世界的に見ても、実際に、児童労働者数は徐々に減ってきています。ただ、残念なことに、ここのところ減少率が落ちてきているんです。最も多いサハラ以南アフリカでは、今も4人に1人の子どもが児童労働に就いています。まだまだ深刻な問題には違いありません。
私たちは、この問題を変えることができる当事者なのです
田中: 問題が大きいほどに、自分との距離感を感じてしまったり、個人として何もできない無力感に陥りやすいのではないかと思います。そのような心境に、私たちはどうやって対抗していけば良いでしょうか。
岩附さん: 可能なところからでも、「自分から消費を変えていくんだ!」という気概を持ってもらいたいです。身の回りのすべてのものをフェアトレードで調達するのは、現実問題、難しいと思います。でも、だからといってあきらめないでほしい。先ほどご紹介していただいたように、欧米では日本より容易にフェアトレード商品を見つけることができます。普通のスーパーの棚にもいっしょに並んでいたりします。消費者の求める声が大きくなれば、日本だって変わっていきます。児童労働問題は、実は私たちにとって身近な問題で、ひとり一人が間接的な当事者なのですから、変えられない問題ではないはずです。
対談を終えて
大伴: モノを買う個人の立場としては、今まで以上に消費を考えて、選んでいきたいと改めて思いました。そして、商品開発をする立場としては、引き続き、児童労働のない調達先を選ぶのはもちろんのこと、何かもっと、積極的にこの問題の解決をサポートできないか、考えてみたいと思いました。
田中: 今日で、フェアトレードへの意識がより強くなりました。私は店舗での店長経験があるので、現在在籍している開発チームの中で、よりよい商品開発をするとともに、店舗のスタッフに、しっかりと伝えていきたいとも思いました。それから、うちの子どもたちにも、途上国や児童労働のことを教えようと決めました。
ACEは、2011年5月24日から8月23日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
116人の方から合計74,100円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
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