ニューヨークのセントラルパーク、午後3時。十日前に生まれたばかりという娘を抱いたお母さんとお祖母さんが、薄日のさすベンチに腰掛けてのんびりしたひとときを過ごしています。世界は今、大不況の嵐が吹き荒れていますが、人間の幸福のかたちは、景気の良し悪しにかかわらず、変わらない普遍としてそこにありました。
40丁目には、ニューヨークタイムズの本社ビルが、真新しい姿を見せています。建築家レンゾ・ピアノの設計による美しい高層ビルは、新しいニューヨークのランドマーク。このビルの一階に無印良品ニューヨーク2号店が誕生しています。すでにMoMAのミュージアムショップの中で親しまれてきた無印良品は、一昨年のSOHOの1号店、そして最新のチェルシー3号店とともに、すっかりニューヨークの街になじんできました。しかしながら、通りからながめる無印良品のお店は、日本のそれと全く同じ。どこに行っても、変わらないペースで、簡素の美を、静かに淡々と謳いあげています。
ニューヨーク、イスタンブール、ローマ、北京。2008年に無印良品はこれらの都市に新しいお店を出しました。世界のメトロポリス、ニューヨーク。かつては東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルとして、またオスマントルコの首都として約1500年の長きにわたって世界の中心として君臨した都イスタンブール。そしてまさに世界文明の中枢をつくったローマ。さらには、今後の世界文化の新機軸を担おうとする北京。この四都市に、無印良品はくしくも同じ年に出店を果たしました。アジアの東の端の文化と美意識がこうして世界へと還流している情景には、とても深い感慨と、胸の高鳴る誇らしさを覚えます。そのいずれの都市でも、無印良品は、すでになくてはならない存在として、それぞれの土地の人々の意識や暮らしに溶け込んでいるのです。まるで水のように。
無理をしないこと。背伸びをしないこと。暮らしの工夫を積み重ね、無駄を省き、低価格を目指すこと。しかしそれでも豪華さやパワーブランドに一歩も引けを取らない簡素の美を求め続けること。
無印良品は水のようでありたいと思います。水は穏やかで、不可欠で、いつも人の傍らにあり、憩いと潤いを提供します。酒のような華やかさはなく、香水のように人々を魅了することはありませんが、純粋であり続けることで、全ての人々の普通の健やかさを保証し続けます。穏やかな水は、年月を重ねることで、山をも削り、時には大きな自然の力の現れとして岩をも砕く力を発揮します。そのような力を秘めながら、あくまで悠々と、世界の隅々へ、人々の求める場所に、広がって行きたいと考えています。
世界は今、低調な経済の話題の中に沈み込んでいます。しかしこういう時にこそ、基本と普遍を丁寧に見つめ直し、一人でも多くの方々の暮らしに寄り添うことができればと願っています。どうか安心して、ゆっくりしたペースでいきませんか。無印良品はいつも水のように、あなたの暮らしを応援しています。