


MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト
トークイベント「団地が理想の家になる」
※このレポートは、2017年10月9日に無印良品 有楽町 Open MUJIで行われたトークイベントの模様を採録しています。
- 豊田
- 2012年当初は、両社が共同でプロジェクトをたちあげます、ということで記者発表をしました。そこでテレビとか雑誌に取り上げていただいたのですが、ほとんど何も決まってないような状態でスタートして、その冬にはもう入居募集を開始するような状況でした。6ヶ月ぐらいの期間で、立ち上げメンバーがどういったものを団地リノベーションでやっていくか、ということを話し合って決めていきました。実際の対象団地は、大阪でまず3団地。戸数は21戸でスタートしました。
- 長谷川
- 大阪の3団地で2012年に入居募集が始まりました。リバーサイドしろきた、泉北茶山台二丁団地、新千里西町団地という3団地。まずリバーサイドしろきたというのは、3つの団地の中では少し年代が新しい。これは大阪市の中の市内にあり、エレベーターもあって、高層で14階建てもあって、大阪駅からも近い市街地で面開発された団地です。あとの2つは大阪では泉北ニュータウンと千里ニュータウン。関東で言うと、多摩ニュータウン、千葉ニュータウン、港北ニュータウンというのがありますが、少し関西の方が発祥が早くて、千里ニュータウンは53年目になっています。泉北ニュータウンは、今年がちょうど50周年です。このような関西を代表するニュータウンで実験的にやってみて、どこが成功するのかということを検証してみようということで、この3つの団地が選ばれました。

リバーサイドしろきた

泉北茶山台二丁団地

新千里西町団地
- 坂田
- プロジェクト2年目からは、東京の方にも進出しました。その第1弾は高島平団地です。
- 高島平団地は皆さんご存知しかもしれないですけれど、8,000戸を超える団地で、URで一番大きなマンモス団地になります。高島平団地にはいろいろなイメージを皆さん持たれるかもしれないですが、1年前に大阪でスタートしたMUJI×URのインパクトが大きくて、それをぜひ関東で一番大きい団地でやってみたいっていうところで、高島平の団地を選ばせて頂きました。

高島平団地

- 豊田
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団地リノベーションをするにあたって、どういった考え方をしていくかを、2週間に1回ぐらいずっと議論交わさせて頂いた中で出てきたのが、3つの考え方です。
生かす、変える、自由にできる。
具体的な設計では、3つのポイントを考えました。「生かすところ」「変えることろ」「住み手が自由にできるところ」です。
まず「生かすところ」について、古いものを新しい価値で見直すというところが一番のポイントと思っています。実際、現地を拝見させて頂いて、団地の良さ、例えば日当たりや風通しといったものが非常に良かったのです。最近のマンションだと、容積いっぱいで作られていますので、そういった部分まで考えられているマンションは意外と少ないですけれど、40年前、50年前に建てられた団地は、本当に敷地が広く、日当たり、風通しが非常にいいという、住まいの中の本質的な部分を持たれているなということがありました。それをわざわざ大きく変えてフルリノベーションしてやる必要もないという考えに行き着きました。
逆にいうと古いものはいまつくれない。例えば、本当に細かい部分までつくることは、今考えると非常に難しい。50年経つと、経年変化をして色が変わってきたり、ビンテージのように本当に魅力的なものになっていることが、何回も見ていくとわかってきました。ターゲットはやっぱり若い人、30代、40代の方に入居して頂こうという中で、そういった方々にとっては、それが魅力的に映るんじゃないかなと考えて、まずは生かしていこうという方向から始めました。
2番目の「変えることろ」。そうはいっても、設備とか、どうしても老朽化していて、直さなきゃいけない部分っていうのは、もちろんあります。しかし、ただ新しいものを付け加えるということではなくて、安いものは使っても、安っぽいものは使うことはやめようと考えていました。本当にいろんなところの既製品を探して、安くて良いものを採用していきました。
あと3番目、「住み手が自由にできる」こと。賃貸住宅は、最初に間取りや仕切りを全部決められていますよね。住む人がそれに合わせないといけないというのは非常に窮屈という考え方がありました。最近は一つの住み方に固定されるようなことは古いので、できる限り自由にできることをつくってみようというのが、この3つの考え方になっています。

MUJI×UR Plan 01

- 豊田
- 実際につくったプランです。これがplan01で一番最初にできたプランになります。場所は大阪のリバーサイドしろきたです。和室が3つあって、上のところが寝室になっていて、キッチン、ダイニングがあってというようなプランですね。寝室は1個残しておいて、他を全部一室の空間として使っていくプランにしました。キッチンはダイニングキッチンに変えました。

