母国への思いと、震災の被災地への共感
枚田:難民認定された方々はどうでしょう。その先の人生を、スムーズに日本社会で生きていけるものでしょうか。
石川さん:これも残念ながらスムーズとは言い難いです。中には弁護士や医師、研究者だった人、5か国語を操る人など、高い専門性やスキルを持つ人もいますが、日本ではなかなか活かすことができません。
伊藤:それもつらいし、悔しいでしょうね。
石川さん:それでも少しずつ、希望を感じられることも増えてきました。採用されるまでは非常に大変なのですが、一度就職すると、職場の中で、「とてもあたたかく接してもらっている」と言う人が多いんです。救われる思いがします。
伊藤:あぁ、それは、お聞きして良かった。私たちも、日本社会の良い一面を知れてうれしいです。
石川さん:それから、起業して飲食店を営む人もいます。少し前にもミャンマー人の方が、人形町に「GOLDEN 孔雀軒」というラーメン店を開業しました。クジャクはアウンサンスーチーさん率いる国民民主連盟(NLD)のシンボルなんですね。"GOLDEN"も、私たちは、「ちょっとパチンコ屋さんみたい・・・」と思ったのですが(笑)、縁起が良いのだそうです。やはり母国の誇りを感じますよね。
伊藤:離れざるをえなかった分、後にして来た母国への思いがあるのでしょうね。
石川さん:東日本大震災の時、難民の中から、被災地に何かできないかという人が次々現れたんです。津波で何もかも流されてしまった被災者と、故郷を失った自分たちの境遇が、重なったんですね。他人事とは思えないと言って、ボランティアで現地に赴きました。想像を絶する光景が広がり、日本人ボランティアががれきの山を前に戸惑う中、難民チームがリーダーシップを発揮する姿はとても頼もしかったです。
枚田:戦乱や弾圧をくぐり抜けて来た人たちですもんね。
石川さん:そうなんですよね。根本的な生きる力とか、つらいことへの共感力が、強いように思います。
「おいしそう」「かわいい」から難民に関心を持つ
枚田:難民の皆さんもですが、石川さんたちのバイタリティもすごいです。一人ひとり個別に、しかも人生を左右することに対応する必要があるのですから、片時も気が抜けない気がします。専門性も必要だし、語学も必要だし、立派です。
石川さん:いやもう、体力勝負です(笑)!目の前に切迫した状況の人たちがいるので、やはり駆り立てられるんですよ。それに、協力してくれる人たちの支えあってこその活動なんです。企業を退職後、ボランティアで手伝いに来てくれて7~8年になる方もいるんですよ。ある日事務所でペルシャ語を話しているのを聞いてびっくりしたことがあります。いつの間にか習得していたみたいで・・・。協力し続けてくれる弁護士さんもそうですし、寄付を続けてくれる人もいる。そうした人たちのお陰で成り立っているんです。
伊藤:今後はどんなことに力を入れていかれるのでしょうか。
石川さん:やりたいことはたくさんあります。難民の起業を応援したいと、3年ほど前にマイクロファイナンス(少額融資)の事業を立ち上げました。これを広げていきたいですし、昨年は無料職業紹介事業の許可を取得して、人材紹介も始めています。定住のためには経済的自立が欠かせませんから、さらに力を入れたいです。あとは、認知を高めること、社会的理解を得ていくこと。そのために、まずは、この問題に出会うきっかけを少しでも多くしたい。最近では、「海を渡った故郷の味」という、難民の皆さんに教えてもらったレシピをまとめた料理本を出版しました。Café & Meal MUJI 南青山で出版記念イベントをさせていただき、おいしい料理を楽しみながら難民のことを知ってもらう、とても良い機会が実現しました。
伊藤:うちのカフェでそんな素晴らしい取り組みをしているのですね(笑)。いろんな料理がありそうでいいですね。私もすごく興味があります。
石川さん:料理本のほかには、クルドの女性たちが手づくりする伝統のレース編み"オヤ"のアクセサリーの販売も行ってきました。とってもかわいいと評判です。最初から「人権」についての話を聞いてもらうのは難しくても、「おいしそう」「かわいい」といったところから入って来て、自然と興味を持ってくれる人が増えているのは嬉しいです。日本の皆さんが、難民の人たちのつくる料理なり、工芸品に興味を持つことは、難民の人たちにとって、日本で生きていくための自信にもつながります。これからも頑張って広めていきたいと思います。
対談を終えて
伊藤:世界には平和の下で生活できない人たちが大勢いて、中には故郷を離れなくてはいけない人もいる。知っているつもりでも、これまで、特に関心を持つことはありませんでした。身近で出会わないし、支援団体のこともよく知らないし、自分との接点を感じにくかったんです。先ほど、飲食店を営む人がいるというお話をお聞きしながら、「自分が利用するお店にも、もしかしたらいらっしゃるかもしれない」と思ったら、急にリアリティが増しました。私のように知識がない人は、大勢いるでしょうから、もっと知るきっかけがつくれたらと思います。私は食に関わることを、自らのライフワークと位置づけているので、ご紹介いただいた料理本にある、まだ知らない食にも非常に興味がわきます。そこから知る異文化を通じて、興味を広げてゆくのも良い形なのかもしれません。
枚田:「難民認定1%以下」に衝撃を受けました。今までまったく知りませんでしたが、誰もが驚く数字ではないでしょうか。何とかならないものかともやもやします。難民について知らなかったのと同時に、それを支える活動をする石川さんたちのような人の存在についても知らなかったので、ただただ感心しました。難民の人たちにとってはなくてはならない存在ですし、冬に凍死の心配をしたというお話があったように、24時間落ち着くことがないような気がします。このように縁あって知ることができたからには、自分自身が最初の一歩を踏み出すきっかけにしたいと思います。大きなことはできませんが、うちの子どものおさがりの洋服を提供させてもらうとか、いかがでしょうか。
難民支援協会は、2013年5月24日から2013年8月25日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
94人の方から合計47,000円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
実施中の募金券はこちら