エイズ孤児が、未来を考えられるようになった瞬間に立ち会って
秋田:いろいろな活動をされていますが、スタッフは何名なんですか?
小島さん:3人です。日本に2人、現地に1人
橘:たった3人ですか?!
小島さん:15人ほどのボランティアスタッフも手伝ってくれていますが、手一杯です(笑)。アフリカに駐在事務所を置くとコストもかかるので、今後は駐在事務所をなくし、現地の団体とパートナーシップを組みながら、現地のニーズに沿った事業をつくり、出張ベースで活動を続ける予定です。
秋田:その少人数で活動されていると、より多くのことを経験しそうです。印象に残ったエピソードはありますか。
小島さん:現地で出会った、13才のエイズ孤児の男の子が忘れられません。その子は両親をエイズで亡くした後、通学をあきらめ、長らく路上で物売りをして暮らしていました。けれども、プラスの支援で再び学校に通えるようになったんです。学校に通い始めてから、その子の目の輝きがどんどん変わっていって。そうしてある日、習いたての英語で「将来はパイロットになってたくさんの国に行ってみたい」と言ったんです。それまで、今日を生きることを考えるだけで精いっぱいだった子が、明日のことを考えて、将来の夢を持ったんです。その瞬間に立ち会えたことに、すごく胸を突き動かされました。
橘:子どもの将来を切り開くことになったんですね。私にも子どもがいますが、「将来何になりたい」ということを当たり前のように話しているので・・・、今日が精いっぱいという事実を聞くと、胸が苦しいです。
小島さん:私も4歳の息子がいます。親になってからは、より一層「生まれた地域が違うだけで、こんなにも可能性が変わってしまう」ということを実感しています。また、自分がいつ死ぬかわからないHIV陽性のお母さんたちの不安が、痛いくらいわかるようになりました。
「地域の選んだ地域の人」による、啓発活動の広がり
橘:活動されている地域は、やはりHIV感染者が多いのでしょうか。
小島さん:ケニア全土ではHIV感染率は8%前後ですが、私たちが活動している地域でのHIV感染率は30%以上です。
秋田:30%! 8%でも高い感染率なのに・・・。感染者の増加に歯止めをかけるのは、やはり難しいことなのでしょうか。
小島さん:アフリカの場合、HIV/エイズの正しい知識が広まっていないのが課題ですね。「さわっただけで感染する」「HIVに感染したのは前世に悪いことをしたから」など、未知の病気に対しての誤解がそのままになってしまっています。
秋田:最近は新薬もできて、HIVに感染しても長く生きられるようになっていますよね。そうすると結果的にエイズ孤児は減る気がするのですが、そういった治療薬の広がりはどういう状況ですか。
小島さん:統計上はケニアもウガンダも、HIV人口の7~8割には薬が行き渡っているということになっています。ただ、実感としては、薬を手に入れる方法や場所をはじめ、そもそもHIVが薬を飲みながら長くつきあって生きていく病であるということを知らないという人は、まだまだたくさんあるように感じますね。
秋田:まずは知識を広める必要があるのですね。
小島さん:そうなんです。感染経路についての知識が伝わっていないと、性交渉などによる感染の広がりを止められません。逆に、正しい知識があれば、帝王切開での出産や、母乳を粉ミルクへ切り替えることで母子感染を防ぐこともできます。
橘:HIV陽性の母が出産する際、子どもを感染させない方法があるのは私も初めて知りました。正しい情報を知ることは大切ですね。
小島さん:現地で普及率が高いラジオを使って、エイズ啓発の情報を流したこともあります。ただ偏見は依然強く、HIV陽性であることを隠す人も多いです。エイズ孤児たちも、親はガンや心臓発作で亡くなったと言います。エイズで亡くなったことを、周りに知られたくないからです。
秋田:エイズへの偏見を解消するために、他にはどういった啓発活動を行っているのですか。
小島さん:プラスでは3年前から、地域で正しい知識を広めるため、啓発リーダーを育成しています。啓発リーダーには村々を回ってもらい、エイズの基礎知識を教えるなど、偏見を軽減するためのワークショップを定期的に開催してもらっているんです。
秋田:啓発リーダーをされているのは、どんな方なのでしょう。
小島さん:仕事を持ちながらのボランティアの方々で、バイクタクシーの運転手や学校の先生、農家など職業もさまざまです。これまで約70名の啓発リーダーが活動しています。
秋田:みなさん自主的にボランティアをされているのですか。
小島さん:自薦他薦で、候補者は村人の前でスピーチをして選ばれています。ケニアは女性の立場が低いと言われていますが、寡黙な女性も活躍していて、男女比は半々くらいです。エイズで苦しむ地域の出身者で、なにか貢献できたらという思いを持ってくださった方ばかりです。
橘:地域の人が選んだ地域の人というのがいいですね。
小島さん:私たちは、どの活動でも地域の方々が主役ということを大事にしています。私たちが主導しすぎてPLAS依存にならないよう、地域を自分たちで変えていく形を築きたいと考えています。
秋田:地域や住民の意識において、変化は感じられますか。
小島さん:3年続けたことで、たとえばHIV陽性であることを隠していた住民の中から、啓発リーダーに相談を持ちかける人が少しずつ増えてきています。また、地域でHIVに対する差別的発言が出たとき、それをなだめる人も出てきました。時間はかかりますが、意識は変わってきています。
広く知ってもらうことで、多くの支援を届けたい
秋田:今後はウガンダとケニア以外にも支援を広げられる可能性はありますか。
小島さん:3~5年間はウガンダとケニアに注力します。その後、10年スパンで考えると、アフリカ地域でさらに支援が必要なところを視野に入れていきたいですね。今の私たちの組織規模では難しいのですが、今後は紛争後の地域などにもしっかり入っていき、今まで積み上げたノウハウで支援を届けることも考えていきたいと思います。
橘:ウガンダとケニアでは、先ほどおっしゃっていたペーパービーズ事業に力を入れていかれるのですか。
小島さん:そうですね。今はウガンダのみで事業を計画していますが、3年の内にはケニアにも広げていきたいと考えています。今後ペーパービーズを見かけたら、ぜひ手にとってみてくださいね。
橘:おしゃれでエイズ孤児の支援ができるなんてすてきですね。私たちが応援できることとして、他に何かありますか。
小島さん:ご寄付のほかに、チャリティパーティなど大きなイベントで企業さんからボランティアを派遣してもらい、受付や販売などを手伝ってもらうこともあります。また、エイズ孤児問題について広く知っていただく機会が大切だと考えているので、多くの企業さんに企業内セッションの場を提供していただけたらと思います。
対談を終えて
秋田:なによりも組織を3人で回されていることに驚きました。仕事が忙しいなんて言っている自分が恥ずかしいです(笑)。
エイズについて世界の状況や孤児のことなど、知識がなかったので、知る機会の大切さを実感しました。今後、教えていただいた多くのお話から、自分ができることについて、考えを深めていきます。
橘:今回の話は、プラスさんの活動だけでなく、エイズという病気について正しい知識を得ることができた貴重な機会でした。プラスさんの活動は、自分たちが全てをやるのではなく、地域の人を啓蒙し、地域の人が主体となる活動に育てるということ。共感できる素晴らしい活動を、応援していきたいと思います。