現地に深く根差すことで、持続可能な活動を
前田:藤井さんはミャンマーに駐在されていたのですよね。
藤井さん:はい。ミャンマーに2006年から13年までの7年半赴任していました。私がいたところはヤンゴンから北に約600kmほどの中央乾燥地域に位置する村でした。
前田:ミャンマーの「子供の森」計画はいつごろ始まったのですか?
藤井さん:2001年に始まりました。ミャンマーにおけるオイスカの活動地域は、非常に環境の厳しい地域です。最も暑い時期は、毎日気温が40℃以上で雨はほとんど降りません。そのような環境の中で木を育てるということは本当に大変です。ちなみに今日着ている衣装はあちらの正装ですよ。
加藤:ちょっと気になってました(笑)。男性もスカートのような衣装をまとうんですね。
藤井さん:とにかく暑い国ですから。最近では都市部を中心に少しずつジーンズ姿も増えてきていますが、この服だと布1枚なので涼しく、しかも安価です。くたびれてきたら雑巾にもなるので、理にかなっています。
加藤:シンプルな暮らしぶりがうかがえます。ミャンマーの人々はどのような方たちですか。活動をすすめるにあたり、外国人に対する反発はなかったのでしょうか。
藤井さん:ミャンマーは国民の大半が仏教徒の国で、欲深い生き方はだめだとお坊さんに教えられているので、純粋でとても穏やかな国民性なんです。反発どころか、わざわざ日本からやって来てくれたと感謝する心を持っています。
加藤:ミャンマーの活動も、完全に現地の方に任せているのですか。
藤井さん:ほとんどの運営は現地のスタッフに任せています。現在研修センターには日本人一人に対して現地スタッフが30人ほどいますが、日本からセンターの運営費は送っていません。自立のために農産物の販売の方法まで研修センターで教えています。ミャンマーの場合はセンターでつくった米や卵、豚肉などを販売した収入で運営費をまかなっているんですよ。
前田:「子供の森」計画や農業支援だけでなく、いろいろされているのですね。
藤井さん:持続的な支援にはどうしても環境整備が必要です。衛生観念の指導もしました。私が赴任したときはまだ、トイレを決まったところでする、手を洗うといった習慣があまりなかったためです。ほかに、学校や道を直してほしいといった要望もありました。
加藤:国によっても出てくる課題も違い時間もかかるのでしょうね。農業支援を越えて、生活の見直しからしなくてはいけないとなると・・・。
藤井さん:例えば教育支援の場合だと、校舎を直したとしても、教育の質の向上や文房具の不足といった課題は残ったままです。「子供の森」計画に限らず、期限や予算を区切ると、どうしても一時的な活動になり、本質的な課題解決には結びつきません。そのため、国によっては40年以上にもなりますが、オイスカはできるだけ対象国に長く関わって寄り添って課題を解決しようとしています。
加藤:その国に溶け込んで総合的に支援されるのですね。ミャンマーの「子供の森」計画では、どんな木を植えるのですか。
藤井さん:主にマメ科等の乾燥に強い樹種です。国や地域によって、植える場所の広さや気候が違うのでその土地に合った樹種を選び植える間隔も変えています。ミャンマーでは2013年には1000本ほど植えました。乾燥が激しく10本のうち2本が育てば成功と言われる土地なので、間隔をつめて植えています。
前田:ただ木を植えるだけでなく、自分のふるさとの自然環境や、その育み方も学ぶことができるのですね。ミャンマーの「子供の森」計画の広がりはどうですか。
藤井さん:子どもたちがどんどん広げていってくれています。小学校で「子供の森」計画に関わった子どもたちが、中学校に進んだ後、自主的に緑化を始めてくれたこともあるんです。中学校はゴミが散乱し環境教育のプログラムもなかったので、自分たちでなんとかしなくてはと思ったそうです。このように、もっと広がってくれればいいと思います。
地域の改善に向かう子どもたち
前田:ミャンマーの子どもたちが中学校でもやってほしいといったように、子どもたちからコミュニティに広がるということもあるんですね。
藤井さん:そうなんです。親を中心にコミュニティの皆さんに協力してもらうと成功率がぐっと高くなります。活動を始めるとき、最初に村で活動の概要を説明しますが、そのときには村長さんや学校の先生たちをまじえ活動を理解してもらいます。植林のときには子どもたちの家族も参加することが多いですよ。
前田:学校にとどまらず、村全体の活動になるんですね。
藤井さん:ミャンマーではオイスカの研修センターは「日本学校」と呼ばれていて、学校や道を直したり農業研修をしたりとさまざまな活動をしています。それで知名度があるので、「子供の森」計画の説明をするために村へ行っても、たいていの人はオイスカのことを知っています。
