研究テーマ

ATELIER MUJIトークイベント「無印良品が考えるこれからの暮らし─なぜ今暮らしを考えなければならないのか─」(4/4)

2012年8月1日

このレポートは、2012年2月25日にATELIER MUJIで行われたATELIER MUJIトークイベント「無印良品が考えるこれからの暮らし」を採録しています。

これは壁をつくらないで大きなワンルームのような家です。

先ほどの無印良品の家のように、空間を家具で仕切っています。無印良品のスチールユニットシェルフは家具を組み合わせていくことができるのですが、その家具で仕切っていくという暮らし方ですね。玄関があいて、大きなダイニングスペース。キッチンが真ん中にあって、奥にリビング、ベランダにつながって、そしてここがスーパーワンルーム、大きなワンルームになっている。どうでしょう、こんな暮らし方もあるんじゃないかなと思います。
キッチンも、壁側につくる。これはワークデスクをつくって、ここでパンをこねたり、パスタを手で練ったり、できたものを並べたり、そういうスペースを充実させる、そういうことですね。
いろいろありますね。ひとつずつ見ていると切りがないです。ただ、何となくたくさん考えているということは伝わりましたでしょうか。これはWeb上に掲載されています。
答えはないけど、こうして可能性を見てもらうことで、あ、こんなことまでできるんだというのがわかってもらえるかなと思います。
このキッチンなんかも、使わないときは壁の中に入れちゃうというのも手ですよね。幾つかの法律上、消防法などをクリアしなければいけないことがありますけども、実際にできるのです。
これはリビングですね。

先ほどから何回か出ているセカンドリビング、デイベッド(昼寝コーナー)です。どうでしょう。僕は昼寝というのは最高のあこがれだと思うんですよね。人間は怠惰になりたいとか、ごろごろしてテレビを見たいというのはみんなそうだと思うんです。律しなければいけないことを十分知りながら、でも一方でどこかで解放されたいという、その解放の象徴がデイベッドですね。

これはワーキングスペースで、ここは土間にしているんですね。

土間にすることで、自転車のチューンナップなんかも家の中でできるようになります。それからちょっと囲って、丸いワークスペースと収納をセットにして、外から中が見えないようにしてみたり。
もう、みんな同じ話に見えてきますよね。でも、少しずつ違うんですよ。
ちなみに、これは壁収納です。

無印の家具って本当によくできていまして、木製スタッキングシェルフ等は、どんどん組み合わせていけるんです。組み合わせていけるので、こういう壁に端から端まで、床から天井までぴったり入っていく。しかも、今はオーダーができます。完全なオーダーじゃなくて、既製のものをちょっと直すことができるので、こんな素敵なものが簡単にできるのです。しかも、そんなに厚くない。30センチぐらいの大きさですから、壁の一部をこういうふうに収納にすることで、家のもの、本棚とかも全部入っています。
壁一面の収納というのはあこがれですよね。さっきのウォーク・イン・クローゼットとか、ここは納戸部屋ですね。納戸部屋の中をつくるのは、無印の家具というのは本当によくできています。それから、何も置かないで暮らしてみるとかですね。すごい大事なことなんですね。テレビの下に何も置かない。モノには心があると僕は言うのですけど、「もの」って生き物のようで1個置くと仲間を呼んでまた「もの」がふえるんですね。どんどんふえていくんです。だから一度決めたら絶対に机の上に不要にものを置かないようにしないと、1個置いた瞬間から次がふえるという、不思議ですね。

それから最近、これは割とお勧めなんです。マンションの中のフロアを一部高くする。

この色のついているところが40センチ高いのです。こちら側が土間なんですね。だから料理をするキッチンは普通の高さなんですが、こちら側は40センチ高くなって、足のところは掘ごたつみたいになっていて、ごろごろ過ごすところ。これは何かというと、ごろごろ過ごすと立っている目線と床に座っている人の目線というのが違うので、立っている人のほうを低くして、座っている人は40センチぐらいで、ちょうど同じぐらいの目線になるのです。40センチ上がるととっても清潔ですよね、ほこりも積もらない。それから、床下収納として活用したりと、そもそも座っているので視線は低いですから天井高が低くは感じないですね。そういう意味で空間を有効利用するのです。例えばリノベーションなんかでも、段差をつくるのはすごくお勧めですよ。

