自分のほうがちょっと先に「迷惑」をかける!
佐藤:赤石さんご自身はどうだったんですか。
赤石さん:私は非婚のシングルマザーなので、当時は世間から「ふしだら」の烙印を押されていたところはありました(笑)。それでもすごく恵まれていたんですよね。お金はないけど、つながりがありましたから。つながりって、時にはお金以上の力になるんですよ。
佐藤:その、つながりが、今はなかなか得にくくなっています。
赤石さん:そうなんですよね。つながりが希薄なのは、地域社会が変化しているため、主に構造的な問題ですよね。だけど今の人って、きれいな関係を良しとするじゃないですか。その潔癖さも一因だと思います。ほら、よく言うじゃないですか。「他人に迷惑だから」って。もちろん、それが正しい場面もあるけれど、「迷惑」の言葉が定義する範囲を考え直した方が良いと思いませんか?
佐藤:確かに、「迷惑をかける」ことを過度に恐れるというか、だから他人と関わらないというか。
赤石さん:でもね、迷惑なんて言い出したら、子育てなんてそれの連続ですよね?迷惑で、外にも出られない(笑)。
馬場:そうそう!泣いたり騒いだり転んだり。以前、階段でバギーを運んでるお母さんに手を貸そうとしたことがあります。子どもを連れて歩く大変さが身に染みていたので。ところが、きっぱりとした口調で、「大丈夫です」と気丈に断られてしまい、余計なこと言ったかな・・・としゅんとしちゃいました。でも、子育てって、ひとりで全部やろうとすると参っちゃうと思うんです。
佐藤:その通りだと思います。実際、親だけでは子育てできないですよ。それに、迷惑かけたくないと思う一方で、逆の立場だったら、自分が誰かに手助けできるのって、嬉しいことでもありますよね。
赤石さん:まさにそうですよ。だから、人間関係の中でのコツとしてはですね、自分のほうがちょっと先に迷惑かけちゃうんです。そうすると相手も頼みやすくなるから。
馬場:それ、いいですね!
佐藤:うん、極意かもしれません(笑)。
子育てのすべてをひとりで抱え込まなくていい社会に
赤石さん:それから、母親って、なかなか褒めてもらえないでしょう。迷惑かけないように頑張ってるのに、始終謝ってませんか?
馬場:謝ってます!外出すれば、子どもがぐずって「すみません」。子どもが風邪を引いて早く帰るから、職場にも「すみません」。当の子どもにだって、ママが働いてるからガマンさせて「ごめんね」って。みんなに迷惑かけて、みんなに謝って歩いてる。頑張ってるのに、「頑張ってるね」って言ってもらえない・・・。
赤石さん:ですよね。まだまだ、そういうことは女性に集中する世の中なので、シングルマザーでなくても同じだと思います。
馬場:子育て中でも男性は、保育園に迎えに行くとか、子どもが風邪気味だからという理由で仕事を切り上げたりは、基本的にはしないですよね。世の中に、そうさせない空気があります。女性の側が、仕事をしているか否かにはかかわらず、自然とやることになっている。
佐藤:だから、シングルマザーじゃないけどシングルマザー状態、という人がいっぱいいるんですよ。お父さんの帰りが毎晩11時だったら、そうなりますもん。シングルマザーと比べると、それでもはるかに苦労は少ないと思いますが、孤軍奮闘してなお肩身が狭いから、母親たちは言いたいことがたくさんあるかもしれない。
赤石さん:日ごろ頑張ってる分、時には愚痴を言って発散したいし励まし合いたいんですよね。そもそも女性は特に、「話したらすっきりした」というのもあるじゃないですか。みんなそうだと思います。
佐藤:同感です!