前田:そうすると、村での活動もやりやすそうですね。親も喜ぶんじゃないでしょうか。
藤井さん:子どもたちが持つ親への影響は大きなものがあります。子どもたちは家に帰ると、今日はこんなことをしたよ、と親に話すわけですから。だから木を植える以外にも、畑をつくったり、コンポストで肥料をつくったり、紙芝居をやったり。いろいろな仕掛けをして子どもたちの心に環境への意識を育て、その親にも伝えられたらと思っています。
加藤:親子共通の話題にもなるし、環境意識も高まりそうです。「子供の森」計画に携わった子どもたちの意識の変化を実感されたことはありますか。
藤井さん:支援してくれる方への説明のためには植えた本数や面積といったデータを見せて説明する必要もあるのですが、そういった数値では表せない変化も、現地にいると見えてきましたね。目標数の植林をするだけにとどまらず、子どもたち自ら花壇をつくる学校がでてきたり。ミャンマーでも農業離れが少しずつ起こっていますが、自宅の畑に種を自主的にまいていると聞いたりすると、子どもたちの意識が変わってきていると感じます。
お互いが支援し合える関係構築を
前田:ミャンマーから帰国されたとき、日本の環境に対する見方は変わりましたか。
藤井さん:日本の自然ってこんなにすばらしかったのかと、あらためて思い知らされました。ただ、ミャンマーの田舎でのシンプルな生活から戻ると、日本はインフラもすごいし情報も物もあふれている一方で、人々は何か不安にさいなまれているように感じます。
加藤:ミャンマーの子どもたちと日本の子どもたちとの違いもあるのでしょうか。
藤井さん:子どもたちと交流し、日本の子どもは恵まれすぎているんじゃないかと言う海外からの研修生もいます。しかし、あまり自然に触れず、食べるものは冷凍食品やインスタントで済ませる子どもも多い。日本では自分たちが普段食べている物とその食べ物が育まれる大地とのつながりが見えないと言いますね。
加藤:日本は恵まれた国だと思いますが、現在のような都会化した生活では子どもの身近に自然がなくなっているというのは、本当だと思います。「子供の森」計画は国内では実施しないのですか。
藤井さん:日本では学校林など地域の森づくりや環境教育活動のサポートを行っています。また、「子供の森」計画に参加している海外の子どもたちを日本に招いて日本の子どもたちと交流をしたり、学校や地域独自でやっている環境保全やリサイクル活動等の取り組みを紹介しあうといった場を設けています。
前田:そういった交流でも、いっそう環境への意識は深まりそうですね。今後、新たに活動を立ち上げたい国はありますか。
藤井さん:これまで活動をしてきた国々はアジアが多かったですが、最近は中南米へも広がりつつあります。
前田:中南米ですか。それは一気に活動が広がりますね。
藤井さん:そうですね。2011年に東日本大震災が起こったとき、私はまだミャンマーにいました。村の人々は月給が4~5,000円なんですが、それでも「あなたの家族や親せきは大丈夫か?」と言って、村で募金を集めてくれたんです。富める国が貧しい国を支援するという単純な構図ではなく、困難な場面ではお互いが支援し合うことの大切さを深く理解した出来事でした。その橋渡しができるのは、私たちNGOのような現地に根付いた活動をしている組織だと思っています。オイスカでは、自然環境はもちろんのこと、世界の国々と日本の絆を守り育みながらさまざまな活動をこれからも展開できればと思っています。
対談を終えて
加藤:関心のあるテーマだったので、ひとつひとつの言葉に納得することが多く、とても勉強になりました。海外へのさまざまな支援のお話を通じて、都市と農村の間にあるギャップに気づきました。このギャップを埋めていくことが、日本国内でもこれからの課題になるのではないかと思いました。日本の次世代の子どもたちにも自然が大切だと思ってもらうために、自分に貢献できる何らかの形を探していきたいです。
前田:トイレのことなど私たちにとっては当たり前の衛生感覚ですが、国によって違いがあるのだと知りました。日本では人口減少が問題になっていますが、手入れする人が減って朽ちてしまう森林や竹林もあるので、今のうちに何か手立てが必要です。私も色々な国へ行きましたが、日本はきれいでいい国だなと思っています。次世代を担う子どもたちも、自信を持って「いい国だ」と言える国になればと思います。
オイスカは、2014年2月25日から2014年8月24日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
161人の方から合計58,010円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
実施中の募金券はこちら