研究テーマ

ATELIER MUJIトークイベント「無印良品が考えるこれからの暮らし」採録(2/3)

2012年4月18日

このレポートは、2012年2月18日にATELIER MUJIで行われたATELIER MUJIトークイベント「無印良品が考えるこれからの暮らし」を採録しています。

これはオフィスビルですね。オフィスがこんなふうにあって、これ何とかなりませんかというような相談を受けて、これは結構難しいなと思ったんですね、普通すぎて。でも屋上に上がるとこんな風景が広がっていて、このビルの中に入ると、こんな感じ。ただ、あの風景があの壁の向こう側にあったんですよ。ここはもともとオフィスビルだったので、あまり太陽の光を入れすぎるとまぶしいからといって、ふさいであったんです。ここをばんと開けて、窓を開けられるだけ、がんとつくったわけです。よくよく見たら上のほうに少しだけ穴が開けられる。構造計算したら、隙があったので、そこに階段をとんとんとつくる。上に上がると、屋上をベランダにそのまましてしまったという感じ。
実はビルの屋上って、すごい可能性があるんですね。東京の一等地が使われずに残っているというのがビルの屋上で、バスタブが置いてあるのは、屋上って遊べるところだよという記号が欲しくて。ちゃんとお湯も出るし、これでお風呂に入れます。ものすごく気持ちいいと思うんですね、ここでビールを飲みながら。

都市の中のおもしろい隙間を見つけて、それをどうしていこうかというのも、リノベーションの醍醐味の1つというふうに思いますね。
これちょっと専門的ですが、附置義務駐車場といって、ある一定規模のマンションだったら1階にどうしても駐車場をつけなきゃいけない。でもここを駐車場にするとかなり悲しいエントランスというかファザードになる。そこで半分透明、半分透明ではないシャッターにして、この1階と2階をつなげてメゾネットにしたんです。ガレージハウスにしようと、出したらすごい人気になっています。
またうちの事務所のスタッフが、人形町の下が商店、上は住居というちっちゃな長屋を借りて、下を自転車のガレージハウスにして、上を住むという空間にリノベーションして、今住んでいます。もう商店としてはどうしようもないので、もう好きにやってくださいと言われて、そういうことをやっています。
これは勝どきというエリアの倉庫ですね。それで、リノベーションのおもしろいところの1つは、こういう運河沿いにはあまり行きませんよね。けれども魅力的なエリアが結構残っていて、勝どきもそういうエリアのうちの1つかなと思います。ここは住居ではなくて違う展開を見せるんですけれども、中がこんな感じなんです。僕はこれを見て、何て格好いい空間なんだというふうに思って、何かに使えないかと思っています。
今、どうなっているかというと、こんなふうになっています。これは同じ空間です。ビフォー・アフターですけれども。靴屋さんのショールーム兼オフィスに変わっているんですね。フローリングだけあそこの大空間にばんと敷いて、ガラスの球をぼんと置いて。やっているのは大きくそれだけです。ガラスの中が主にオフィスで、暑いときとか寒いときはあそこで。でも結構ミーティングは1年の3分の2ぐらい、半分ぐらい外で、外と中の中間でやっています。靴屋さんなのでここで靴を脱いで上がって、試着しながらいろいろやれるというふうなシステムになっています。

この運河沿いのあそこのベランダは、本当に気持ちがいいらしくて、ここでミーティングとか夕方にするとすごい盛り上がるとか言っていました。新商品発表会みたいな時は、いろいろな人を、バイヤーさんを呼ぶと言っているんですね。気持ちよさとか心地よさみたいなものを表現しなきゃいけない企業だったからこそ、こういうところでいろいろやって、PR効果にもつながっているというふうなことをおっしゃってくれています。
これタブロイドといって、浜松町にあるリノベーションの事例です。これは産経新聞の工場だったんですね。5年間ぐらい使われていなかった。ここで新聞を印刷しなくなって、このでかい空間がどうしようもなく使えずに、手をこまねいて5年間空き物件で経過していた。日の出駅からおりてすぐの高速道路側のビルで、普通の人もエントランスなんか入れるので、興味のある方はぜひ行ってほしいです。

