研究テーマ

ATELIER MUJIトークイベント「無印良品が考えるこれからの暮らし─なぜ今暮らしを考えなければならないのか─」(2/4)

2012年8月1日

このレポートは、2012年2月25日にATELIER MUJIで行われたATELIER MUJIトークイベント「無印良品が考えるこれからの暮らし」を採録しています。

次の例を見てみましょう。これは家事についてのアンケートです。
家事って1日どのくらいすると思いますか。どのくらいしていますか。何時間ぐらいしますか。

-- 8時間ぐらいですかね。

土谷 家事8時間?

-- 家事・育児ですね、家事と育児。

土谷 それはもう給料をもらっていいですね、と(笑)。家事って、育児は除いて、平均すると4時間ぐらいと言われています。平均するとデータからは3時間26分です。共働きと専業主婦の方を比べると、専業主婦のほうがちょっと長いですね。これは単純に作業時間のことですから、実質家事に関わっている時間はもう少し長く4時間くらいですね。結構な労働時間ですよね。共働きの人はそれを朝やったり夜やったり、合間合間に家事をして、積み重ねていくのですが、結構時間をとられているものです。それをずっと、例えば食事について準備に何分ぐらい、そのときにご主人は手伝うのかとか、平日は手伝わないけど日曜日はどうなのかとか。これ、とても面倒なアンケートなんですよ。答えるのに20分ぐらいかかるんですが、1万人が答えてくれるって、とてもありがたいことですよね。
例えば料理。平日はほとんどご主人、家族が手伝いますね。これは、聞き方が難しいんですが。夫とか妻とかいう表現自体が誤解を招くこともある。つまり考え方として、妻が家事をしているなんていう前提で書くとクレームが来て、「なぜ女性だけが家事をする前提なのでしょうか」といった話も出て、確かにと。「配偶者」に変えたりして、聞き方もいろいろと苦労します。休日になると結構手伝ったり、夫婦一緒で食事をしたりしますね。最近では男の人も片づけはかなり手伝ってくれるようで、夫婦一緒に片づけをするって仲むつまじい感じがしますね。

この表は洗濯についてですが、大体1日1回以上、2回から3回とやるのが普通ですね。ちなみに洗濯機の置き場所ですが、通常は洗面脱衣室ですね。でも、本当にお風呂場の近くのほうがいいのかは考えるべきかもしれませんね。おふろの残り湯を使うからという声が多いのですが、コラムではこうしたデータをもとにもう一度聞いたり、干すのはどこがいいのかなども大切なことですね。

ベランダというのが72.5%ですが、実は意外にも室内干しが約20%~25%ぐらいだということもわかりました。
当然、子供がいる方のほうが洗濯の回数も量も多いということです。あと好きか嫌いかとか、負担がどのくらいだとか。あとはやはりみんなアイロンがけが一番苦手のようですね、「とても負担である」と答えています。

それから、皆さん買い物好きですね。買い物は家事にはいるか微妙ですが。また、お風呂掃除はそんなに負担ではなさそうです。干す・乾かすというのも結構好きですね。おもしろいのは、洗濯乾燥機を持っているのに、それを毎日使う人は10%しかいません。洗濯乾燥機もガスだとそうでもないですが、電気だと結構時間かかったりするので、基本的にはみんな太陽のもとで干したいと、そして一部の人は、いろいろな理由で部屋干しということなのでしょうね。

こういったアンケートをしながら、皆さんの意見を聞いて、また図面にして、それをまたコラムとして発信していくのです。

この頃からですが、いろいろなデベロッパーとコラボレーションをしてマンションの商品企画に関わるようになってきまして、皆さんからいただいたご意見をもとに具体的に形にしてみるということができるようになりました。それは読者の方にとってもとてもおもしろいことだったのではと思うのです。
例えばこれです。

「床に座って」という人が多かったけども、実際絵にしてみると「カウチに座って」というのがいいというのが理想で、80%ぐらいいます。一方「床に座って」というのは70%ぐらいですね。「2人がけソファ、夫婦と並んで」が65%ぐらいです。これは年齢別で見るとおもしろいですね。「2人並んで」というのは30代ぐらいまでですね。こうした意見をもとに「床に座る」暮らしができるモデルルームをつくってみるんです。つくってみるととても関心を持ってもらえますし、また意見もくださいます。そしてさらにもう一度それを具体的に作っていくというサイクルを続けていったのです。

アンケートを始めて半年ぐらい続けて、皆さんの意見をまとめていくつかの間取りプランをつくりました。

これは65平米のマンションです。ダイニングを充実させて大きなダイニングテーブルをつくり、食事をしない時もそこで仕事をしたり勉強したりできるようにしてみました。50%の共感度ですね。その一方、いやいや、個室をもっと豊かにしようかとか、ベッドルームの中にソファも置いて、個室の中に書斎コーナーもつけて、夫婦は夫婦の会話というか、そういう時間を楽しもうよとか。他には子供が少し大きくなったら子供の個室も披露した方がいいよねと。

