高い評判を集めた2003年ミラノ・サローネ
ミラノで毎春開かれる「サローネ」という、世界的に有名な家具の国際見本市があります。2003年、無印良品がここに出展を求められました。これは、そのときの写真です。
展示場に選んだのは、サローネの会場から少し外れたところにある、古い工場の2階でした。僕らはかなり広い面積が必要だったものですから、急遽、そちらを展示場にさせてもらったんです。会場では、商品のサンプルだけではなく、「なぜ無印良品か」ということも手っ取り早く理解してもらうために、商品の隣に英文を添え、ギャラリーのようなつくりにしました。
右側は無印良品の商品で、プラスチックでできた、1個1000円くらいの引き出しです。これをたくさん持っていきまして、中にランプを入れて重ね、氷山のようなイメージで置いています。
次の写真では、展示場の奥に商品が詰まっている壁が見えます。壁面全体に商品を並べて、商品でつくった壁のようにしてみました。
また、当時開発を進めていた、小さなキッチンも展示しました。こぢんまりした家でも使えるようにと、カウンターの中にガス台やシンクなどを組み込んだものです。その反対側には、自転車なんかも持っていきました。そういったもので簡単なショールームをつくり、無印良品として、はじめてサローネへ出展したんです。
すると、これが大成功をおさめました。イタリアにいる人々の関心を、非常に集めたんです。連日多くの方が見に来られて、雑誌社や新聞社の取材もたくさんありました。
「West meets East」という言葉があります。ちょっと古い時代の言い方ですが、三宅一生さんが日本に帰ってこられたときにも、こういう言葉を使いました。「East meets West」と、逆に言ってもいいかもしれません。「東と西が出会った」ということです。
サローネで展示されたものは、僕らから見たらわりと見慣れた商品です。しかも無印良品というのは、ある意味で日常品で、変わったものも若干あるんだけれど、茶碗であったり、コップであったり、箸であったり、皿であったり、どれもごく普通に使っている。ほとんどが日常で使う、ごく普通の品物です。貯金して買いにいくようなものじゃなくて、だいたいがポケットマネーで買ったり、奥さんが買い物のときにちょっと買い足したりする。
じつは、そういうものの「東洋発」というのが、それまでのイタリアには、なかったんです。
僕らが学生の頃、あるいは卒業した頃というのは、ヨーロッパに行ってそういうものを買っていたんですね。これ、シャレてるじゃないかとか、まだ日本に入ってないなとか言いながら買うことが、楽しみだったり、喜びだったりした。
でも、それと同じような感覚で今、イタリア人が無印良品を買うんです。それは、品物がいいからということもあるんだけれど、東洋的なものをこれに感じているわけです。そこが、おもしろい。
その2003年のときだったか、イタリアのデザイナーでリッソーニという非常に優れた工業デザイナーを、無印良品の幹部の方たちといっしょに訪問したことがありました。すると、その売れっ子デザイナーが、僕らと話を始めるとじつにうれしそうな顔をして、ポケットや引き出しから、いろいろ出すんです。どれも、無印良品の製品なんですね。名刺入れや、小さい錠剤入れみたいなもの、100円か150円くらいで売ってる、半透明のケースなんかを、結構持っている。それで「どうしたの?」と聞くと、「前に日本へ行ったときに、すごく気に入って買ってきたんだ」と話してくる。そして、普段から使っているんだと、うれしそうに見せるんです。
それを見たとき、僕はひそかに秘密結社みたいな感じがしたんです。俺は無印良品のこと、口には出して言わないけど、じつはわりと好きなんだ、と。
デザイナーが、まず好きになるんですよね。これが、おもしろい。一般の人も、もちろん好きな人は好きなんだけど、例えば高価な照明器具だとか、高価なお風呂だとか、そういう高級品ばかりをデザインしている世界的に有名なデザイナーが、無印良品の名刺入れを出して「どうだ、俺も使ってるんだ」なんて言う。秘密の楽しみだ、といった感じでね。これが無印良品のある種の価値であり、おもしろさなんです。
無印良品の場合は、100円とか200円とか、そういう細々したものについて、使っている人が「これは無印良品なんだぞ」って言いたくなる。メガネケース、ピルケース、あとは私自身も使ってますが、ステンレスのワイヤーをねじ込めば輪っかになる50円くらいのキーホルダー。高価ではなくても、そのことを言えるということが、私は今の無印良品の価値になっている。僕はそう思うんです。
骨の中には、髄があります。であれば、僕らの生活の中にもあるだろう髄のようなものを、無印良品は狙いたい。極めるといったらオーバーだけど、そこに提言していきたい、発言していきたい。それが関係者にとっての、ひそやかな誇りになっています。