巡回訪問で見つかる、支援が必要な女性たち
宗さん:都市部に比べると福祉サポートがあまり行き届いていないこともあるのですが、家庭訪問すると、つらい状況に追い込まれている母親を見つけることがあります。たとえば、心臓病で寝たきりの3歳半の息子さんと、ずっと泣いていておっぱいも上手に飲めない0歳のお子さんを抱え、憔悴しきっている母親です。
前田:それは深刻な状態ですね・・・。
宗さん:震災後、家は無事だったものの、狭い空間でお姑さんと二人で子どもたちの面倒をみていて、精神的にまいっていました。下の子を保育園に預けることもすすめたのですが、お母さんもお姑さんも家にいるので入園条件に該当しなくて。色々な手段を模索した結果、東京へお呼びして乳児の症状に詳しいお医者さんを紹介しました。診察料はご自身で負担してもらいましたが、交通費や宿泊費は寄付の中からのサポートです。
永澤:そんなに追いつめられているのに、他の人には気づいてもらえなかったなんて。孤立という言葉の重さを感じます。
宗さん:こんなこともありました。40歳を過ぎて初産を迎える妊婦の方を、予定日の1カ月前に訪ねたのですが、ご夫婦に加え、実の父親と彼女のお兄さんが、狭い仮設住宅に一緒に暮らしていたんです。高齢出産ということで緊張していた上に、目の不自由な実父のお世話も彼女の役割で、心身ともに大変そうでした。
永澤:出産が間近に迫っているのに、介護まで・・。ひとりですべて背負いこんでしまっていたのですね。
宗さん:そうなんです。だからもっと周りの協力を得るようにアドバイスしたり、緊張した体をほぐす体操をするよう、すすめました。産後も精神的に不安定だったので、電話や訪問でなだめたり、周囲の方にも理解を求めたり。彼女の母親は亡くなっていてサポートする女性が周りにいないので、「こそだてシップ」が行なっているような支援が重要なんです。
前田:被災地の母親たちが孤立する一番の原因はなんなのでしょうか。
宗さん:「暮らしにくさ」かと思います。最低限のインフラが整わないと。仮設住宅は不便なところにあるので、どこに行くにも車が必要。でも夫が仕事に行くために使ってしまうし、かといって2台目を置くスペースはない。結果的に子どもを抱えて閉じこもる母親が増えるんです。
永澤:「暮らしにくさ」が、「孤立した子育て」につながっていく。震災から時を経て、新たに見えてきた問題ではないでしょうか。
被災地から見える子育て問題
宗さん:今、東北は出生率が下がっています。このまま出生率が下がり続ければ、この先復興を担っていく子どもが減る。復興が遅れれば、人もよその地域へと流出してしまう。
前田:悪循環ですね。
宗さん:そうなんです。仮設住宅で子育てをする若いお母さんに「そろそろ2人目は?」と聞くと、「まだ夫の仕事もままならないのに、仮設住宅の中で2人目なんてとんでもないです」と返事がかえってきます。
永澤:先が見えないと不安が先行して、子どもがほしくてもなかなか前向きに考えられないですよね。被災地でなくてもそれは同じで、子育てのしにくさは、日本の問題としてよく指摘されています。
宗さん:そうですね。物理的に孤立することは少なくても、精神的に孤立した子育ては、今は珍しくありません。東京でも、孤独な環境で、高齢出産の不安を抱えながら悩む妊婦さんの姿をよく目にします。
前田:確かに、隣に住む人に子育ての相談をするどころか名前すら知らなかったり、実家から離れていて預ける場所がなかったり。都市には都市の問題がありますね。
宗さん:東京での子育てに悩み、仮設住宅に住む実母の元に帰ったという話もあるんですよ。私たちの活動は被災のことに焦点をあてていますが、見えてくるのは普遍的な子育ての問題で、根が深いです。
永澤:子育てしづらいのは、「被災地だから」というだけの問題ではないんですね。
宗さん:被災地でも、地域住民が集落ごと仮設住宅へ移った大船渡市の長洞(ながほら)地区は、出生率が高いと言われています。お互い馴染みの深い人たちばかりなので、助け合いの意識が醸成されているのを感じます。子育て環境にも、それが反映されているのでしょうね。
永澤:妊産婦さんのサポートには、個別のケアも大切だけれど、コミュニティ全体での環境づくりが重要なのですね。
宗さん:そのとおりだと思います。安心して産める環境があれば、また産もうという気持ちにもつながります。その点は、地域を問わず、子育てを取り巻く問題の中心にあるテーマですね。
子育て環境の整備が、少子化対策につながる
前田:日本の少子化問題を考える上でも、重要なテーマなのではないでしょうか。
宗さん:本当にそうだと思います。少子化対策って、今いる場所で子どもを産んでもいいと思えるようにすることじゃないでしょうか。不妊治療ももちろんですが、子育ての環境整備に予算をつけた方が、より効果があると思います。
永澤:子育ては本来楽しいことのはずなのに、保育所の問題とか、経済的な負担とか、のしかかる不安も大きいですよね。
宗さん:わかります。子育て支援は、もう少し手厚くなってほしいですね。子育て中は、ほっとする時間が大切じゃないですか。お母さんがリフレッシュできるような、子ども預かりの仕組みができれば、もっと楽しい子育てが実現するはずなんです。
前田:同感です。張りつめた気持ちを少しでもゆるめられるのは大きいですよね。ジェスペールさんの活動はそういった「ほっとする時間」にもつながっているように思います。
宗さん:石巻市の「ベビースマイル石巻」という団体が、まさに成功例だと思います。お母さんたちが、子連れで参加できるイベントを週に2、3回行うんですが、毎月200組以上の方が集まるんですよ。
永澤:盛況ですね。お母さんたちに必要とされている、大切な場であることが伝わってきます。
宗さん:活動の輪がどんどん広がってくれればと思います。福島県では、当初あまり助産師による母子支援がすすんでいなかったので、「活動を始めて!」「ウェブサイトをつくって広めて!」と発破をかけました(笑)。活動が定着していき、3年目。ようやく知られるようになってきて、利用者もどんどん増えています。本当に支援を必要としている妊産婦さんには、情報が届きにくいもの。各地で広報のお手伝いにも力を入れていきたいと思っています。
対談を終えて
永澤:子どもが小さいときは、些細なことが気にかかってしまい、心配事がいくらでも出てきてしまいます。上の子が生まれたとき、訪ねてくれた保健師さんに「よくがんばってるわね!」と一言声をかけてもらえたことが自信につながり、心が楽になったのを覚えています。たくさんの子育てを見てきた人から出る言葉は、やはり力強いです。宗さんとお話することで、その力強さをより深く知らされました。不安な状況の被災地のお母さん方にとっても、助産師さんたちと関わっていろんなお話をされることが、きっと自信や元気につながると信じています。
前田:被災地とそれ以外の地域に、復興への温度差があるのだと改めて気づかされ、もどかしく思います。震災当時、おむつやミルクが不足しているという被災地の深刻な状況を知ったとき、母親としてとても他人事と思えなかったことを、今回のお話を聞いて思い出しました。それから、私自身、出産直後にストレスを感じていたとき、保健師さんのやさしい言葉にとても救われた経験があります。落ちこんで、一人になりたいと思っているときでも、話を聞いてもらえると気持ちがほぐれるもの。ジェスペールさんの取組みは、子育てに安心を届ける、素敵な活動だと思います。
ジェスペールは、2014年2月25日から2014年8月24日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
234人の方から合計108,300円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。
実施中の募金券はこちら