MUJI×UR Plan 01

- 豊田
- これが、リノベーション前の写真です。古い柱や梁は全部壊さないで残しました。床も白、天井も白にしています。その中にこういった木の質感が入ってきている。最初は全部真っ白にしようかなと考えてはいたのですが、もとの質感がちょっと残ることで、全体が良くなってくるということがありました。最初に全部100%決まってから設計したということではなくて、壊しながらさらに設計も考えていった結果、こういうプランになりました。小天井の下には、使えるような高さにし、ゆるやかに仕切れるようなつくり方をしています。
- 長谷川
- 部屋を探す時は3LDK、2LDKという探し方をされると思うのですが、無印良品さんと議論をしていく中で考えたのは、「LDKという考え方を変えられないか」ということでした。LDKという考え方はすごく便利ですが、ここがリビングですよ、ここはダイニングですよ、ここはベッドルームですよ、と使い方を押し付けられているところがあります。我々呼んでいたのが「脱LDK」。URが普及させたDK、LDKスタイルをここで脱していこうということを議論していました。
- 豊田
- 実は無印良品の上層部も「なんで柱が残っているんだ?」というような意見は結構ありました。これがいいんです、ということで押し通しました。それぐらい現場としては自信を持ってやっていたので、絶対これならうまくいくと思っていたという思いもあってやっていました。

MUJI×UR Plan 04

- 豊田
-
新千里西町団地のplan04になります。和室を全部抜いて、ダイニングと、リビングと寝室、キッチンにしました。そして麻畳を敷いています。古い団地だと和室が多いですよね。和室があってそれをフローリングにするという選択肢も、もちろんありますが、フローリングにすると遮音性が落ちてしまいます。下の階の人に音が伝わってしまうことと、コストもあがってしまうということがありました。それでできたのが、この麻畳です。これは非常に表面が強くて、椅子やデスク、ソファーを置いてもへたりにくい素材です。
もと収納や押入れの部分は取っちゃうっという選択肢もありましたが、残しちゃいました。残して白く塗装し、室内の延長として使っていこうと考えました。これを残したことで、リビングの延長としてできたのが、結果的には面白い空間になったと思っています。

MUJI×UR Plan 08

- 豊田
- これは東京の高島平団地のplan008です。和室が2部屋あって、真ん中に押入れがあって、この2部屋を完全に分断されていた状態を、押入れをなくして全部抜きました。一体空間にして使ってもらい、キッチンを対面キッチンにしたというプランになっています。もともと2つに分かれていた部屋が、それを取っ払ったことによって、明るい空間ができました。

一室空間

寝室と大きなLDK

大きな寝室とLDK
- 坂田
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東日本でMUJI×UR 団地リノベーションプロジェクトを始めるときは、西日本で成功している事例があるので、そんなに苦労はなかったのですが、やはり賃貸住宅を管理する部署はクレームもいろいろ受けるので、それが例えば「麻畳に変更したら管理はどうするんだ」みたいな話や「汚れがつきやすいんじゃないか」といった意見もあったのですが、それにつきましても、一つ一ついろいろな方と意見交換させてもらいながら、対応方針を整理していきました。
高島平団地のもうひとつのプラン、plan009で特徴的なのは、水まわりがコンパクトになっているので、洗濯機置き場がないことで、どこに洗濯機を置くのか相当議論しました。最終的にはキッチンの脇に持ってくることを実現をさせまして。それによって、サンルームになるようなプランになったのです。

MUJI×UR Plan 09

- 坂田
- また、無印良品さんと一緒にやらせて頂いていく中で、皆さんの評価が高かったプランを実現していくといったかたちでコミュニケーションさせてもらいながら設計していくという、いままでにないようなかたちで、ものづくりができてきたっていうところが、一つ大きな評価だったなと思います。
- 豊田
- こちらが実際の施工現場の写真です。

一室空間

寝室と大きなLDK

大きな寝室とLDK
- 豊田
- 50年ぐらい前の図面をもとに実際にはがしてみると、図面と全然違ったりします。MUJI×URのリノベーション住戸は、仕上げもラフにしています。綺麗になりすぎると違和感があるので、あまり綺麗になりすぎないようにということを、職人さんとコミュニケーションをとりながらやってきたのですが、いままでURさんは「綺麗に仕上げよう」と職人さんにずっといっていたのが、「なんで今回は綺麗に仕上げちゃダメなんだ」みたいな話になって、そこが非常に苦労された点かなとは思います。

例えばこれ、クロスを剥がしたあとはこういう感じになります。
一般的にはクロスを張り替えて、綺麗になるんですけれど。ここではクロスを剥がしっぱなしのこういうボコボコ感もいいんじゃないかっていうことで、この上から塗装をして、仕上げています。職人さんはとても心配されるのですが、そういったのが味になるということを1個1個追求していきました。本当にいろいろ細かい部分、配管、配線周りも1個1個苦労して、詰めていきました。細部にこだわったことで、良いものができてくる気がしています。