途上国で、女性の仕事をプロデュース!
増田:途上国で女性の経済的な自立を促す、というご活動に興味があるのですが、具体的にはどんなことをしているのですか。
高木さん:国や地域の状況によって異なります。女の子が学校に行けるようになるよう、地域のお父さんたちに理解を働きかけたり、という将来のための地固めのようなことも行いますし、企業さんとの協働があってこそ実現できる独自のプロジェクトを立ち上げるケースもあります。バングラデシュでは、家庭用品のメーカーさんとの協働で、洗剤や石けんなどの商品の訪問販売を女性が担えるよう、コーディネーションを行いました。このプロジェクトでは目覚ましい成果が見られています。最初は、在庫管理はおろか、数の数え方から教える必要がある人たちですが、仕事の収入のおかげで、子どもが学校に通えるようになったり、中には土地や家を買った女性もいます。成功した女性が、販売員を目指すほかの女性、つまりは後進を指導することもあります。一番の成果は、仕事で結果が出たことや、周囲に認められることを通して、女性たちが自信を持つこと、自分たちの存在価値を見出せるようになることだと思います。そういうことって、途上国でなくとも、同じですよね。
増田:本当ですね。同じだと思います。今のお話をお聞きして、ぐっと彼女たちとの距離が縮まったように思います。自分のがんばりが周囲に認められて、自信がつく。日本人の私たちと、何ら変わりはないですね。
高木さん:まさにそうなんです。ですから、私たちの行う支援とは、女性たちが能力を発揮できるよう、環境を整えることです。当然のことですが、途上国の女性たちも、私たちと同様、本来能力を持っています。異なるのは、従来の役割の中では発揮するチャンスが極めて少ないという現実です。私たちは、女性たちの能力が、必ず地域や国のために活かせるものだと信じていますから、できるだけチャンスをつくりたいのです。
西薗:すごいですね!よく、「魚を与えるのではなく釣り方を教える」と聞きますが、まさにそれですよね。先ほどのバングラデシュの訪問販売のプロジェクトのような例は、ほかの国でもあるのですか。
高木さん:インドでは、保険会社さんと組んで保険商品の開発をしました。貧しい人たちでも加入できるよう、安価な掛け金の保険です。それを女性に売ってもらうんです。
西薗:それはさらに画期的ですね!
高木さん:インドでは、生命保険や傷害保険などへの加入が、日本のように一般的ではないんです。ほんの一握りの人しか入っていません。でも、スマトラ沖の地震以降、関心が高まっていました。目的としては、あの地震で夫を亡くした女性が、日本でいう保険の外交員となって、家計を支えられるようになれば、というのが第一にありましたが、保険を通じて「備える」という感覚を持ってもらい、防災意識向上につなげる狙いもありました。
増田:ケアさんのように大きな国際NGOになると、企業と組むことによって社会的によりインパクトのある方法を考えて、提供されているのですね。
東日本大震災の被災地で、ストレス緩和のための活動
西薗:東日本大震災では、初めて日本での活動を展開したそうですが、やはり女性にフォーカスした支援なのでしょうか。
高木さん:もちろん、震災直後の緊急時は、女性だ男性だと言っていられるような状況ではありませんでしたが、現在は、やはり私たちの強みを活かして、女性を対象にした活動に力を入れています。子どもや家のことで時間的にも精神的にもまったく余裕がない女性がたくさんいて、相当なストレスだったんです。
西薗:どんな支援をされたのですか。
高木さん:化粧品会社さんに協力いただき、美容プログラムを提供しました。自分のことは後回しでお化粧もできずにいた女性たちが、お肌のお手入れやハンドマッサージを試すうちに、表情が輝いてきて・・・。予想以上に喜ばれ、盛り上がりました。
増田:そうですか、女性視点の面白い取り組みですね。
高木さん:そうなんです。美というのは年齢も関係ないですね。いくつになっても、うれしいものなんだなぁ、と、はしゃぐ女性たちを見て、こちらもすごくうれしくなりました。
増田:カフェスペースも開設したとか?