ファザードにはばーっと文字が書いてあります。輪転機が置いてあった大きい区間はイベントスペースになって、ファッションブランドの展覧会があったり、オープニングのときはここでレディー・ガガがシークレットライブをやって、すごい大騒ぎになっていましたけれども、東京の中のちょっとしたシンボルになっています。ただ、これは新築だったらそんなに盛り上がっていないだろうし、そういう求心力も得ていないだろうし、多分おもしろがってレディー・ガガも来ないんだと思うんですけれども、その文脈からちょっとずれているところをどう使っているかというところに共感してくれている人が多い。
お風呂場だったところを半分だけ壊して、写真スタジオに使われていたり、オフィスになっていたり。あと、1階がエントランスになっているんですが、このエントランスがカフェになっています。このカフェはだれでも入れて、働いている人たちの仕事場にもなっていれば、ミーティングの場にもなっていて、ほかのところからもいろいろなお客さんが来る店になっています。
屋上はやっぱりこうやってばーんと広い空間になっていて、結婚式の2次会とかでよく使われているみたいです。こうやって余った空間を見つけては、使える空間にちょっとずつ変えていくという感覚がリノベーションの醍醐味です。
少し早回しで行きますが、これ独身寮ですね。今、シェアハウスってたくさんあると思いますが、シェアハウスの最初のはしりです。ちょっと機能よく仕上げて、食堂だったところはサロンみたいになっています。みんなが集まれるカフェ。プライベートはプライベートの部屋がありつつ、ご飯とかはここに集まってきてわいわい食べるというような空間になっていますね。
厨房だったところは、ビリヤード台を置いて、コミュニケーションができるような空間というふうに変わっています。
共同浴場だったところは、シャワーブースが並んでというふうにして、シェアハウスとしての機能は整っています。余ったボイラー室をスポーツクラブのやつを中古で買ってきて、ジムつきのシェアハウスになっています。こういうちっちゃな6畳ちょっとぐらいの部屋なんですが、このMUJIの有楽町のお店とタイアップして、プライベートの部屋はコンパクトなんだけれども、みんなで使うリビングはものすごく広いという空間で、人気を博して、あっという間に埋まってしまいましたね。
無印良品のリノベーションというのを、3年前かな、土谷さんと一緒にやった事例を幾つか紹介します。
これ、壁と棚を手がかりにするリノベーションというモデルです。最初は60平方メートルの普通のマンション。なので、これ結構皆さんの参考になるところが多いと思うんですが、60平方メートルの普通のリノベーションで、向こうが玄関、廊下があって、先にリビングがあってというようなどこにでもあるやつ。これをこういう間取りに変えます。左端玄関は一緒なんですが、入って、ちょっとL字形の特徴的な壁を覚えておいてください。あそこ壁だけL字形に立っていて、ぐるっとそれを中心に部屋が回れるようになっています。上に行ってリビングにも行ける、下に行ってリビングに行ける。下の通路の横にキッチンがあるというようなプランになっていて、上側が寝室、下側が水回りというようなプランに変更されています。
思い出してください。シカゴとかで見たときに少ない壁でも自由な空間というのがありましたよね。そういう空間をやれないかと。でも、この壁を手がかりに、つい家具を置いたり、棚を置いたりして、空間を新たにつくりかえていけるような余地を残した部屋というのをつくっています。壁と棚を手がかりにと。どういうふうに変わっていったか。
まずパターン1。1~2人暮らしの間は、例えば真ん中にテーブルがあってというような空間。でかいリビングルームがあって、ちょっと寝室。真ん中にL字形の。壁一面本棚とか、ぴたーっとあるといいですよね。それやると普通はすごく高いけれども、MUJIのクラフトボックスがぴたっとはまるところに棚をつけているので、ぴたっと壁一面本棚、収納みたいな空間で、ゆったり過ごせます。