あと、これはマンションの中でも入り口側を土間にしているんですね。これはリノベーションでもできると思うんですけども、マンションって風通しが悪いですよね。玄関をあけると風がバーッと抜けますけども、玄関側を解放するというのはセキュリティの問題もありますが、そこで、ここを土間にして、風が抜けるようにしています。風が抜けるだけじゃなくて、ちょっと緑を置いたり、ベンチを置いたり、先ほどのように自転車のチューンナップができる空間にして、風通しをよくする。それから、ここもガラリみたいなのをつくってみるのもいいですね、セキュリティのことも考えると効果的でしょう。反対側のバルコニーのところにも手すりの上にもガラリをつくって、風が通るようにしておく。最近、緑のカーテンってよく言われますが、そういうものを初めから建築的に解決していく必要もありますね、セキュリティは担保しつつ風通しをよくするということもできるかなと思っています。

それから、このリノベーションはかなり難易度が高いです。ふだんここにあるバルコニーのサッシ、このサッシを壊して内側につけちゃって部屋を狭くする。部屋を広くするというのはいっぱいありますけども、これからの時代はもう狭くてもいいと。それよりもモノを持たずにコンパクトに暮らすんです。エネルギーを考えることですかね。エネルギーを一番使わなくて済むのは家の面積を小さくすること。できない可能性もたくさんありますが、可能性がないわけではないですよね。

これは簡単ですね。今みたいな考え方ですが、いったんここを仕切ることでサンルームみたいにして、内部なんだけど外部みたいなしつらえにしていくという考え方です。

あと最近はペットですね。ペットについて考える。48%の人が何かしらのペットを飼っている。ウサギ、ハムスター、魚。室内犬、室外犬16%、猫で11%。だから、猫と犬で30%弱ということです。つまり、4人に1人の家庭には犬か猫がいるという、そういう感じですよね。そうすると、何かもうちょっと犬の居心地のいいところとか猫の居心地のいいところを考えてみようかとか。これは玄関の脇にずっとガラス張りのシャワールームがあって、犬用のシャワールームです。これは猫ボックスですね。

ここがパカッとあいて、トイレになっています。ここは寝るところですね。ここはご飯を食べるところです。上にも登れて遊べるとか、これは猫ボックスというか猫シューなんですが、これはコラムですごく人気がありましたね。ただ、猫の大変好きな方が、このトイレと食べるところの位置が近過ぎるとかわいそうだという意見もありまして、次のコラムで「猫の食事台」というのを考えているんです。猫のダイニングテーブルというのを考えてみようかなと思っています。ここがこうあいて、ここに換気扇があって、猫はトイレが臭いですからね。
まあ半分ジョークなんですが、4人に1人の人たちがそういう問題を抱えているということは結構考えなくてはいけないことかなと思います。ずっと言ってきていることは、正解があるわけではないということなので、小さなものでもその可能性を追求し続けることではないかなと。
このとおりに家ができるわけじゃなくて、こういう考え方を訓練することで、暮らしにこういうことがあったらいいんじゃないかなと、その思いにはせることがすごく大事なんですね。

さて、始めの設問に戻りましょう。何で暮らしを今考えることが大事なのか、ということですが、まず1つは、暮らし方というのは今までは与えられたもの、例えばハウスメーカーとかデベロッパーがつくって、つくられたものを買っていた時代だけれども、これからは自分たちで考えて自分たちでつくる時代に変わっていくと思うからなのです。これからは成長というよりは成熟という時代に向かっていくでしょうし、いろいろなものが余ってくる時代です。それから、少しゆとりも出てきています。同時に、合理的な考え方をするようになってきているようにも思います。
ちなみに、ものが余ってくる時代と言いましたが、特にモノの持ち方というのはこだわって考えたいテーマです。モノの持ち方は、生き方みたいなものだと思うのです。どんなものを、どんなふうに持って暮らしていくのか。日本人は、世界の中で最も「がらくた」を持っていると言われています。私たちの生活は、油断しているとモノがどんどん増えていってしまいます。少し過激な言い方をすると、モノというのはモノそのものに価値があるのではなく、そのモノの背景がものの価値を引き出すように思えます。いい器も美しいお椀も、整理整頓された空間があってこそ際立つもの。かつて日本人の暮らしには、こうした美しさがありました。
2つめには、家をステータスで買うのではなく、自分の身の丈で、また日常の暮らしをどうやって豊かにするかということをひとりひとりが考える時代になったのではないかと思うのです。自分がいいと思うものを、自分自身で見極めて選んでいくということです。
私たちは今、人口減や資源といった問題を抱えています。まさに今、我々は成熟というときを迎えているのです。成熟という時代に向かおうとしている今、暮らしという足元を見つめ直して、そして日々の暮らしを考えていくこと。ゴールがあるのではなく、そのプロセスを楽しむことが大事な時代になったとも感じるのです。
是非この機会に、もう一度自分の暮らしについて考えていただけるきっかけになればと思います。ありがとうございました。(拍手)