赤石さん:根本的には、子育てのしやすい社会が、誰にとってもいいと思うんです。子育てをしている人が、始終謝って歩かなくてはいけないのではなく、迷惑もお互い様と思えたり、子育ての全部を自己責任にしない社会。もっと言うと、女性にとって働きやすい社会で、シングルマザーも生きやすい社会が、男性を含めた誰にとっても生きやすい社会なのではないでしょうか。
福島の女性たちに寄り添う
馬場:しんぐるまざあず・ふぉーらむさんは、福島の被災した女性たちを対象にした活動も行っているのですね。
赤石さん:はい。この活動については、シングルマザーに限定していません。居場所づくりという点では共通していますね。基本的には「なんでも聞きます」というスタンスで、仕事の相談も、子どもの教育相談も受けています。
佐藤:避難に伴い、地域も分断されて、突然に環境の変化を強いられて・・・。ストレスの連続ですよね。
赤石さん:今も大変な思いをされている方はたくさんいます。母子で避難して、父親は仕事の関係で残ったので別居中というケースもありますし、自主避難をする、しないで意見が分かれ、夫婦関係がうまくいかなくなったというケースも。ですから、離婚はしていないけれどシングルマザーに近い状態である人も多いです。
佐藤:首都圏にも避難していらした方々がたくさんいらっしゃるんですよね。
赤石さん:はい、多いですね。都会は便利なようですが、心の準備もないままに突然移って来ると、戸惑うことばかりだと言います。はからずも縁を持つようになって改めて思うのですが、福島って本当にいいところなんですよ。海も山もあって、食べ物がおいしくて、温泉もあって。長年親しんだコミュニティと畑つきの家を後にして、東京の集合住宅に引っ越し、先の見えない生活をしているのですから、それはストレスだろうと思いますよね。
馬場:子どもがいると、仕事をするにも保育所とか、子どもの進路とか、考えなくてはいけないことも多いですよね。元の生活に戻れるかどうかがわからないと、人生設計もしづらいですし・・・。
赤石さん:いろいろどうしていいかわからないと、せっぱ詰って電話してくる人がいますね。「今日、会えませんか!?」と突然言って来たりして。そしてやっぱり、話すとちょっと安心して帰ります。
佐藤:聞いてくれる人がいると知るだけで、安心するんだと思います。シングルマザー支援の経験が活きているんでしょうね。
赤石さん:頑張っても頑張っても、なかなか報われなくて、つながりに乏しくて孤独で、先が見えづらくて不安で、という状況が共通しているんですよね。どちらも切実ですが、国の財政状況に照らすと、公的支援がこれからどんどん手厚くなる期待はできないですよね。私たちのようなNPOやボランティアを含めた民間の、人のつながりで足りない部分を少しでも埋めないと。弱い立場や困難な状況にある人たちのことを考えることは結局、私たちの社会をどうしたいのか、私たち自身につながっているのだと思います。
対談を終えて
佐藤:子育ては、自分が母親になって初めてわかることばかりでした。赤石さんのお話に、みんな同じことで悩んでいるんだと、再確認した気がしました。ただ、自分は、企業に所属していて、企業に守られている部分もずいぶんあります。経済的なことだけではなく、つながりにしてもそうなんだと思いました。そういうものを持たない人たちにとって、しんぐるまざあず・ふぉーらむさんのような存在がどんなにか心強いだろうと思います。気持ちだけあってもなかなか行動に移せない自分からすると、まわりのために頑張っている、赤石さんたちは本当にすごいです。お話を通して、こうした活動に少しでも触れることができて良かったです。
馬場:私は母親になってから、自分がかつて同じように育てられたことを「すごすぎる」としみじみ感じるようになりました。子育ては、そう思わせるほどの体験です。赤石さんのお話をお聞きしていると、自分とは立場が違うように思えていたシングルマザーの方のことが、とても身近に感じられて、悩みはほとんど共通しているように思いました。自分が今まで持っていた問題意識も、はっきりしてきたような気がします。親として、社会の一員として、社会をよりよくするために、今まで以上に考えないといけませんね。選挙ひとつにしても、気持ちを新たに臨みたいと思います。
しんぐるまざあず・ふぉーらむは、2013年5月24日から2013年8月25日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
106人の方から合計50,250円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
実施中の募金券はこちら