高木さん:はい、現地で活動するうちに、寄合の場のようなものが求められていると強く感じまして。ほかの人とのコミュニケーションを断たれた環境というのは、想像している以上に精神的にきついものなんです。子育て中の女性は、特にストレスが心配でしたので、彼女たちが安心して交流ができるような、"ママカフェ"というのもつくりました。一杯のコーヒーが息抜きになると好評ですね。
西薗:女性ばっかり、と男性にうらやましがられたりはしなかったのですか。
高木さん:男性は男性で、「仕事に行く」役割を失うと、参ってしまうんですね。もともと家事など家庭内での役割が多い女性とはまた違う辛さです。そんなお父さんたち限定で木工ベンチを作るカフェを開いたこともあります。役割を奪われて、こもりがちになってしまう男性に活躍してもらうんです。それに、もくもくと夢中で行う作業がストレスの解消につながるんですね。今では、本当の意味での復興、そして自立に向け、微力ながら漁業や商業支援を通じて、経済的な支援も行っています。
西薗:なるほど。男性のためにも・・・。
企業での経験を、国際協力の仕事に活かす
高木さん:もともとケアが女性を支援する考え方の根っこにあるのは、多様性とか、ジェンダー(社会的、文化的に形づくられる性差)の視点です。当たり前ですが、私たちは女性を贔屓したいわけではありません(笑)。そもそも潜在的な能力を発揮できずにいる女性の力を、今一度みなで認識し、それを引き出すチャンスを作ることで、社会全体に影響し、ひいては貧困問題や差別等の是正につながると考えるからこそのことです。
増田:納得です。
西薗:実は今まで、ケアさんのような途上国支援を行う団体さんには、貧しい国の人たちに、ものやお金をあげて助けている人たちなんだろう、というかなり限定されたイメージしか持っていませんでした。企業とはまったく別の考え方や方法で、別のことを行っている人たちだと思っていたのですが、そんなことはなく、実はいろいろ共通点があるんだと知りました。
増田:ユーザー目線で求められていることを考えたり、先を見越し、結果を出していく前提で動く点などは企業と同じですよね。高木さんは企業でのご経験もおありなのではないですか?
高木さん:はい。大学のころから国際協力・開発の道を志してはいましたが、そうした道に進む上でも、民間を知らなければと考えたので。私の場合は5年間企業で働いていました。ケアのメンバーはほとんどそうですね。民間企業で、マーケティングやコンサル、広報を務めた人たちが、その経験を活かしています。
増田:皆さん、素晴らしいですね。なんとなくできることではないですし、なんとなく就職先に選ぶ職場でもないですもんね。学生時代から志していたというのも、感心します。
高木さん:出会いなんだと思います。私は大学で、環境問題を含めたグローバルな課題に触れる機会があり、視野が広がりました。すごくやりがいのある分野ですし、この道で一人前に食べていけるようになりたいと思いましたね。その中に飛び込んで仕事をしている今は充実しているとも言えますが、本当のところは、支援対象の地でケアが必要とされなくなるのが私たちのゴールです。貧困をなくすことをミッションにしているという点においては、究極は、任務終了の日を迎えるのが夢ですね。
対談を終えて
増田:個人的にも仕事の上でも興味のある分野なのですが、これまでこうした形で、国際NGOの方からじかにお話をお聞きする機会はなかったので、とても良い経験になりました。私は、商品開発で途上国の生産者と関わっていたため、いっしょにやっていくことの意義も、大変さも知っているつもりでしたが、今日でぐんと視野が広がりました。特に企業との連携プロジェクトについてのお話は刺激になりました。今後に活かしていきたいです。
西薗:私はこれまで、途上国の課題についても、ケアさんのような団体さんの活動についてもよく知りませんでした。女性が良くなることで家庭や地域が良くなる、という視点も、やはり持ったことがなく、今日お聞きしたお話は、私にとって新しいことばかりでした。自分から情報を取りにいったり、進んで問題について考えることをしてこなかったので、これからは自分なりにできることを探ってみようと思います。
ケア・インターナショナル ジャパンは、2012年5月24日から8月23日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
65人の方から合計27,500円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
実施中の募金券はこちら