日本の離島や僻地でも
吉岡さん:子どもたちの病気の背景であったり、エイズの蔓延により、親を亡くす孤児が増えることであったり。活動を通じ、病気や医療が子ども達に及ぼす影響や結果を目の当たりにしてきました。どうしても治らない病気も残念ながら存在しますよね。けれど、せめて「大事にされた」という気持ちや、生まれてきた喜びを持って人生を終えてほしい。そういった海外での取組の中で生まれた思いを、最近では国内の活動にも活かしています。特に、「すまいるスマイルプロジェクト」という小児がんと闘う子どもたちに対する活動では、そのような思いを日本の子どもたちにも還元していきたいと思っているんです。
小林:具体的にどういう活動内容なのでしょうか。
吉岡さん:普段、病院で過ごしている小児がんの子どもたちを対象に、家族旅行をサポートをしています。重い病気の子どもたちは、常に医療機器を必要とするなど、家族だけでの旅行は難しいのが現実です。私たち医療従事者が旅行に同行することで、それを実現させ、家族との思い出をつくってあげたい。子どもやその家族の「心」のなかにある「医療の届かない場所」にも、目を向けていきたいんです。
小林:あぁ、それは素敵ですね。子どもだけでなく、ご家族の方たちも勇気づけられるのではないでしょうか。
吉岡さん:そうですね。これからは、医療支援というと専門家ではないからとためらってしまう人たちも活動に参加できるよう、移動手段や休憩場所の提供などを通して、協力してもらえる仕組みもつくりたいと思っています。
小林:国内では他に離島や僻地でもご活躍されているのですよね。
吉岡さん:国内でも医療の届かない地域がまだまだたくさんあるので、そういった場所に、医療従事者を派遣する事業も行っています。特に離島が多く、医療従事者不足で悩む長崎県とは、ジャパンハートで研修中の看護師を継続的に派遣する提携を結んでいます。
川瀬:でも、すべての離島に派遣できる病院があるわけではない・・・ですよね?
吉岡さん:そうなんです。病院がない場合は、医師や看護師が船で巡回しています。
川瀬:国内外でのさまざまな活動は、資金面でどのように支えられているのでしょうか。
吉岡さん:国際NGOには、企業からの寄付やODA関連の活動をメインにする団体も多いですが、ジャパンハートは主に個人の方のご支援により支えていただいています。
小林:個人として寄付をしようと考えたときに思い浮かぶのは、赤い羽根募金や赤十字くらいでした・・・。寄付者の方はどのようにしてジャパンハートさんをお知りになるのでしょうか。
吉岡さん:実は、ジャパンハートの場合は、代表がテレビ番組「情熱大陸」に3回ほど出演しておりまして、それが大きかったですね。番組を観て共感してくださった多くの方が、継続的に支援をしてくださっています。
原動力は、「自分の人生に妥協したくない」という気持ち
小林:孤児の施設運営や現地の医療従事者の育成など、現地の医療環境を根本的に改善するための活動もされていますよね。
吉岡さん:はい、そうなんです。ミャンマーの病院では、看護師を目指す少数民族のカレン族の女の子たちに研修をしています。実際に看護師になるには、試験を受けて看護学校にいく必要がありますが、研修では医療の基礎を教えています。「清潔であるとはどういうことか」とか、「患者さんにはどう接するべきか」とか。細かいところまで気配りのできる日本人の看護師が一緒に生活して、身を持って教えます。ときにはお互いにミャンマー語と日本語を教え合ったりすることもあるんですよ。時間はかかりますが、看護の基本を伝えることができていると思います。
川瀬:素晴らしいですね。地域密着で医療活動をするなかで、現地の人たちから医療従事者を育てていくというところまでは、なかなか行き届かない気がします。だけど、国の力を上げるためには、すそ野を広げていく必要がありますもんね。
吉岡さん:日本と同じように、ミャンマー人も働き者なんです。日本に親近感を持ってくれている方も多いと思います。ときに時間を守らないとか、困ることもありますが、私たちがきちんとしていれば彼女たちも応えてくれます。医療従事者が育ってくれているのは、お国柄もあるのではないかと思っています。
小林:そうなんですね。そのようにお聞きすると親近感がわきます。でも、地域に根ざして、現地の方ともしっかり向き合ってきたからこそ言えることなのでしょうね。そんなジャパンハートさんは、これからはどのような展開を予定されていますか。
吉岡さん:ボランティアがより気軽に出入りできる団体にしていきたいと考えています。ジャパンハートの活動が負担になりすぎては続かないと思いますので。医療従事者はもちろん、そうでなくても、たくさんの方に参加してもらえるような、その点においては、"ゆるい"団体であればと思っています。
川瀬:ゆるくつながりながら、より多くの人の参加により活動を展開していくというのは、今の時代にも合っているように感じます。
吉岡さん:はい。子育てをされている方なんかにも参加してもらいたいです。ミャンマーもだんだんインフラや生活環境が向上してきたので、お子さんを連れて、現地へボランティアに行っていただくこともできますし。普段、子どもに働く姿を見せることができない医療関係者たちにとっても、良い経験になると思います。私も息子2人を連れて行きましたが、働く父親の姿をじかに見て、父親が何をしているのか彼らなりに理解したことで、親子の距離がより縮まったと感じています。ミャンマーについてもそうですね。子どもたちはこれまで、父親があんまりしょっちゅう東京とミャンマーを行き来するので、「東京駅の次はミャンマー駅!」と思っていたくらい、距離感もわかっていませんでしたから(笑)。
小林:素晴らしい!お話をお聞きしているとあんまりご立派なので、「どうしよう、私の生き方・・・」って思ってしまいます(笑)。
吉岡さん:すごいと感心されることも多いのですが、いつも代表は、「人のためにやっているわけではなく、自分の人生がいかに良いものになるかを考えているだけ」と言います。そこからこぼれたものが、彼らに届いているのだって。本当は感謝される必要もないし、むしろこういう場を与えてくれてありがとうという気持ちだと。妥協をするのか、困難でもつき進むのか、私自身も、活動を通して「あなただったら、どうしますか?」と常に自分の人生を問われている気がしています。職業にかかわらず、自分がどう生きて、目の前の課題にどう対峙していくかが大切なんだと思います。
対談を終えて
小林:私には子どもが2人いますが、下の子は小さい頃病気がちで、家の近くに大きな医療センターがあったおかげでとても助かりました。自分の子どもを思うあまりに、「あそこの医者はこうだ」とか、「薬はこれがいい」とか、あれこれ情報を集めたり、評価したりすることを当たり前のように感じていました。選択肢があれば、少しでも良い医療を求めるのは自然なことでしょうけれど、国外に目を向けると、こんなに状況が違うのだと、今日は少しショックを受けました。人のためではないとはおっしゃっていましたが、吉岡さんご自身もお子さんがありながら、医療に恵まれない、多くの子どもたちのために活動されていることは、やはりとても立派だと思いました。
川瀬:私が無印良品のファブリック担当としてオーガニックコットンを扱う取組を行う際の事です。コットンの生産現地で、厳しい元締めのもとで買い叩かれている生産者と、それに疑問を持ち、生産者の生活を守るために奔走する会社の方に出会い、心動かされた経験があります。今回ジャパンハートさんの姿勢と取り組みを聞いて、そのことを思い出しました。おっしゃるように、自分のために行動されていたとしても、ご本人が思われている何倍もの力が周りに及んでいると思います。ご活動への情熱と、周囲の人をも動かすその波及力に、とても感動しました。
ジャパンハートは、2013年11月25日から2014年2月24日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
192人の方から合計84,500円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
実施中の募金券はこちら