人気を集める自国の民話
佐藤:現地の子どもたちはどんなストーリーを好むのでしょうか。
関さん:自国の民話は人気ですね。カンボジアを例にとると、知識階級にあった人たちがポル・ポト時代に徹底的に殺されてしまったのですが、教師や芸術家も例外ではなかったため、現在も絵描きさんがほとんど見つからないんです。そのため、口承で伝えられてきた民話を絵本にしようとした場合、「さすがにこれはどうなのか・・・」と思うような完成度の挿絵しかつけられないこともあります。それでも人気が出るので、やっぱり、生活に基づいたストーリーは、子どもたちの心を惹きつけるようです。
松橋:民話って、日本では、ちょっとおどろおどろしいものが多くないですか?
関さん:それが割とどの国でもそうなんですよ(笑)。ハッピーエンドはほとんどなくて、むしろひどい終わり方。首や舌を切られたりとか・・・。大人としては、とまどうこともなくはないのですが、おっしゃるように、日本の民話にしても、ヨーロッパのグリム童話にしても、けっこう残酷ですもんね。だからといって作品としてダメだということにはなりませんし、実際、その本は子どもたちのお気に入りになる。シャンティでは、こうした民話絵本を出版する事業も現在進めています。土地土地の重要な文化継承にもつながり、意義があると考えています。
文化のギャップ。「ネズミの二本足歩行はありえない!」
佐藤:なるほど。自分にとって本は、日頃の現実から逃れ、しばしの間別の世界に行くという手段として考えていたので、子どもたちが選ぶ絵本は生活に基づいたストーリーに人気が集まるとは意外でした。興味深いです。一方で、子どものころ絵本を通して初めて異文化に出会う、ということも多いのではないでしょうか。
関さん:そうですよね。日本でも長く愛され続けている外国の絵本がたくさんありますからね。自分の国や地域と違う風景や人、異なる文化に出会えますね。でも、これについてはちょっと面白いエピソードがあります。絵本が一般的ではない国で活動を始める際に、まずは日本でいう文部科学省や地元自治体の行政機関に支援の趣旨を説明に行きます。その際に絵本を見せると、「ネズミが二本足で歩くなんて・・・しかも服を着ている」「人間より大きなカブはありえない」などと言われることがありまして(笑)。
佐藤:あははは!そうか。そこは逆に、なかなか私たちは気づけないですね!
松橋:確かに、ありえないと言われればその通りですもんね(笑)。ネズミがホットケーキまで焼いちゃいますからね!
関さん:大人は、こんな事実とかけ離れたストーリーを子どもに与えるのはどうなんだ、といぶかしく思いながらも、子どもたちが夢中になると、結果、その作品の力を認めていくんですよね。名作は、どこに持って行っても名作だと思わされることが多いです。
松橋:ほかに、文化の違いでびっくりしたことはありますか。
関さん:そうそう、読み聞かせもですね。「読み聞かせ」が一般的ではないカンボジアでは、学校の先生も、声に出して読むのが恥ずかしいそうなんです。それもあって、なんというかもう、目も当てられないような棒読みで・・・。
松橋:なるほどねぇ。カンボジアの事情については、お話をお聞きしないと考えも及ばなかったです。でも確かに、読み聞かせ経験者としては、恥ずかしがる気持ちもわからなくはないです!
佐藤:それでも子どもたちは真剣に耳を傾けるわけですよね。
関さん:そうですね。結局、子どもたちの変化が大人の認識を変えていくんです。読み聞かせの場合も、子どもたちがあんまり目を輝かせて聞き入るので、先生たちもびっくりして、考えを改めるようになります。こうして教育の現場が、少し変わっていくんです。
子ども時代に出会った絵本が、道をひらくことも
佐藤:そこまで絵本の世界に熱中する経験をしたら、成長してからもなんらかの形で残りそうです。
関さん:シャンティの現地スタッフには、かつてのそうした子どもたちがいるんですよ。
松橋:それはすごい!実際に、子どものころ出会った絵本が縁になっているのですか?
関さん:そのスタッフは、両親を亡くして難民キャンプ内の孤児院で幼少期を過ごしていたころ、図書館で端から端まで読破したそうです。英語だってそこで学んだ、と言うんですよ。何よりも図書館が原体験だったと。また、スラム街に育って、そこに寄贈された図書館で子ども時代を過ごした人が、今は外交官になっていて、ある日シャンティの現地事務所を訪ねて思い出話をしてくれたこともあります。
松橋:それはちょっと、胸を打たれますね・・・。
佐藤:私は海外出張が多く、カンボジアにもラオスにも行きます。それらの国では、三世代がいっしょに暮らす家の中で、機(はた)を織ったり、籠を編んだり、木工を行ったり、リアルにものづくりが行われているのを何度か目にしてきました。そこには、物質だけでは語りきれない、豊かだとも言える世界がありました。日本人としては、ある種憧れに近いものを感じさえします。でもその陰で、読み書きができないゆえに、作ったものを適正価格で売ることができないような現実が隠れているかもしれないんですよね。
関さん:前述したように、「教育が必要」というと、日本の学校での風景を思い浮かべて、なんとなく気乗りしない感じがするかもしれません。先進国の価値観を押しつけるようにも感じられるかもしれません。けれど、子どものころ出会った絵本がきっかけで、立派に自立した人たちがいるように、子どもたちには、自然に学びたい意欲が備わっているはずです。そして、読み書きや計算といった基本的な教育がないために、大人になって生きるのが困難になることは、避けられない現実として起きています。押しつけの教育を持ち込むのではなく、絵本を通して、子どもたちの可能性を引き出すお手伝いがしたいと、私たちは考えています。
佐藤:仕事で訪れている国々の見方も、本に対する見方も、少し変わりそうです。これかれはちょっと別の視点が持てるかもしれません。
松橋:いやぁ、絵本の力はすごいですよね。久しぶりに、子どもに読み聞かせをしていたころの感覚が蘇りました。今思えばそうだった、と思い当たることも多かったです。
対談を終えて
松橋:今日は自分の知らない世界のことをたくさん知ることができた気がします。何より、人には、食べる糧と心の糧の両方が必要だということがよくわかりました。寄贈された図書館で本を読みあさった子どもが、大人になってシャンティさんのスタッフになったというエピソードはとても印象的でした。身近なストーリーにしても、遠い国のストーリーにしても、人気のある絵本は、子どもたちの心に、如実に突き刺さる要素が詰まっているんでしょうね。いいお話をお聞きできました!
佐藤:絵本に群がる子どもたちで、出張先のカンボジアでの出来事が思い出されました。私と同じ場所に滞在していたアメリカ人が英語を教えてくれるという話を聞きつけて、子どもたちが夜、どこからともなくわらわらと大勢集まって来ていたのを見たことがあります。子どもたちは、開始時間よりだいぶ前に、張り切って出て来ていたようです。みんな学びたいんだな、と思うと同時に、支援はいろんな形でできるんだと知りました。シャンティさんでも仕事をしながらできるボランティアを募っているみたいですし、自分にも何かできるかもしれないと思いました。
シャンティ国際ボランティア会は、2013年2月25日から2013年5月23日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
136人の方から合計47,250円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
実施中の募金券はこちら