この絵は、個室を充実させて共感度8%。「こういうことを考えるから引きこもりが起こるんですよ」とか、「家族というのは一緒に暮らさなきゃいけない」とか、いろいろな意見もいただきました。
でも、さっき言ったように正しいということは何もないのです。ここでは「いい」と言ってくれた人も、「よくない」と言った人のコメントも全部載せて、見た人が、「あ、こういう考え方はあるんだな」ということを皆さんに知ってもらえればいいと思っているのです。毎回1万人近い方がアンケートに答えて、さらにコラムを読んでもらい、そして回答率もどんどん上がっていくそんな時期でしたね、投稿のコメントがどんどん増えて…、そういう人たちが増えていくというのがとても嬉しかったです。先ほど言ったように、住み方とか暮らし方というものをどういうふうにみんなで自分自身の知恵としていくのか、また考えていくのかという事、こういう試みが浸透していくことはすごくよかったのではないかと思います。

話は元に戻りますが、これは収納のスペース充実型。リビングといっても椅子だけ置いてあるのですが、リビング・ダイニングがとても狭いですね。家具もほとんどないですが、納戸のように大きな収納室をどんと真ん中に置いて、そこにとにかくなんでも収納しましょうと。必要なものだけ出して、使い終わるとしまう。つまり家の中がきれいに整っていると家の広さは実際以上の広さに見えるものです。散らかっていると狭く見えますから、とにかくきれいにする。収納したものは見て全部わかるようにして、すぐに取り出せるようにしておく。とにかく徹底して収納する。これは「いいね」が23%でした。必ずしも共感度が高くはないのですが、でも実際につくってみようと思いました。つくることによっていろいろなヒントがありそうだと思ったのです。マンションのモデルルームで実際につくってみたらとても評判がよかったですね。

これはパーティプランというもので、半分がリビング。ここに玄関があって、床は同じ高さよりもちょっと上がっています。玄関を入って土間になっていて、そこでコミュニケーションもできるし、真ん中にセンターキッチンがあって、ダイニングがあって、ベランダとつながるリビングがあったり、というプランです。これも19%ぐらいですが、友達を呼んでというのは多くの人の理想のようですね、実際には人を家に呼ぶことは決して多くはないのですが。

こうしてアンケートを続けていくと、ユーザーの人からの意見はどんどん変わっていきました。「住み心地がいい家とはどんな家なのかを考えるきっかけになりました」「アンケートに答える度に、自分でも気がつかなかった住まいに対する要望がわかって楽しかったです」「いつかはシンプルで使いやすいスタイリッシュな無印良品の家に住みたいです」といったお声をいただくようになったのです。他にも、「広くない空間でも、いかに有効に使うか、非常に関心があります。それぞれライフスタイルがあると思いますが、家族や子供たちがコミュニケーションを自然にとれる住まいが大事じゃないでしょうか。明るい社会をつくるのは、まずは住まいからかもしれません。アンケートの結果を見るのがいつも楽しみです」というご意見も。このあたりから、家をつくるというよりも、暮らしを考えることそのものが大事なのだと思うようになってきました、答えを探すよりも、いろいろな住み方や暮らし方について共有することで、みなさんと一緒に新しい未来の暮らし方を考えていく…というように気持ちにだんだんと変わってきました。

その後もアンケートは進んでいきます。

これはバルコニーについて、「バルコニーを半分にして、サンルームみたいのがあったらどうでしょう」と。洗濯物を部屋の中で干す人がすごく多いんです。なので、サンルーム兼洗濯室といったものをバルコニー側に持ってきて、ここで干したらどうですかと。これは結構評判がよかったです。でも、「南側の明るいところに洗濯室を置くのはどうかな」というご意見もありました。

これは、マンションにも縁側みたいなのがあったらどうかなと。これもすごく評判よかったです。
他にも、「寝方」ということで、夫婦が別室なんですね。あと子供も別室なんです。家族全員、別々で寝ている。「やや共感できる」というのが28%。28%が別室で寝てもいいと思っているんですね。夫婦仲が悪いわけではないんです。細かいですがどうしてですかと聞くと、「寝る時間帯が違うので」とか「よく寝かせてあげたい」とか、結構優しいんですね。少人数ですが「いびきがうるさい」とか、「同じ空気を吸いたくない」とか(笑)、でも多くの場合は「寝かせてあげたい」ということでした。こうして「夫婦の寝室」というコラムで、全員別室はどうでしょうかと。このコメントはおもしろかったですね。「修道院みたいですね」「合宿所ですか」というご意見もあって。一方で「いいね」という人が結構いるんですよ。だから我々つくり手側も、常識にとらわれてはいけないですね。暮らしってどんどん変わっていくんですよ。かつて、ある人が「現代の暮らしはほとんどがホテルのようになっていくんだ」ということを言ったのですが、個というものの確立が必要だと言う人もいます。一方で無印良品の家が提案しているように、いやいや、もう壁というのは要らないんですよと。本当に部屋を大変大きな空間にする場合もあるし、個別に区分けするということもある。どっちがいいということでもないです。ただ、先ほど言ったように事例、リファレンスが、目に見えるものが必要なんです。それってどういうことなんだろうって、こうやって絵にしてみないとわからないですよね。絵にしてみて、あ!こういうことか、というように。それぞれが判断できるようになるわけですね。