ホームパーティをよくやる人は、こんな置き方もどうでしょうか。今度は壁一面収納にしてみました。そこに引き戸がついているので、隠したいなら全部ずばっと隠せる。見せたいなら全部ばんと見せられるというような、超大収納ですね。
家族がふえる。子供が生まれました。でも、まだ小さい。L字のところにちょっと壁をつくって、多分数万円で壁を立てられるんですけれども、壁を立てて、子供が真ん中の部屋に来て勉強とかします。壁の向こう側に、空気はつながっているけれども見えないという子供部屋ができて、この辺にちょっとしたテーブル、机が置いてあってというような空間。
同じ空間でも、家族の増減とかライフスタイルの変化によって、自分で空間を変えていけるというわけ。MUJIの家具はモジュールがそろっているので、それを上手に合わせています。人間というのは狭い隙間があったら、そこにぴたっと何かはめたくなりませんか。アフォーランスという精神状態なんですけれども、それを利用していろいろな家具がはまるように余地をつくっていますね。寝室はちっちゃくていいじゃないと。第2弾もあります。第2弾は89平方メートル、少し・・・。
ちなみに、これスケルトンにして、全部つくりかえるのに数百万です。大体600万~700万円、700万円ぐらいですかね。うちの事務所でやるリノベーションで多い価格帯というのは、スケルトンにして全部つくりかえて、水回りまでやったとすると600万円ぐらいから1,000万円の間ぐらいが多い。60平方メートルぐらいだったら700万円から800万円とか、そのぐらいになるんですかね。どのぐらいぜいたくするかにもよります。天井は全部露出でいいよとかというならもっと安いし、水回りは変えなくていいよといったらもっと安くなるし、というふうに選択できます。なので、うちの事務所では中古を買って、全部スケルトンにして、やり直す人もいれば、水回りだけ残してやり直す人もいればというような。でも都心に近くてとかという選択肢をする人は結構いますね。
あとおもしろいのは、「できたら、これ幾らで貸せますかね」と聞く人が多い、最近の傾向で。「これだったら20万円ぐらいで貸せるんではないですか」と言うと、あ、住宅ローンより全然安いという計算をしている人が結構多いんですね。だから自分のライフステージとか、あれが変わって、どこかへ引っ越したとしても、ローンは家賃で返せて、なおかつおつりが来るというのに魅力を感じている人はどうも多い。リノベーションの場合、そういうことが往々にして起こっているというところがおもしろいですね。
これ第2弾目のビフォー。ちょっと見えにくいかもしれませんが、ここが玄関。入って部屋がばーっとたくさんあった大きい家でした、89平方メートルの家ですが。ただ、窓が大きくて気持ちよかったんです、ここは。今、こうなっています。真ん中にキッチンがあって、全部の空間がつながっているんですね。建具を利用して、建具によるリノベーションといって、ふすまみたいなものがばんばんとできて、空間が仕切れていく。
ここ、キッチンがあって、キッチン自体が大きいダイニングテーブルになっているんですね。お母さんは料理をしながら、子供たちに「勉強してる?」とか言えるような、コミュニケーションができるようなテーブルをつくりました。洗いものはこっちですね。あっちもこっちも全方位を、司令塔みたいなキッチンですね。
大きい廊下をつくります。1メートル60センチぐらいの広い廊下があって、そこは子供の遊び場にもなっていますね。本棚を置いてという。ただの廊下ではなくて、機能性のある廊下をつくっています。でもこれが全部をつなげて、ここに風がすーっと通り抜けて気持ちいい。ここですね。
ここキッチンのところなんですが、ここに例えば高い壁を置けば、向こうが見えない子供部屋、このままだったら、低いままだったら向こうが見える子供部屋。子供の成長によって家具を変えて、空間を仕切っていくというようなつくり方がしてある。
こういうMUJIのリノベーションのプロジェクトを幾つかやっています。一貫しているコンセプトは、プラットホームのような自由な空間をつくって、普通の2LDKとかだと間取りに家族の生活を合わせなきゃいけなくなりますが、逆に自分たちの家族の成長に合わせて間取りも変わっていくような家のほうが自由なはずなんですよね。それをやっていけないかと。MUJIの家具なんかをうまく利用して、それが使いやすいようなしつらえをしているというような空間です。床はナラとかのすごい無垢材のシンプルな足ざわりのいい素材でもってこうやってというような利用はたくさんしています。
最後に、これも土谷さんたちと何かちょっと絡みながらやっているというプロジェクトですが、団地の再生を今しています。これは京都なんですけれど、観月橋団地という、こういうどこにでもある築30数年から40年、これはもうちょっと古い40年代ですが、団地です。団地というと「えっ、どんなところ」と言う人も多いかもしれませんが、実は建物と建物の間は広くて、緑がすごい豊かだったりします。昔の団地。これはこれで結構味があっていいんですけれども、全部畳で障子やふすまがあってという空間です。でも、これ冷蔵庫置き場もないし、洗濯機置き場もない、昔のプランなので。今それを現代の生活に読みかえるような部屋をつくっています。

団地のいいところは、窓が大きくて、こっち側と向こう側、両方が窓になっているんですね、玄関のところ、風がすーっと通り抜けるという。今のアパートって片面しか窓がないではないですか。それに比べてすごく風通しがよくて、夏でもあまりエアコンが要らないぐらいよく風が抜けていましたね。
団地R不動産というのを最近始めました。これは日本じゅうのおもしろい、いい団地がたくさん集められています。エアコンもないですから、どうやったら風通しがよくて、どうやったら住みやすいかということを、すごい考えられてつくられているんですね。ただ、間取りが今の生活と全然違うので、冷蔵庫置き場がなかったり洗濯機置き場がなかったりすることもあります。しかし、現代の生活に合わせたようなリノベーションをすると、ベースの骨格はすごいいいので、ものすごい空間に生まれ変わってくれるんです。今、そのプロジェクトをURさんと一緒に始め、土谷さんとも、MUJIの空間と団地が融合したような新しい空間のつくり方ない? というようなことを考え始めたりしている。
さっき僕が話した団地の再生の物語は、このコラムのところに結構たくさん、しっかり書いてありますので、ぜひ見てください。これ京都なんですが、東京にもできればなと思っているところです。
というふうに、何だろうな、決して華美ではないし、ただ、かゆいところに手が届くようなデザインをしっかりすることによって、古い空間を新しい解釈でつくりかえて、デザインしていくというようなことをずっとやっています。例えば団地だったらものすごく高齢化して空いていたりするわけですよね。エリアとしても元気がなくなっている。ただ、こういう空間になって若い人が住んで、もちろん高齢者の方も住んで、新しいコミュニケーションが始まることによって、エリア自体が元気になる。そうすることで、また新しい住人がやってくる。何か日本とか東京の新しい住まい方のきっかけを、こういうリノベーションみたいなことを軸にして、ちょっとずつ増やしていきたいというふうに思って活動をしています。